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SAW質問箱総集編14

なぜトランジェント過多なのか。時代背景も考察すると面白い

【トランジェントとトランジェント的なものは全然違う】  

 そこを明確に定義してから取り組んだ方がいいし、多くのエンベロープ論に足りないのはそもそもそのスタート地点だと思ってます  

 伝統的なバラードにある様なハードコンプに導かれるしっとりした質感と、K-POPによく見られるトランジェント(的なもの)がハッキリ立ったミックスは全然違いますが、マスタリングエンジニアとして見ていく中で「往々にして日本国内のボーカル処理はコンプが不足している」に尽きます

 
 僕のレッスンで繰り返して言うフレーズがあります。ベースとボーカルのコンプは「これでもか!これでもか!親の仇!これでもか!」とかけるものです。しかし、これで馬鹿の一つ覚えで窮屈になる仕上げにしては意味がありません  

 現代はいいツールが増え、ダイナミクスやレンジ感をフルに使いこなせるようになってきました。そんな中、未処理に近いボーカルを全体に混ぜ込んだところでうまく説得力を持たせるのは大変困難です。さらにマスタリングでダイナミクスや音圧調整などの処理をした結果、ボーカルの配置が変わってしまうことは少なくありません  

 考えてもみてください。Kemperや最先端のドラム音源、強烈なソフトシンセ達に甘めのコンプでトランジェントだけ立ったボーカルが入っていたところで、それは歌唱を聞くというより「声が聞こる」だけのような状態です。ふくよかな声の余韻や、本来マイクを通る前の歌声が聞こえていますか?  

 幅の広いレンジと倍音を「音楽に混ぜ込んだ時に高低差なくバランス良く聞こえる様に」しっかりとコンプしていくこと。そして、そこからトランジェント(感)を作り出して曲への馴染みや聴感的な質感「明るく感じる、伸びやかに感じる」領域をコントロールするといいでしょう  

 みなこのプロセスを飛ばして「ボーカルの抜けが足りない!そうだ!EQでハイを上げよう!」なんてことするから馬鹿みたいな音源が蔓延してるんですね。著名な方のミックスでも、10kHz以上だけを再生して歌メロが歌詞まではっきり聞き取れる音源なんてザラです、個人的には異常なことだと思います  

 うちでは毎日プロやプロスタジオのエンジニア達が、トランジェントを削るだけでボーカルが生き生きと輝いて伸びやかに聞こえてくる様子を目撃して絶句しています。『過ぎたるは及ばざるが如し』全ては大いなるバランスの上に成り立っています  

 音量変化、立ち上がりの変化量とスピード、そしてそれらは帯域ごとに変わってきますが、、、んん、ちょっと喋りすぎましたね(笑)いい音楽やそもそも上手な歌唱、プロのミックスデータやステムなんかを参考に、10年も20年も長く愛されるに相応しいMIXを心がけてください。正解は無い、MIXはあなたの個性そのものなのです

*過去に質問箱で回答したものの中から、反響が多かったものを中心に再編集・追記して投稿しています


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