とうとうトヨタは国にまで文句をつけた

自動車業界の様々な不正がさらに発覚した。先日各自動車メーカのトップが記者会見を行い、お詫びと状況について説明したのはニュース等でもご覧になった方が多いと思われる。その会見をエンジニアとして聞いて会社によっては違和感を感じた。さらに会見後のマスコミや評論家と称される人の発言や記事等の多くにも疑問があり、今回はこのテーマにする。

特にトヨタ自動車は日野自動車に始まり、ダイハツや豊田自動織機に続いてさらなる自社での不正事実が発覚した。どの部分に不正があったのかなどはすでに各社報道等にて説明されているのでここでは中身については省略したい。ここでは型式認証の意味と今回の会見から感じる日本のおける製造業の衰退について記載しておきたい。

型式認証とは国が定めた試験を合格することで量産車の生産、販売が認許されるもので、これに合格すると国から安全な車のお墨付きを頂き、日々交通事故等が発生しているが日本においては自動車に瑕疵があったという裁判等が発生することがないのは型式認証のおかげである。まして自動車の運転は免許制度があり運転を誤ると運転者が過失ということになる。検査項目以外に耐久性不足等不具合があっても自らその内容を申告することで改修等を実施するリコール制度などもあり、必ずしも型式証明だけですべての案件に対して合格が得られるというわけではない。
自動車に限らず人命や怪我につながるような製品については安全マークなど基準テストをクリアーした製品であることが証明され、適用マーク等が貼られる。工業製品、電気製品、自転車や消火器などに貼られているのを見たことがあるかと思う。
このように製品が性能を満たしているというお墨付きは製品の信頼はもちろんのこと販売においても大きな意味を持っている。
その型式認証には多くの試験が伴う。製品を破壊しなければ得られない試験もあるし最終製品に至るまで設計変更があれば再度試験を行い、データを取らなければならない。一般的に考えても試験と言えば、そうだろうなと工業製品に深く関わっていない方であっても容易に想像つくと思う。今回はたくさんある試験の中で正しく試験されていないもののデータをその試験のデータとして提出したというものである。つまり試験を行っていないと同じだ。内容の異なる試験などはエンジニアから言わせると意味がない。もっというと自社にとっては意味があっても認証取得に関しては全く意味がない。
この会見の際に以前から気になっていたことがある。それは「現状お客様に乗って頂いている車は安全上問題ないから安心してください」という説明。その根拠も認証試験より、より厳しい試験でやっているから基準通りの試験であれば問題なくクリアーする、というのが根拠のようだ。ここでエンジニアとしてはとても疑問に感じる。自動車のように何年も製造されてきておりデザインや性能、使用する材料等は変わってきたとしても基本自動車であり、テストの内容は昔から大きく変わっていない。しかも多くの試験項目(具体的には43項目)は国際的に同じ試験である。日本独自の試験項目(4項目)は道路環境等に合わせた重量や寸法の内容に留まる。
現状ほとんど性能差がなくなった自動車の差別化には「より安全」とか「信頼性が高い(壊れない)」などがPRの中心となる。カタログ(最近は紙のカタログも廃止されてWEBの電子データのみになってきている)の昔は記載してあったようなエンジン特性や10モードの燃費、サスペンション等の技術的な構造等は記載もないし、購入者も見ない。
むしろ安全装置や自動車の利用シーンのイメージのみが記載されているだけである。
メーカも購入者も技術等の関心が薄れてしまっているのが現状だ。
そうなるとビジネス的に有効性が少ない認証試験にはあまり費用は掛けたくない。つまり出来れば自分達に都合の良いデータにて代替え出来ることが望ましいと考えたくなる。
(もちろん認証されなければ全く意味がないが・・・)
その結果を裏付けるのが認証試験よりさらに条件を悪くしてテストを行いクリアーしているという説明につながる。つまり衝突試験であればより大きな衝突をしても保護されることをテストしたことになる。ちなみに衝突の負荷は重量×速度となるので、1100㎏の負荷に対して1800㎏の負荷でテストして問題なかったのだから大丈夫というのがトヨタの主張だ。自分が設計者であれば社内ターゲット値が1800㎏に上げられたとしたら当然設計的な配慮(仕様)を見直すことになる。(強度をあげる、衝撃が加わらないようにクッション等を厚くするなど)1100㎏の設計で1800㎏でも変わらず問題ないのであれば安全率は高いが、もし車重量が重くなるのであれば燃費が悪くなり成り立たないはずである。
高価な材料で無駄に強度を上げることも設計的には評価は出来ない。
おそらく過去からトヨタの内規では1800㎏等より加重を掛けてテストしていた可能性がある。該当車体だけではないと思われる。なぜそう思うかというと、設計というのは評価基準を変えると設計検証がとても難しくなるからだ。1100㎏用の設計されたものと1800㎏用に設計されたものがあった場合それぞれの加重で評価するのは理解出来ない。むしろ同じ加重である1100㎏を掛けて、例えば変形量がどの程度少なくなっているとか比較することで設計的効果を数値的に得ることが出来る。シミュレーションで十分出来るという人もあるかもしれないが完成車レベルになるとモデルをいくら忠実にデータインしても100%実車と同じ結果はシミュレーションでは得られない。実際には個々の結果とシミュレーションを合わせこむ補正が必要になるからだ。もしシミュレーションだけで100%得られるのであれば実車試験など止めたら良いと思うがそうはいかないから実施している。設計検証であれば従来の負荷である1100㎏で実施し結果の差異を見ることで設計の確からしさを確認するはずである。
それに対して今回1800㎏で実施したデータを提出したというのは、元々設計上は安全率も含めて1800㎏でも認証OKレベルに収まるようになっていたことを実車で確認したと思うのが普通の考え方である。それゆえに1100㎏と規定されている負荷で行うことはどうせ合格するから行う意味はないとして省略し1800㎏のデータを提出したと考えるのが普通だ。
一見より安全なのだから問題ないということになるが、そうはいかない。認証というものは結果の数値がどれだけ基準に対して余裕があるかどうかなどは関係なく、その負荷のときにどうなったのかが認証基準であり、ルールなのだ。同じ試験、同条件であるゆえに正しい評価と他車との比較等が初めて出来るものであるので、結果的に1800㎏でも認証が取れますよという説明は意味がない。この辺の認証試験がなぜ行われて、なぜその条件なのかは少なくても実施する人は理解しておく必要があり、そのうえでテストを実施する必要がある。必ず試験条件にはたとえ昔の話であっても根拠があるはずだ。
数値や試験方法の改ざんが信頼を失墜させる理由は勝手に変更しそのまま型式認証されると認証の意味がなくなるからだ。安全サイドに振ったデータだから良い悪いではなく、その通りに試験されていなくても認証されるという誤った認識がメーカサイドに発生することが極めて危ない。結果的にもっと緩めてしまうことも簡単に出来るので設計的にうまく行かなかったときはそうする可能性があるからだ。今回の不正も軽視すると、1800㎏時のデータの約60%が1100㎏で比例だから、数値に60%を掛けた数値で良いじゃないかとなるのが怖い。だからこの数値ですから大丈夫です、安全して乗ってくださいというメーカの声は素直に受け入れるわけにはいかない。すべてが嘘かもしれないからだ。何か1点だけ表に出して目をそっちに向けてもっと大きな虚偽が記載されているかもしれない。そう思われても仕方がないぐらいの重大な事件である。特に各メーカが申請した内容で審査する項目は多く、虚偽の記載があってもわからないのが本当のところだ。47項目しか基本的にないのだから1項目でも偽りがあれば当然そうなる。自分が国交省の人間だったら全車種とはいわなくても定期的に試験の立ち合いなどを実施し信頼性をあげることを行う。そのために国のお金を使うことは無駄ではない。むしろ自動車産業という基幹産業のためになる。そのぐらいのことだと思っている。
さらに気になるのは豊田会長のコメントだ。前回ダイハツの時に驚いたのは会見時に調査報告書は読んでいないと明言していた。読んでいないのにコメントする?自分が誤れば沈静化するとでも思っていたのか?内容も知らずに頭だけ下げれば良いということか。
今回の会見でもコメントに驚いた。この場で言うのもどうかと思うが型式認証の在り方もどうかと思うと発言した。これは今決まった内容ではない。過去から決められた内容でその中でも43項目は海外でも実施されている内容だ。それなのに試験方法の記載している意味が十分伝わらず個々に認識違いが生じるとか、理解が異なるなどあたかも国の規格が悪いからこうなるのだと言わんばかりだ。これには正直呆れた。わからない、不明であれば国交省に聞けば良いだけの話だ。トヨタの中にはわかる人がいないならなぜ確認しないのか?
もし誤認があったのであれば他のトヨタ車種はなぜ試験条件下で試験が出来ているのか?特定車種だけ異なる条件でしたがこれは読み方、解釈の差ですというのはおかしい。
きちんと管理されているのであれば全車種間違っていましたの方が、説得力がある。
さらに時間がない、お金が掛かるなど言い訳しているが、あれだけの人材を抱えて5兆円も利益を出している企業の会長の言い訳にしてはひどい話だ。他メーカがトヨタぐらいの規模なら出来るが我々では難しいというならまだ同情の余地もあるがトヨタは言ってはいけない内容だ。もし社内の対応する部署に人がいないのであればその辺も含めて車種を制限するとかリリース時期を調整するとかやり方はいくらでもあるはずだ。他の不正の時と同じで必要以上に急がせているのは会社の都合だ。それを国のやり方が今どきではないとか、やり方を変えるべきだとか発覚したから口にするのは言語道断だ。
この発言を聞いたときに、自分が中学生の頃にちょっと悪いやつがいて校則を守らなったときに、この校則は意味がない、だれが作ったのだ、どうして守らないといけないのかと騒いでいた奴がいたが、当然学校からも生徒からも同情の声は上げらなかった。ルールを破る前にいうなら考える余地があるが、破ってからの抗議としてはまったく意味を持たない。今回の豊田会長の説明はまさにこれと同じだ。破る前にいうなら理解もするが、破ったあとにルールが悪いは社会人としてはアウトだ。同様にこの件について自動車専門家や自動車ジャーナリストなどという肩書を持った人の多くが制度を見直すべきという論調で自動車メーカは犠牲者的な論調が多いが忖度しすぎにもほどがある。順番がまったく逆である。もっというと自動車工業会の会長を3期:6年も務めた豊田会長は、その間に何をやっていたのか?ということになる。国交省と改善の委員会を設立するとか問題があれば出来たはずだ。それを今になって、しかも報告の記者会見で堂々と語っているのは、重大問題だ。これに気が付いていない豊田会長はかなり世間ずれしていることがわかる。今回の本質を理解していないと思う。技術的なことは興味がないのか知らないのかわからないが、少なくても型式認証の意味を理解していればこのような発言にはならない。これでは単なる車好きの発言でしかない。回りに助言するエンジニアがいないのか、排除してしまったのかわからないが、すでに裸の王様なのかもしれない。回りにいる人は豊田会長は気にしているがトヨタのことを本気で思っていない人達なのかもしれない。
さらにこれだけ問題が続いているのに日々ネット等で出ているのはトヨタの次期車種情報や新発表の車の記事が各社絶賛され日々掲載されている。もちろん記事を書いている人は忖度しているので自動車メーカに関係なくどの新車種もタイトルを読む方が恥ずかしくなるレベルの大絶賛記事ばかりである。
自分が会長であれば1週間でも良いからすべての工場を止めて見直す。もちろん1週間では何も出て来ない。ただしその1週間のダメージは業績も大変だし、もっというと社員に一番影響が出る。それでも各社員が親身になって自社のことを理解してもらうには口で言っても半数以上の人は何も感じない。人間でやっている以上、痛みというのはとても大事。
過去にエンジニアを褒めるなと記載したがそれと同じだ。
そこまでやらないと伝わらないことだと思う。5兆円もあるのだから会社がゼロからスタートするつもりでという言葉が本当であれば1週間全車種の生産を止めて立ち止まるべきだ。
そして会社として経営層も従業員も痛みを感じて事の大きさを感じるべきである。
これが出来なければトヨタ自動車は10年、20年先に大打撃を受けることになる。
今は売上トップであっても永遠に一位である会社は過去にも先にもない。必ず企業にもライフサイクルがある。かつてほとんどメイドインジャパンだった身の回りのものも、最近は20年前にはなかったブランドだらけだ。日本に車がなくなったらどうするのか・・・と強気の発言をしているが自分は日本の自動車も今のブランドとは限らないと思っている。もしかしたら日本の車なんて高くて買える人はわずかになってしまう可能性だってある。これから10年、20年経過すると個々が移動すること自体が見直されていて、そこに価値などなくなってしまっているかもしれない。産業の変化はあっという間で10年あれば企業は消滅することもある。サンヨーだってシャープだってなくなった。自動車もなくなるよということ。それを加速させるか、延命して次につなげられるかは自分達、業界の対応だということを忘れてはいけない。口では危機感と言っているが一番危機感がない人がだれか露呈してしまった。こうなってはそう簡単には戻らないし信用出来ない。
エンジニアというのは真面目だ。会長が認証試験そのものがおかしいなんて言えば社内のエンジニアは良く言ったと思っているはずだ。そのために社内では足りない時間を工面して文句言われながらも対応しているのだから。でも今後試験の規格が変わったとしてもそのマインドでは会社の先はないということを忘れずに。ユーザはかっこよい、速い、乗り心地が良いより、安全で信頼出来る車が最優先であるのは言うまでもない。命を預けて使っているのだから。そこをおろそかにするということがどういうことかを真剣に考えていかない企業は自動車メーカに限らず縮小するし、むしろ排除したい。社内では大したことではない、安全ですと言ったところでお客さんは見ている。逆に売上が落ちなかったらそれこそ自動車産業の危機だ。何を言っても理解していないユーザばかりの評価など良い車を作り続けていくには危険な意見でしかないからだ。すべての事象に対して正直であること、すぐに対応すること、優先順位を間違えないこと、謙虚であることという基本姿勢から見直す必要がある。企業風土は簡単には変わらない。まして大量の人で動く場合はなおさらだ。ただ前段でも記載したが、当時は多くの人が勝ち組だと思っていた電気メーカも縮小したりなくなったりしている。だれが想像しただろうか?自動車会社も例外ではないということを一番理解していないのはその中にいる人達だということを危惧する。日本で多くのエンジニアが活躍するためにも従来のすべてを見直して本気で取り組んでもらいたい。気づきが遅れるといろんな意味で致命傷になる。今回国交省も色々言われているが、安全サイドであるから大丈夫であるとは必ずしも言えないとトヨタに対して釘を刺して外部の論調も黙らせたのは良かったと思います。今後はメーカと共に対策を構築してほしい。
我が家にあるトヨタ車は売ってしばらく静観します。変わりの車は世の中いくらでもありますから。おまえが売っても何も変わらないというのはその通りで、好きとか嫌いとか安全とか危険ではなく、消費者がメーカに気付いてもらうにはこの程度のことしか出来ない。気づきというのはそういう些細なものからでも起きる。少数意見と感じるか、自分達の本当の顧客なのかを判断するのはメーカの力量だ。

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