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そもそも電車は好きな乗り物

私にとっての平日朝の光景といえば、それこそCMや映画ドラマに出てくるような「THE通勤ラッシュ」だ。荷物がパンパンのバッグにさらにギューッと服を押し込まれて、ファスナーをギチギチ言わせながら無理やり閉める。ファスナーをギギギッと開くと、窮屈な思いをしてた荷物が解放されて、口からシワシワの服がボロォッとはみ出す。みたいな電車の乗り降りをする毎日だった。

外出自粛、テレワークの呼びかけがなされてからは、それまでの満員電車はまぁ混んでるかな?程度の電車になり、立っていても本を開いて読めるほどの余裕ができた。そして7日夜に緊急事態宣言が発令された翌朝8日、今日は休日か?と思うほど、駅のホームも車内も人が少なくなった。

座席は依然満席だが、立っている人は一車両に十数人程度。窓の外の景色が見える。この時期に、この路線からは桜がよく見えることを初めて知った。毎朝毎晩乗っている電車なのに、車窓の風景を全然知らなかった。停車中に駅員さんが外から窓を開けてくれるので、風が気持ちいい。乗換の駅ではいつもなら強張って疲労の色も浮かぶ駅員さんの表情も、乗降客の少なさもあってか落ち着いた雰囲気で、アナウンスの声色も穏やかだ。

乗客はみんなマスクをしているので、表情は読めない。だがいつもの殺気立った空気はなく、眉間にシワを寄せて何かに耐えているような人もそれほど見当たらない。誰ともぶつからずに、靴を踏まれず、踏んでしまうこともなく、会社に行って帰ってこれる。この日は真っ赤なエナメルのピンヒールを履く女性を見かけた。この靴は誰からも汚されないし、踏まれて女性が痛い思いをしなくて済むと想像するとホッとする。

世界規模の緊急事態は東京の朝に穏やかな時間をもたらしてしまった。事態が収束した後も、どうかこの朝が守られ、日常へと替わってほしいと願わずにいられない。

さて今日も行ってきます。