あの日ね、 『僕は客席にいて開演前のステージを前に座ってた。 ただの会社の関係者として、そして君達の先輩として、呼ばれたんだ。』 下の子達がどんなステージをする…
『僕はあの日 ああ、やっと見つけた。 そう確信したんだ。』 あれは11月。 いまにも落ちてきそうな満月にそわそ…
”生きる意味を見出せないとか言わないで” ”君がいてくれたら僕は嬉しいから” 2022年1月19日 年明けの緩やかなムードなんぞひとかけらも残っていない東京 いつでも…
ー。昨夜はやけに激しく言い合いをしたのだ。 見えない未来についての嘆きや不満。 なにかの"せい"にして押し付けたくなるような、自分が苦しくて仕方ないからどうにか…
『その時は一緒にざまあみろって笑おうぜ。』 彼はそんな言葉を、コードが雑に並んだ紙切れの後ろ側に置き手紙として残していった。 右上がりで鋭い。 それでいてどこか…
あの日ね、 『僕は客席にいて開演前のステージを前に座ってた。 ただの会社の関係者として、そして君達の先輩として、呼ばれたんだ。』 下の子達がどんなステージをするか見てやって欲しいの。 それから終わったらあの子達にアドバイスしてやってくれって上司から頼まれてね。 と、上司の真似をしながら話す彼の物真似が毎回上達しているなと感心して心の中でくすっと笑ってしまう。 『後輩って言っても親しいなんて言えた関係性でもないし 初めましての初対面の子達ばかりなのに、なんで俺なん
『僕はあの日 ああ、やっと見つけた。 そう確信したんだ。』 あれは11月。 いまにも落ちてきそうな満月にそわそわしながら 足元では落ち葉が軋み この世界には私たちふたりしかいないのではないかと錯覚する程に しんとした夜道を歩いた。 3月となると少しずつ日は伸びてきたようで 窓ガラスから射す夕陽が部屋の寒さをすこし和らげる。 今、目の前に横たわる彼の横顔は あの日の満月を見上げた瞳と同じまま天井を見つめて
”生きる意味を見出せないとか言わないで” ”君がいてくれたら僕は嬉しいから” 2022年1月19日 年明けの緩やかなムードなんぞひとかけらも残っていない東京 いつでも人で溢れているスクランブル交差点 どうしてそんなに急き立てられるように足速に歩くのか。 次から次へと向かい来る他人が目に映る度、心侘しさを感じながら かえって自分は時の波という流れに乗れず 変な小川の木の枝に引っかかっているなんだかよく分からないような場所に流された植物のようだとも思い始めると
ー。昨夜はやけに激しく言い合いをしたのだ。 見えない未来についての嘆きや不満。 なにかの"せい"にして押し付けたくなるような、自分が苦しくて仕方ないからどうにかしろ。と言うようなただただ相手に言葉をぶつけるだけの喧嘩だった。 ただただ未来が見えないことへの苛立ち。 人生という道のりの中間地点に辿り着き年齢という背負った数字が重みを増ながら、次に踏み出す一歩を、次に進むべき道を、間違えればもう何度もやり直しはできないしことへの焦り。 それによってこれからの人生
『その時は一緒にざまあみろって笑おうぜ。』 彼はそんな言葉を、コードが雑に並んだ紙切れの後ろ側に置き手紙として残していった。 右上がりで鋭い。 それでいてどこか繊細さも感じさせる彼の文字。 まだ昨日を半分引きずっているような起きて間もない私の頭は、昨晩の彼と目の前の置き手紙の中の彼とをぼんやりと重ね合わせながらその癖のある文字を指でなぞってみてやっと記憶を巡り始めた。