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神様なんか信じない僕らのエデン

 青臭さと甘さの二重らせん。

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作品情報『神様なんか信じない僕らのエデン』
著者:一ノ瀬ゆま
出版社:㈱リブレ(ビーボーイコミックス デラックス)

 第二の性(ヴァ―ス)が世界に認知される前夜譚。人類初のαとΩ。2人の男子高校生が口にするのは禁断の果実か。いや違う。作品を読むと全く違う手ごたえを感じる。

 創作の世界にだけ<実在>している概念、第二の性。オメガバースというワードで一ジャンルを築いている。 自分は、ある二次作品を通じてオメガバースに足を突っ込みかけたばかりで、深い知識を得ない時に、この『神様なんか~』を読んだのが逆に良いタイミングだった。

 <目立たない>ことをモットーに生きている喬織人は、独学で天文や生物への知識を深めている。彼が持ち前の知識と好奇心で、自分や<初めての相手>西央凛々斗に起きた心身の大きな変化を紐解いていく。
 仮に織人が、学校の成績が良かったとしても、興味や趣味がマンガ、ゲーム、音楽…だったとして、それでもひょんなことから自分たちの変化を紐解いちゃうという設定だとしたら、かなり説得力や物語の力は弱くなる。どこでそんな知識得ていたの、なんで紐解けちゃうのよ、と。

 某ラジオ番組を聴いていたお蔭で、登場人物の背景から来る物語の説得力というものにかなり懐疑的になってしまった。けれども、きちんと練られたものについてはガツンと、そのパワーを受け止める準備は出来ている(今話題のファスト映画と、フルで観る違いはこんな所にもあるかなと思ったりする)。

 この作品については、織人の背景が練られていたお蔭で、自分たちに何が起こっているのか説得力をもって語られている。そして、彼の知識のお蔭で<第二性の出現>は何を意味しているのか、まで描かれる。これはオメガバース作品を避けて通り、最近やっと読み始めた自分にリアリティを与えた。

 オメガバース作品を読んでいると、カリスマ性があり、頭もよく眉目秀麗なのがα性、定期的に発情期があり、年齢より幼く見えるのがΩ性であることが見て取れる。だが『神様なんか~』では大人っぽくて人気者の西央がΩ、スクールカーストの下部にいて地味な見た目の織人がαと設定されている。だが、物語が進むにつれて織人が<αらしく>なっていく。それは自分の中の複数の人格との間で引き裂かれながら大人になっていく思春期そのもののようだ。

 心と身体の変化を匂い立つほどの表現力で描く。この力強さに会いたくてまたページをめくってしまう。

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