伝説の試合に出た輩

今も語り継がれる
ラグビー日本選手権。
伝説となる一戦は1985年の、
新日鉄釜石対同志社大学。

松尾雄治が率いる新日鉄は
日本一7連覇を果たさんとする
パワフルなスクラムと
スピーディなバックスの最強チーム。

一方の平尾誠二が率いる同志社は
学生日本一3連覇を成し遂げていた。
大八木淳史のいるフォワードも強く、
打倒釜石と不屈の戦いを挑んだ。

この伝説の一戦に高校の後輩、
上瀧彰がフッカーで出場していた。
小さな体でスクラム最前列、
そのど真ん中でボールを脚で操る。

いきなり激しくぶつかる両チーム、
前半を終えて何と同志社が
13対12と1点差でリードする。
行け!行くのだ!同志社!上瀧!

ところが後半に入るや釜石が
スクラムをグイッと押していく。
釜石にはプロップに洞口孝治がいる。
耐えろ!粘れ!同志社!上瀧!

国立競技場で観ていた僕はもう
目頭が熱くなって涙が込み上げる。
最後は松尾が素晴らしいトライを決め
31対17で同志社を振り切った。

選手も観客も多くが泣いていたが
上瀧は笑っていたのではなかったか。
上瀧は泣いていても笑って見える、
痛快で愉快なお日さまのような男なのだ。

新日鉄釜石は日本一7連覇を成し遂げ、
松尾は潔く引退していった。
平尾と大八木は神戸製鋼に入り、
その後日本一7連覇を果たしていく。

上瀧は商社に入って楽しく気分良く
サラリーマン生活をやりながら
するすると出世して子会社の社長となり、
アメリカで悠々自適に暮らしていた。

昨年上瀧は日本に戻ってきて
新たな会社の社長として活躍している。
昨晩は彼の同期たちを交えて
小さなビストロで食事会を行った。

その後はふたりでバーに繰り出した。
上瀧は運のいい男と言われていたが、
実は運を手に入れるための努力を
飄々と行っていたことがわかった。

凄いことを成し遂げる輩は
怖い顔をしているとは限らない。
還暦を超えても小熊のような顔で
にこにこ笑って酒を飲む男である。