見出し画像

髙見澤俊彦『秘める恋、守る愛』の執筆裏話! 【編集者通信】

8月15日(土)に待望の愛蔵版も発売になる、髙見澤俊彦さんの『秘める恋、守る愛』。「オール讀物」の担当者・石井一成、書籍の担当者・八馬祉子が、本作の制作秘話をお話しします。
担当編集者から見る「楽曲制作と小説執筆の共通点」、そして髙見澤さんのすごさとは...…?

音声メディアvoicyの「文藝春秋channel」にて配信した内容を一部、活字にしてお届け!
音声全編はコチラ↓から

◇ ◇ ◇

『秘める恋、守る愛』はどんな小説?

——『秘める恋、守る愛』とはどんな小説でしょうか?

八馬 簡単にあらすじをご紹介すると、直樹と有希恵という、かなり仲の冷え切った熟年夫婦が、娘が留学しているドイツに7日間の旅をします。旅の目的は、一人娘に帰国を促したい、ということ。

 直樹には、若い頃ドイツ留学していた時の思い出があり、妻の有希恵にも、秘密があります。娘は娘で、両親に言えていないことがある。3人がそれぞれの秘密を抱えたまま共に過ごす7日間、という物語になっています。

 恋愛小説でもあり、家族小説でもある。色々な方向から味わえる小説かなと思います。

石井 舞台が本当に豪華なんですよ。

 物語では、主に南ドイツ、ミュンヘンを中心として、家族が、それぞれ秘密を抱えながら旅をしていきます。

 その際の風景描写、色々な名所・旧跡の描写には、髙見澤さんがこれまで旅を続けてこられた時の蓄積が、ふんだんに詰め込まれているんですね。

 旅の小説としても大変読み応えがあり、その旅の風景の中に、登場してくる人物たちの色々な思いや葛藤が投影されて、一段と味わい深くなっている……そういうタイプの小説かな、と思います。

超多忙な髙見澤さんの小説執筆

——本作は「オール讀物」での連載という形で書かれた作品です。小説誌の連載には必ず締め切りがあります。髙見澤さんはかなりお忙しい方だと思うのですが、締め切りやお打ち合わせはどのようになさっていたのですか?

石井 当たり前ですけど、髙見澤さんは非常にご多忙な方なんです。年間60本というライブをされているアーティストで、毎週どこかでコンサートがあるんですから、一体いつ小説を書いてるんだろうと、こちらも不思議になります。

 でも、贅沢なくらい、小説に対する時間をたくさん取っていただいています。

 まず書き始める前の打ち合わせというのがあるんですよね。

 ご本人もインタビューでおっしゃってますけれど、髙見澤さんは先々まであんまりかっちりと決めずに書くタイプの書き手なんです。

 書き手にもいろんなタイプがあって、最後まできちっと詰めて、前もってプロットを作った上で書き始めるタイプの方もいますが、髙見澤さんは、毎回毎回、反射神経で書いていくタイプの書き手です。

 そこで、締め切りが決まると、そのひと月くらい前に1時間から1時間半くらい打ち合わせをするんです。

八馬 作中の娘の行動を見て、「いやあ、お父さんにこんなに優しくはしないですねえ」とか、担当者の側から言ったりもします(笑)。

石井 その打ち合わせを経た後で、締め切りにむけて執筆を進めていただくわけですが、かなりの枚数の——60枚、70枚と言ったボリュームの原稿が、締め切り通りにちゃんと送られてきます。

楽曲制作と小説執筆には共通点がある?

石井 髙見澤さんは夜型で、夜の、かなり遅い時間にメールで原稿が来ます。こちらも楽しみに待っているので、原稿を受け取ったらすぐに読んで感想を返したり、印刷所に渡すための色々な作業を始めるんですけれど、そうこうしているうちに、早朝、「やっぱりこっちを使ってください」と、第2便が届いたりする。

 お直しが入った原稿を読んでも、大幅に設定が変わったとか、大きなミスがあって直した、とかではなく、本当に文章の表現、1行1行の描写が、少しずつ変わっているんですよね。

 きっとご本人が、原稿を読み返すたびに「ここをこう直そう」「ああ直そう」って、絶えず更新されているのだと思います。

 原稿のファイル名の数字も少しずつ更新されていくんですけど、例えば、さっき「原稿24」が来たのに、「少し直しました」と届いたものを見たら、「原稿28」になってたりする(笑)。

八馬 多分その辺が、音楽の作業に慣れた方なんじゃないかな、と思うんですよね。

 前も打ち合わせの途中にさらっと、「この間録った曲にドラムをもっと入れたくなって、これから追加のレコーディングなんですよ」っておっしゃってたことがあって。やっぱりそういう作り方をされるんだろうなって

——多重録音していくみたいな感じですね。

雑誌連載から単行本にするにあたっての加筆・装幀裏話

——連載から単行本になるときは、著者の方によっては結構直される方もいらっしゃるかと思います。髙見澤さんの場合はいかがでしたか?

八馬 前作『音叉』の時はほとんどなかったんですけど、今回は、単行本にする時に、ちょっと構成を変えたんですね。

 連載ではひとまとまりに繋がっていた物語を、7日間の旅ということで、1日ごとに章を分けるという再構成を行ないました。それに伴って視点も変えたりしたので、すごく、細やかな加筆をしていただきました。この作業に関しても、ものすごく熱心に取り組んでくださって。

 単行本は、雑誌連載の時とはまた印象が変わっていると思います。

——何度でも楽しめるんですね。装幀もすごく綺麗な、かっこいいデザインです。

秘める恋守る愛note用画像

八馬 これはまた、作中の非常に重要なシーンにつながる写真なんです。

 文章に関しては、そうやって時間をかけて、緻密に何度も何度も加筆を、って取り組んでいかれるんですけれど、装幀とかビジュアル的なことは、即断即決でいらっしゃるのも面白かったです。

 インスピレーションを大切にしてらっしゃるんですね。たくさんの案をお見せして、その中から、「あ、これがいいですね」と。かなりスパッと決まる方ですね。

担当編集者から見た、髙見澤さんの「すごさ」

——担当者から見た髙見澤さんのすごいところ、とはどこなんでしょうか。

八馬 ある一つのお仕事、音楽のお仕事で、あれだけの大きなものを既に成し遂げていらっしゃる方が、本当に新人の心構えで小説に取り組んでくださっている。そのことがまず、すごいなと思いました。

 ものすごく謙虚、かつアグレッシブで、「吸収しよう」っていう意欲がものすごく強くていらっしゃるので、そのことに感動しますね。

石井 この小説の1行1行を、本当に全部、髙見澤さんが書いているということ自体が、とんでもなくすごいことだと思うんですよね。

 ものすごく多忙なスケジュールの合間を縫って、ちょっとした移動の間にPCを起動し、原稿を執筆し、それを何度も何度も更新されていく。

 書く前の打ち合わせでは、結構我々、忌憚のない意見を平気で言うんです。でもそれがちゃんと、原稿の直しに反映されていく。

 また、プロットをいただくと、あれこれいろんなご提案などをメモにしてお渡しするんです。すると、それをきちんと検討して、これは採用しますとか、ここは自分はこういう考えで書いてますとか、ちゃんと打ち返してくださる。さらに、そういった打ち合わせが反映された原稿がすぐに送られてくるんですよ。小説に対する意欲に、並々ならぬものがあるということがよくわかります。

髙見澤さんの次回作の情報をお伝えします!

——髙見澤さんの次の作品をすでに楽しみにしていらっしゃる方も多いと思うんですけれども、次回作について少し教えていただけますか?

石井 もう次作に、着手されています

これもやっぱり、髙見澤さんのすごいところなんですが、作家として、毎回、挑戦されてるんですね。「今までとは違うものを書く」と自らにハードルを常に課しているんです。

 デビュー作の『音叉』は、70年代の東京を舞台にした、音楽を志す青年たちの物語です。だから、なんとなく読者の側も、髙見澤さんを投影して読む部分があったと思います。

 そこで、2作目の『秘める恋、守る愛』は、自分とは全然違う、読者が髙見澤さんを投影しない世界を描こう、という思いで、家族や恋愛をテーマにされた。

 次の作品も、やっぱりこれまでとは全然違ったものを書こうという、意欲でもって書き進められているように思います。

 髙見澤さん、実は、歴史が大好きなんです。

 連載をしてくださっているので、毎号「オール讀物」をお送りすると、ちゃんと読んでくださって、時々、感想を言ってくださるんですけど、歴史小説がお好きで、よく読みこんでらっしゃいます

——髙見澤さんと歴史! 一見、イメージが結びつかないところがありますが......。

石井 話をしているとよくわかりますけれど、大変教養が豊かでいらっしゃる。小説も映画も音楽も、ものすごくご覧になっています。ヨーロッパを何度も旅行されていて、オペラとかミュージカルもウィーンで、本場のものを見てらして。

八馬 『秘める恋、守る愛』の中でも、ドイツの、バイエルン地方の歴史のことがちょっと出てきますね。そのあたりがもう、スルッと自然に出てくるくらい、知識を持ってらっしゃるんですよね。

石井 第3作は、まだいつとは決まっていませんが、遠くないうちに『オール讀物』でお読みいただける日が来るんじゃないかと思います。

——ぜひ、『秘める恋、守る愛』を読みながら次回作を待っていただきたいですね。

◇ ◇ ◇

音声全編はコチラから↓




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?