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私の6%

私は共働きになるまで父との思い出があまりない。
本当はあったのかもしれないが覚えていない。
それも、生活スタイルがまるで違ったからだ。

父は夜中に帰ってくるため私は眠っていたし
私が学校に向かうとき父は眠っていた。

母は父の事を大切に思っていたから
私はあまり知らない父を嫌いになる理由もなく、同じく大切に思っていた。
だけど、実際に生活してみると私は父とのコミュニケーションの取り方があまりわからず
口数の少ない父との会話は母との会話の五分の一にも満たないものだった気がする。
曖昧な表現なのは父には申し訳ないが本当に覚えていないからだ。

だけどはっきりと覚えているのは
学校に向かう通学路を私が通り過ぎるのを見るために窓から顔を覗かせていたこと。
私はいつも下を向いて歩いていたが父が見ている間だけ前を見て歩くようになる。
この時の私はこの短い時間でさえ苦痛なものだった。
姉が明るく家の中で太陽のような存在でいるのであれば、私が明るくいる必要はない、例えるなら雨雲だ。
人の善意など押しつけにしか思えなかった。

私が父を好きになるのはもっと先の話だ。
母と対話を繰り返しモノの見方が大きく変わったとき、
父の事を私も尊敬するようになる。
父はそれほどに不器用な人間だった。


私の意志とは関係なく時間は進み、朝になり学校に向かうことになる。

休み時間、さきちゃんという女の子が泣いていた。
その子は一度手術をし、お腹のあたりに大きな手術痕があった。
そしてとても細く
気持ち悪い。と言われ避けられていた。
さきちゃんの物を汚物を触るかのように持ち、女も男も何が面白いのか笑っていた。
馬鹿ばっか、と溜息が出る。

私の小学校では習字の授業があるたびに廊下に張り出されるのだが、
さきちゃんの書いたものだけいつも地面に落とされていた。
私はそのたびにまた張り付けていたが
さきちゃんは泣いていた。
私はさきちゃんとそこまで仲が良いわけでもなかったが細いからという理由でいじめられているとすれば
さきちゃんは食べてもあまり栄養にはならず太れない為、
改善しようがない。

私はさきちゃんに やめて と言えばいいじゃないか。
と言ったが、言えないという。
私にはなぜ言えないのかこの時はあまり理解できなかったが、
望むなら私が言ってあげるよ。と言うと
さきちゃんは私に言ってほしいという。

私は床に落ちた半紙を持ち、それをしつこく落とし続ける馬鹿な女たちのところまで持っていきあるべきところに張り付けさせた。
最初は反論してきたが、私に何を伝えたいのかさっぱり理解できなかったため
何一つ怖いなんて感情はわかなかった。

それからさきちゃんの習字が落とされるたびに私は落とした本人のところに行き
最終的に馬鹿な女たちは文句を言いながらも涙目で、ひどく滑稽に思えた。
いつからかそんな嫌がらせはなくなっていったが
さきちゃんに友達ができたわけではなかった。
悪口がやむようなことはなかったが、物がなくなるなんてことはなくなった。
何度かさきちゃんの悪口を私にも強要されたが、
一人じゃ何もできない(あなたの方が)気持ち悪い。と言うと場はしらけた。

さきちゃんは私によく話しかけてきた。
一人は不安なのだろう。

だけど突然さきちゃんは私に話しかけなくなった。
私はよく、もしもの話を外を眺めながら想像していた。
もしも空が青くなかったら
もしも明日が来ないとしたら
もしも武器を持った男がきたらどう逃げようか
誰が生き残り、誰が捕まってしまうだろうか。
後は新しい文字を作るのにもハマっていたな。
そんなことを考えグラウンドを眺めているとさきちゃんは前まで悪口を言っていた男女に混ざり、楽しそうにドッジボールをしていた。

私に話しかけることはなく
むしろ私を避けていた。
あんなに飛び交っていた悪口は、私のもしも話の一つだったのかと
自分を疑いたくなるようなものだった。

私を大げさにも恩人だといったさきちゃんはどこにいったのだろうか。
私はさきちゃんと話したいわけでも恩を売りたいわけでもない。(おそらく)

ただ、理解が出来なかった。
なぜそこまでして群れたがるのだろうか。

モヤモヤとし、私は姉も含め二面性を持つ人間が怖く、
部屋だけでなく目に映るもの全て、暗く光のないものに感じた。

「私の6%」見えないもの。

「私の7%」見えたもの。



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