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ウェスタンブロッティングの検出系は化学発光より蛍光の方が「定量性が高い」と言われる理由をたとえ話で書いてみる

今回は、専門的なお話を少し。

ウェスタンブロッティングをする時、最後のバンド検出を昔ながらの化学発光ではなく、蛍光ですると「定量性が上がりますよ」という話を聞いたことがある人もいるかと思います。

なぜ、蛍光で検出した方が定量性がよいのでしょうか?

ひとことで書くと
 化学発光:働いている人が作ったモノの数を数えてる
 蛍光:働いている人の人数を直接数えてる
という違いがあるのです。

ウェスタンブロッティングでは、メンブレン上のターゲット分子(見たい分子)に対して、まず一次抗体を反応させ、

次に、一次抗体に反応する二次抗体を反応させ、

化学発光の場合はこの二次抗体にHRP(ホースラディッシュペルオキシダー)という酵素が結合しているわけです。

このHRPが、化学発光の基質を分解すると、分解産物が光を発するようになるわけですね。

HRPは酵素、つまり触媒の一種で、基質が分解するという化学反応を触媒している(化学反応が起こりやすくしている)だけです。つまり基質をひとつ分解しても、酵素はなくならない。ひとつの酵素がいくつもの基質をどんどん分解していきます。

ですから、メンブレン上の、ほんの少ししか二次抗体がない場所でも、発光する物質がどんどんできるので、
「感度が高い」
というメリットがあります。

でも発光を測るということは、
 HRPという「分解するヒト」
を数えているのではなく、
 発光物質という「分解された結果できたモノ」
を数えていることになります。

例えば、ある工場の中で何人の人が働いているか分からないとしましょう。

化学発光のやり方というのは、働いている人を直接数える代わりに工場に製品の材料を運び込んで、例えば1時間後に製品がいくつできるかを数える、というやり方に似ています。

一人が1時間に10個の製品を作ることができるとしましょう。
そして、工場Aでは1人、工場Bでは10人が働いているとすると・・・

1時間後には工場Aでは製品が10個、工場Bでは製品が100個できるので、
「工場Bの人数が10倍多そうだな」
と見当が付きますね。

ところがこのやり方には欠点があります。
工場に運び込める材料の数に制限があり、1時間あたり製品100個分の材料しか運び込めないのです。

そして、工場Cでは100人が働いていたとすると・・・
1時間後にできる製品の数は、
工場Bでも、工場Cでも100個になってしまい、
「工場Bにも工場Cにも、同じぐらいの人数がいそうだな」
という結論になってしまうのです。

ウェスタンブロッティングに話を戻すと、メンブレン上のHRPの近くにやってくる基質の分子数には上限があるので、HRPがある程度以上多くなっても、発光の強さがそれ以上強まらなくなるのです。

(HRPがさらに多くなると別の問題も起こるのですが、それは今回は省略します。)

これに対して、
ウェスタンブロッティングの検出系に蛍光を用いる、
つまり、二次抗体に蛍光標識が付いたものを使うと、
どうなるでしょうか?

これは、工場に例えると、
工場で働く人に、ひとつずつライトを持ってもらって、
中で働いている人の数を数えやすくして、
「人数を直接数える」
というやり方に似ています。

そして、持ってもらったライトの光の強さを測るのです。

すると、
 10人のライトの強さは、1人の10倍
 100人のライトの強さは、1人の100倍
 1000人のライトの強さは、1人の1000倍
となるでしょう。

実際のウェスタンブロッティングでは、こうはうまくいかない要素がいろいろありますが、大まかにはこうなります。

つまり、大まかには、
「蛍光方式だと人数を直接数えているので、より正確に数えられる。」
と言えます。

ですので、
化学発光は昔ながらの馴染みのある方法ですが、
同じぐらい濃いバンドが2本あっても、上の例えでいうと、
「10人が働いている工場か、100人が働いている工場か、区別ができていないかも知れない。」
というデメリットがあるのです。

一方、蛍光は、ウェスタンブロッティングの検出方式として近年広がりつつはありますが、
 蛍光標識が付いた二次抗体が必要
 蛍光を撮影できる装置が必要
というデメリットがあり、敷居が高い面もあると思います。

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