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イオンの休憩スペース逢瀬事情

怖い話が好きだ。
落語でも舞台でも映像でも小説でもSNSでもラジオドラマでもジャンル問わず怖い話が好きだ。
特に大手提示板で流行した洒落怖の様なモキュメンタリーを好んで摂取している。
近年では【近畿地方のある場所について】や【かわいそ笑】等大変良質なモキュメンタリーが火付けとなり、本屋でも色々と手に取る事が出来て嬉しい限りである。

元々モキュメンタリーは映像発信の言語であるのだけど(ドキュメンタリーの見せ方をしているフィクションの意味)その言葉を知ったのは、有名すぎるあまり『内容は知らないけどタイトルは聞いたことある』で有名なダニエル・マイリック、エドゥアルド・サンチェスの【ブレア・ウィッチ・プロジェクト】だ。

あらすじを雑に説明すると、【大学生3人が突如失踪する事件が起こった1年後、彼らが事件の最中に撮影したであろうビデオが発見される。
行方不明者の親族達が何か手がかりになるのではと、そのビデオを編集し、ムービーとして上映したと】いう事柄を、本編が始まる前の前提条件として我々観客は周知している。

映画そのものは発見されたビデオの内容から始まる。
その中身は、学校の映像課題の為に魔女が出るという森でドキュメンタリー撮影を行う3人の様子がカメラ回しっぱなしで映っている。
だが3人は森で遭難してしまい、次々と不可解な現象に巻き込まれていく……
因みに2もあるが、なんというか、1の出来が大変良かったこともあり、その、うん。という感じである。

同じ手法だとジャウマ・バラゲロのRECも有名で、そちらも大変オヌヌメである。続編のREC3ジェネシスは見なくて良いです(個人の意見です)。

日本国内でも白石晃士の【ノロイ】は大好きで、色んな人に勧めている。皆様も機会があれば是非観て戴きたい。
というかそもそもアジア独特の湿った感じのホラーが好きなので、ホラー×モキュメンタリーなんて好物以外の何物でもない。

さて、話が長くなったが、今回語りたいのはモキュメンタリーについてではない(前座が長すぎる)。

どれだけホラーが好きでも、モキュメンタリーが好物でも、当方には超えなければならない壁がある。

一人で観れないのだ

本にしても舞台にしても映画にしても一人では読めないし、観れない。
なんでかというと怖いから。

いい歳こきすぎて健康診断で引っ掛かりそうになってる大の大人が、正月遊びに来た親戚の中学生に『お年玉あげるから2時間くらい横にいてくんない?スマホゲームしてても漫画読んでても、最悪彼女に電話してくれてても良いから』と懇願している様を見たことがあるだろうか。ここにある。悲しい物語だ。

悲しいついでに家族はホラーに興味がないので一緒に観てはくれないし、横にもいてはくれない。仕方がないので旅行等の物理的に近距離に居てくれる時にホラー小説や映画をDLしたiPad持ち込んでチマチマ一人で観ている。難儀だ。

ただ、ホラーの旬は夏だ。
旅行にも当分いかない正月は随分先、だけど良質のホラーはそこかしこにある。これを逃してしまえばもう巡り会えないかもしれない。

そういう時どうするか。
ここでタイトル回収となる。

【イオンの休憩スペースを利用するのだ】

カラオケ屋だと個室だから人がいないし(後、煙草の残り香が壊滅的に苦手だ)、ネカフェも同じく仕切りがあって人が見えないし、飲食店で追加もオーダーもせずに2.3時間居座るのはちょっと気が引ける。

それがイオンのあの『なんの為にあるのか分かんないけど、やたらソファー置いてあるよね』というスペースだと万事解決する。
いや、正直人目を気にして30分に1回は別の階に移動してるけども(ちゃんと帰りに買い物してますよ……!)。

ぶっちゃけ人が視界の端に居てさえくれれば知り合いだろうが他人だろうがなんだったら乳幼児ですら構わないのだ(ホラー映画観てる中年に赤子を託す親の方がホラーだとは思うが)。

実は過去、イオンの休憩スペースを利用する前は電車を利用してホラー鑑賞をしていたのだが、駅から駅をニ往復した辺りで駅員さんから『どうされましたか?』と大変優しく肩を叩かれた事があり、それ以降はしていない。自分が怖い人になってどうする。


数日前、友人から『【イシナガキクエを探しています】がYouTubeでUPされてるから、観た方が良いよ』とお勧めされた。
これは大変良質なモキュメンタリーである。
ホクホクしながらつべを開いたら25分×4本の動画という事で、これは久しぶりにイオンだなぁとなんとか仕事にかこつけて片道30分電車に揺られてイオンモールに馳せ参じる。都心にないんだよな、イオンモール。移動時間もしっかり動画を観る。
本筋から離れるのであまり書かないが(今更だ)まだ観てない方でホラー好きな方は【イシナガキクエを探しています】観て下さい。これ無料で観れるのかと思うと痺れますね。

目的地までは往復1時間かかるので、行き帰りで動画2本は観れるだろう。
ならば行きで①、イオンで②③を観て帰りに④を観たらパーフェクトだ。

平日の14時過ぎ、イオンモールに入ってすぐの1階入り口付近にある休憩スペース。
ソファが2台、少し離れた場所に机と椅子2脚のセットが3つある。
机と椅子のセットには近所にお住まいの高齢者と思しき老婦人2人が座って談笑している。

こちらの店舗では【イオンモールウオーキング】なる物をやっているらしく、『イオン内で歩いて健康を維持しよう』とかで休憩スペースも他所と比べて多いらしい。

ウォーキング等全然していないが、ありがたく角のソファに座る。
窓際なので外からはバッチリ見えるが入口端なのでモール内に居る人からは余程奇行を繰り広げない限り注目される事はない。 


動画を再生して10分ほど経っただろうか、イヤホン越しになんとなく喧しい。
『これが怪奇現象!!!(;゚∀゚)=3ムッハー』と興奮するにはまだ早すぎるので普通に一旦停止をして音の方に顔を向ける。

瀕死のパーカーにジーンズという格好の男性と、既に死んでいるスーツを着た男性が休憩スペースの机に向かい合っている。

『居酒屋じゃ嫌だって言うからここ来たんだろ』
『だからってここじゃないだろ』

汚いバージョンのきのう何食べた?かな。

平日のこういう場所でスーツって珍しいな、と完全に自分を棚に上げていると、瀕死パーカーが大きめの声で

『ちゃんと話聞けよ』

一旦聞こう(イヤホンを外しながら)。

『それ居酒屋の時の話の続きだろ、俺無理だよ』
『あれは話の順番が悪かっただけだから、聞けよ』
『聞いても無理だから』
『最後まで聞いてないのに無理とかないだろ』

完全に押し問答状態。
瀕死パーカーが死んだスーツを呼び出して何やら説得をしているようだ。

飲み屋で口説いてみたものの、『お酒の勢いじゃヤダ』と言われてシラフの平日昼間に呼び出して再度アタックしている図、だろうか。
おお、まるでSNSの広告に出てくるレディコミ(実際は汚目の成人男性2人)のようではないか。
だとしたら確かにシチュエーション的にここじゃない。

『悪いんだけど、俺も仕事まだ決まってない状態でそんな余裕ないから』

と死んだスーツが言う。

その格好で就活してんの!!???

駄目だよそれ、冬用スーツだろ。しかも絶対クリーニング数年単位で出してない、肩口フケで白いし、袖よれてるし、ジャケットの背中シワシワだし、シャツも形状記憶じゃないのにアイロンかけてないし、後なんだそのネクタイ、お前組み分け帽子ハッフルパフだったのか。
【限界一人暮らし独身SE、昨日はいきなりの仕様変更で帰れませんでした】っていう人だと思ってたよ……

『仕事してない今だからこそチャンスなんじゃん』

と瀕死のパーカーが応戦。
元紺色・現在青色、英字ロゴが既に読めない状態まで掠れているが多分Californiaって印刷されている。左右の紐の長さが違います。間違ってたらごめんね、もしかしてだけどフード生乾きじゃない?

これ多分あれだな、逢瀬じゃないな。
ネットワークビジネスの勧誘だな。
だとしてもここじゃない(2回目)。

……なんのマルチだろう……

窓の外に思いを馳せるフリをして聞き耳をたてる。
暫く『とりあえず聞いて』『無理だって』の応戦が繰り広げられる。そんなに無理ならスーツもこんなとこ来るなよと思い始めたあたりで、瀕死のパーカーが

『モノは良いんだよ、勧誘の仕方が悪い奴がいるだけで。俺も使ってるけど大分肌がキレイになったし』

信憑性ねぇなぁ!!!!!!

よっぽど声出してやろうか迷ったが、警備員呼ばれても困るのでグッと堪える。
肌より何より服洗え、服。
ネットワークビジネスなんて大体洗剤のたぐい置いてるだろ(偏見)。

この時点で20分以上経過しているので、1本動画見れた時間換算になるが、ここまできたらどうしてもどこの会社なのか知りたい。

瀕死のパーカーは入会して1年過ぎたらしいが、その割に営業力が全然なってない。
しかもバイト掛け持ちしながら活動しているらしく『半年後にはこれだけで食っていけるから』とバンドマンより甘い見通しの計画を説明している。

例えお前がバンドマンで、話を聞いているのがお前に惚れてる居候先の女でも座布団で引っ叩きそうなトーク力。
大体本当にそれで儲かってるならイオンの休憩所なんかで勧誘するなよ、そして死んだスーツの男はなんで来たんだよ、瀕死のパーカーに命でも救われたのか。

『次の面接あるからもういいわ、前の飲み代返して』

窓に頭を打ち付けそうになった。

その数秒後、『御気分でも悪いですか?』と警備員に声をかけられ、瀕死のパーカー・死んだスーツ・黄昏れる不審者のチャーリーズ・エンジェルがイオン入口で爆誕したのは別の話である。

なお、死んだスーツとは最寄り駅まで同じだったのでしっかり視界の端に入れながら無事に【イシナガキクエを探しています②】の続きと③の途中を観ることが出来た。
③の続きと④については電車を待つふりをしてホームで観ました。

これを見た皆様に置かれましては死んだスーツの彼の幸運を祈ってあげてください。

ではでは!(次からどこに行こうかな……)

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