トラス首相辞任早すぎませんか?

トラス首相が電撃辞任されましたね。
9月6日に女王から任命されて、10月20日に辞意を表明。
2か月も持たずに、辞意を表明することとなりました。
日本の政権は短命とよく言われますが、日本の政権と比べても爆速ですよね(笑)
そもそも、先月に、党首選を勝ち上がった、つまり党の支持を得て、組閣された政権なのに、なぜ、1か月で辞任に追い込まれるほど、支持基盤が揺らいでしまったのでしょうか?
今日は、そこら辺の背景を考えてみたいと思います。

まず、結論から申し上げると、政策不信により、急速に党内の支持を失い、党の最重要組織から辞任のプレッシャーをかけられたことが、辞任の直接的原因かと思います。
経緯を見ると、1922年委員会委員長との面会までは、続投を表明していたものの、面会後に突然辞意を表明しております。
10月19日:議会で辞任を求められ、首相は”私は戦う。逃げはしない”と強調
10月20日午前:トラス首相と1922年委員会委員長が面会
10月20日午後:トラス首相が突然辞任を表明
そのため、直接的な原因が委員長との面会とみられています。

では、そもそも、1922委員会とは何でしょうか?
こちらは、1922年に当選した第一党保守党の議員で構成された委員会となります。
それまで、党内にきちんとした組織がなかったため、彼らが主導で党内に組織を作りました。
現在でも、当該委員会は保守党の中で、最重要機関となります。
委員会は、内閣(および影の内閣と呼ばれる組織)以外の党内議員で構成されます。
基本的な役割は、内閣に党内の議論を伝達する役割を担います。
また、これが今回のテーマで最重要ですが、首相を解任する権力を持ちます。
党内議員の15%が委員長に対して要求を行った場合に、委員会は党首の信任投票を実施することができるからです。
信任投票では、下院議員の過半数の信任を得られなかった場合、党首を解任することが可能です。
委員長との面会内容は不明ですが、”このままだと信任投票を実施することになる”というようなプレッシャーをかけられたのではないでしょうか。
そこで、トラス前首相は”解任されるなら、自ら辞める”と判断したいのではないでしょうか。

では、なぜ、トラス前首相は、党内で急速に支持を失ったのでしょうか?
考えられる要因は大きく2つあるかと思います。
①トラス前首相の党内支持基盤は脆弱だった
②保守党の支持率低下を保守党議員は深刻視した

まず、一つ目の要因を考えてみます。
実は、トラス前首相の党内支持率はあまり高くありません。
トラス前首相は、保守党党首に2つのステップで当選しています。
①保守党議員による5回の党内投票による2名の議員を選出
②保守党党員16万人による決選投票
トラス氏はスーナク氏との決戦投票で、党員票を多く獲得し当選しました。
しかし、保守党議員による全5回の投票では、スナーク氏に全敗しています。
つまり、保守党議員の大多数はスーナク氏を支持しており、何かあれば、トラス氏以外を支持するような党内状況だったのです。

BBCニュースより


2つ目の要因を考えてみます。
実は、イギリスの与党は、日本と比べて、支持率に敏感です。
岸田政権は支持率が38%まで低下し、不支持率が逆転しました。

NHK 選挙WEBより

しかし、岸田政権が急遽解散すると誰も予想していないと感じます。
それは、政党支持率の乖離が大きいからです。

NHK 選挙WEBより

政党別支持率を見ると、自民党が大きく低迷していますが、野党第一党の支持率はそれよりも大幅に下回っています。
これでは、支持率が下がっても、自民党内に”このままでは政権が交代してしまう”という危機感も生まれず、党内の自浄作用も期待できません。
しかし、イギリスは違います。
イギリスは代表的な2大政党制と呼ばれ、長らく、野党第一党の労働党と保守党の勢力が拮抗しております。
実際に、2000年以降をみてみると、現在の労働党は1997年~2010年まで10年以上政権を確保していました。
そのため、支持率の低下は、保守党議員に強い危機感を抱かせます。

POLITICO (Lab(赤線):労働党、Con(青線):保守党)

Politicoの党別支持率を見ると、トラス政権になってから、労働党との支持率がさらに離れ、直近では、労働党よりも保守党は30%程度して回ってしまっています。
次回、総選挙は2024年に予定されており、やや先ちなります。
しかし、このままの支持率を維持してしまうと、次回選挙での大敗が濃厚です。
そのため、保守党議員の中で、“今のままではまずい、政権を交代させなくては”という動きが生まれたのは想像に難くありません。

では、なぜ支持率がここまで低下してしまったのでしょうか?
それは、トラス前首相の政策不信による金融市場の混乱が主原因と考えられます。
トラス前首相は、450憶ポンド(約7.6兆円)規模の大幅減税策を売りにしていました。
しかし、財源不明の政策であったため、金融市場が混乱してしまいました。
具体的には、下記のようにあらゆる面で混乱が生じてしまいました。
・対ドルで英ポンドが過去最安値まで売り込まれる
・英国債の利回りも上昇(債券価格は下落)
・国際価格の急落により一部の年金基金が資金難に陥りかける
・イギリスの代表的な株価指標FTSEも急落

ですが、金融市場の混乱で、そこまで与党の支持率に影響するのが不思議ではないしょうか?
確かに、日本で株価が急落しても、そこまで与党の支持率に影響があるようには思えません。
ですが、これには、イギリスならではの背景と、保守党ならではの背景があります。

まず、イギリスは、日本と比べ、金融資産の構成が大幅に異なります。
日本は、現金・預金が金融資産の過半を占めます。
一方、イギリスは、保険や年金資産が過半を占めます。

Yahooニュース 主要国の家計

保険・年金資産は、金融市場で運用されているため、イギリスの人々にとって、金融市場の混乱は、家計への影響が非常に大きいトピックなのです。
そのため、金融市場の混乱が、支持率に多く影響したのだと考えれます。

また、保守党の支持基盤も要因の一つです。
労働党は、低所得層や都市部出身者や若年層からの指示が多い党です。
一方、保守党は、中間層や富裕層や中高年層からの支持が多い党です。
富裕層は、株や債券などの資産を保有している傾向が高いと考えれます。
そのため、保守党の支持基盤がより金融市場の混乱に敏感なのだと考えられます。

以上のような背景があり、先月選出されたばかりなのに、スピード辞任につながってしまったのかと考えられます。

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