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Twitter質問箱傑作選13

ウチのマスタリングデスクはだな…

#SAW質問箱総集編 08をご覧いただいた方の感想です

 あなたは本当に音楽が大好きで、純粋で、そしてその分傷つき腹を立ててきたんでしょうね。ヒリヒリと色んなエネルギーを感じます

  音楽愛がある、そう言われたら気持ち良くなる人も多いでしょう。私は若い頃から「世界で一番メタルを愛している」と公言しては多方面から顰蹙を買い諌められてきましたが、今日まで僕よりメタルと音楽を愛している人に出会ったことがありません(同率一位はそこそこいるw)

 私の職務の全体を知る人はSNSの世界にはあまりいませんが、私は現場というより、やや発注側に近い世界に身を置いている面もあります。みんなとは少し違う角度から業界を見る機会も多いですが、プロの世界で活躍している人がみんな音楽愛があるかと言うとそうではなくて、僕の目にはむしろ「音楽関係者でいたい」「音楽の仕事してる自分が好き」みたいなアホも半分以上いると思います。裏方では特に、楽器もできない譜面も読めないノリと雰囲気でダラダラとキャリアを過ごしてきた時間を『経験値』だなんて言うどうしょうもない無能がゴロゴロしています

 でも、それも良い悪いでもない。プロフェッショナルの世界ですから当たり前ですよね。全ての努力が叶うわけないですし、狡賢さ・世渡りの根性・生まれ持った容姿・実家の太さ・サラサラヘアーと癖毛、一般的な成功はこんな運任せの要素がたくさん沢山介在してきて掴みと取っていけるものになります

 私はどんな業界の人と話す時も、自分が新規のチャレンジをする時にも「この人は何人に一人の才能だろう」と推量する習慣があります。1/10くらいで見つけることができる才能、1/500の天才、1/5,000の滅多に出会えない才能、1/10,000の世に送り出さなければ犯罪になってしまう人類の宝物

 別に人間を値踏みしたいわけじゃないんです。取れるリスクやチャレンジで得られるリターンの振れ幅。自分に無限の可能性を信じて永遠とも無駄とも思えるような投資をすることだって間違いじゃないです、でも、冷静にその結果や「大凡分かっていた結論に辿り着く」想像力を持っていく事なんですね

 なぜこの話をしたかと言うと、宇多田ヒカルっって1,000人2,000人10,000人に一人どころの人じゃないんです。デビューアルバムが1,000万枚以上売れたアーティストって日本では彼女しかいないんです。過去どれだけのアーテストが延べ人数で存在したのかわかりませんが、とにかくはっきり言えるのは彼女は過去日本に一度も存在したことのない異次元の一人です

 スターな両親の元に生まれ、想像の域を出ませんがややエキセントリックな夫婦の歩みと思春期にそれを見てきた彼女の心、そして藤圭子さんんの最期。Final Dsistance誕生のきっかけについてツイートしたこともありましたが、凡人ならぬ感性でもって余人には想像もつかぬ壮絶な運命を喘ぐように生き抜いてきた彼女の心と葛藤は、我々の創造の及ぶものではないと思います

 生まれながらに音楽家であり、職業ミュージシャンとして音楽を作り続ける彼女にとって「音楽愛」なんて言葉は酸素愛みたいなもんでしょうか?(笑)答えはわかりませんが、僕はただただ素直に素晴らしい才能と努力に裏付けされた音楽を気持ちよく楽しんでいます

話を変えます

 私が音楽のキャリアを始めた音楽スタジオは、福岡のやや外れにある、ログハウスのような手作り感満載のリハーサルスタジオでした。プロジャズドラマーのオーナーが、貨物用のコンテナを譲り受けて始めたスタジオです。コンテナ一つからスタートして時間をかけ増築・改築・新築を繰り返して、今日では西日本最大級のリハーサル・スタジオになりました

 私にとっては育ての父親のような人であり、福岡の音楽人であれば知らぬ人のいない有名人ですが、彼の人生は「敬客愛音(お客様を敬い音楽を愛する)」そのものです。いつもリハーサルやレコーディングする顧客のことしか考えていません

 40年間毎日スタジオに掃除機をかけ、マイクを交換洗浄殺菌し、機材を修理し、レンタル機材を配達し、バンドマンから修理の依頼があればすぐに取り掛かり、朝から晩までハンダごてを握り体に悪そうな鉛煙を吸い込み(笑)、お客さんに最高の環境を準備することだけを考えて経営してきました

 シンバルが割れた、ヘッドが破れた、アンプの調子が悪い。どんな小さ症状でも、オーナーがそれを放置したのを見かけた事は一度もありません。ただの一度もです。経営状況で「これくらいなら」のような判断をしてしまいそうなものですが、彼は人生の習慣として顧客に対する妥協を一切しないんです

 そのオヤジの生き様を見て軽々しく「あんたは音楽愛があるな」とはとても言えぬものがあります。真っ当な人が生きていくのはカッコよくもなく、映えることもなく、歯を食いしばって、我慢を積み重ねながら、自分の信じた道を突き進めるだけです。辛いこともありましたし未だに「勇退」だなんて呑気なこと言えない時世を必死にもがいてますよ(苦笑)

 そんなオヤジも時々はドラムを叩いているようです。ちょっと前には「2バスを導入した、やはり音楽家として進化していかんと!」などと宣っていました。宇多田ヒカルの音楽も、田山宏士というオッサンの作り出す音楽も、程度や土俵の違いは違えど、どちらも人生を色濃く反映した素晴らしい音楽である事は違いありません

 古来から音楽は人の暮らしと共にありました。質問の趣旨である「ここからは出すべき」ですが、それはクオリティのラインではないでしょう。自分なりの取り組み・努力を通じて「一人でも多くの人に聞いてもらいたい」となった時が発表のしどきです

 他人の評価や否定的な言葉が気になるとしても、もしかしたら今のあなたならそれとうまく付き合えるかもしれません。仮にそうでなかったとしても、あなたとその大切な楽曲が一つになっていくプロセスは、きっと生きる勇気になると思いますよ。どうしてもカッコよく仕上げたいなら、最後の最後に僕に仕事を依頼してください(笑)地獄のようにカッコよく仕上げてあげますよ

*過去に質問箱で回答したものの中から、反響が多かったものを中心に再編集・追記して投稿しています

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