小さかったもみの木

那須の家が建ったばかりの頃、
庭の木々がまだ小さく寂しく、
もみの若木を山法師の横に植えた。
山法師が立派に育って白い花と
赤い実を付けるようになった頃も、
まだもみの木は小さかった。

ところがここ数年になって
もみの木が急に大きくなった。
山法師の枝間を突き抜けて
木のてっぺんを空に出した。
おかげで山法師はもみを
嫌がるように避けている。

それを可哀想に思った妻が
私にもみを切るようにいうが、
私が植えただけに躊躇してしまう。
秋になって山法師の葉が落ちると
俄かにもみが目立つようになった。
そこで根を掘って移そうとした。

しかしもみの根は太く張っていて
掘り起こせるものではなかった。
仕方なく幹をのこぎりで切った。
もみを倒してから不憫に思えた。
痛々しい姿が可哀想でたまらない。
どうかお許しくださいと祈った。

生きている生木を切る哀しさ。
寒くなってきた今も尚、心が痛む。