〈マラーの死〉

西洋美術史の瀧本みわ先生が
ジャック・ルイ・ダッヴィドの
〈マラーの死〉という
絵画を説明してくれた。

十八世紀末のフランス、
議会は富裕層のジロンド派と
貧民層のジャコバン派が
激しい権力闘争を行っていた。

ジャコバン派の指導者だった
マラーはジロンド派の
シャルロット・コルデーに
風呂場で暗殺されてしまう。

この絵はそのシーンで、
マラーは右手に羽根ペンを
左手に手紙をもち
浴槽で息絶えている。

その屍の肢体は、
数々描かれてきた
キリストの十字架降下の
絵と類似しているのだ。

だらりと垂れた右腕、
横向きとなった死に顔、
白い布と裸体の傷、
そして赤い血である。

西洋人にとって
不条理な死は
キリストの死と
重なるのだろう。

この絵の厳粛で崇高な
雰囲気はキリストの死を
モチーフにするからこそ
醸し出されているに違いない。

一枚の絵が意味することを
紐解いていく面白さは
ミステリーの謎解きのようだ。
しかもとても味わい深い。