明日から禁酒禁煙する日記

 禁酒禁煙に今日も失敗した。毎日禁酒禁煙しようとしている。朝こそ飲まず吸わずで平気だ。仕事中も苦にならない。問題は夜なのだ。気づくとうっかり仕事終わりに酒とたばこを買っている。私は宵越しの酒とたばこを持たない主義なので、買った分はその日のうちに飲んで吸う。そしてまた明日から禁酒禁煙がんばろう! という次第である。

 しかしいい加減、本腰をあげて禁酒禁煙に取り組まなければならない。何故って、今月には会社の健康診断がある。生活習慣病が私は怖い。下腹が出てきた。20代のころは凹んでいた腹も三十路を迎えて代謝が落ちたのかどうか、酒っ腹になっている気がする。たとえば風呂上がり、洗面所の鏡の前で、体を横にして腹の具合を確かめる。アフリカの貧しい子供みたいに下腹だけ出ている。息を止めて腹をへこます。これが理想形だ。息を吐く。ピタゴラスイッチみたいに腹が出てくる。あわれだ。こんな体じゃ婿に行けない。

 酒かタバコ、どちらかを辞められればもう片方も辞められると思っている。どちらか片方を単体で楽しむ習慣が私にはないから。酒とタバコは私のなかで表裏一体なのだった。どちらかといえば、タバコのほうが辞められると思う。たとえばタバコがひと箱1000円になったらさすがに手を出さない。今すぐ値上げしてほしい。私の不健康は、遅々としてたばこ税を上げない日本にも原因があるのだ。岸田、早くお得意の増税をしろ。

 今年の五月に、私の愛飲していたタバコの銘柄が廃盤になった。コンビニやスーパーでももう取り扱わなくなってしまった。これでようやく私も禁煙ができるぞと胸を撫で下ろしていたのも束の間、気づくと私はまた別のタバコを吸っていた。本当にあった怖い話だ。前のより美味しくないけれど酒を飲むにはタバコが付き物だから背に腹は代えられない。まったく、忸怩たる思いである。
 禁煙にあたって、理想のシチュエーションがある。子どもができて禁煙する、というやつだ。これをしたい。是非したい。私に子どもができたら禁煙はできるし少子化対策にもなる。一石二鳥だ、ウィンウィンというやつだ。だけど現実は子どもはおろか彼女さえいない冴えない中年男性が一匹、世間からあぶれて日に日に不健康になっている。いったいどうしてくれる。早く私は子どもがほしい。岸田。聞いているか岸田、読んでいるか岸田。私に子どもを寄越せ。一挙両得の大チャンスだぞ。俺は健康になるし出生数も増える。いいことづくめ。報われない国民に救いの手を差し伸べてくれ。あとは国サイドの問題だ。たばこ税を上げるか私に子どもを作らせるか。好きなほうを選ぶがいい。

 数か月前に30歳になった。だからか、最近は父性が溢れている。この文章にも出ていると思う。私の父性が。フェロモンのように。しとどと。包み込むように。
 街に出かけてふいにすれ違う家族連れ、両親の真ん中にいるその子供を慈しむ気持ちがどばどば湧いてくる。目に入れたいと思う。痛くないと思う。子どもであればもう誰でもいい。目に入れたい。手当たり次第に入れさせてほしい。痛くないかを確かめたいのだ。痛かったら私の子どもではない。でも痛くないと思う。私の子どもでもあるのだから。入れさせてほしい。お宅のお子さんを。私の目に。混ぜてほしい。家族に。社会ってそういうものだと思う。誰ひとり残すことなく省くことなく幸せになるシステムが必要だと思う。だから混ぜてほしい。家族に。地域に。社会に。このままじゃ私はひとりぼっちのまま不健康になっていくばかりだ。どうか辞めさせてほしい。タバコを。家族が欲しい。切実に。父性のやりどころに困ってるんだ。

 いや、それはただの性欲ですよ。

 そうですか。入れたいのは同じなんですね。

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 日記。酒を飲んでタバコを吸ってソシャゲをして眠る。明日から禁酒禁煙しようと思った。毎日思っている。
 こんな大人になるはずじゃなかった。

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