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#SAW質問箱総集編 07

大は小を兼ねる()


 1996年ごろより本格化した音圧戦争の起こりから具(つぶさ)にその起承転結を見てきましたが、世界市場では2017年ごろより明らかに第三次音圧戦争が始まっている様に思います

1️⃣CDにおける最大音量を競う様な第一次音圧戦争
2️⃣2010年ごろよりより高度化し低歪低LRAな高密度海苔を競った第二次音圧戦争
3️⃣そして現在は圧迫感や圧縮感を感じさせずに-7LUFS前後を臨む第三次音圧戦争下にあると言ってもいいでしょう  

 3️⃣に関してはミックスの甘さをマキシマイザーで帳消しにできるという「ぐうたらマスタリングエンジニア」側の都合も多分にあると推察していますが、ストリーミングフォーマットと海苔波形の相性の良さが再発見されてしまったことも原因にあることは間違いありません

 そもそも本来の海苔波形とは「高度なミックスダウンの技術の果てに達成できる究極のミックス術」の一つであり、こと私の生きるヘヴィメタルの世界ではその技術を理解し賞賛するリスナーが多くいることで有名です。ミキサーやマスタリングエンジニアでアーティストを逆選別して買うリスナーが大半を占めている世界です

 現在のようなデジタルの強力なプラグインが存在しない時代に、従来のアナログ機材やFinalizer2496などを活用してとんでもなくパワフルなサウンド作り出すプロデューサーも多く存在していました(私の手元にあるMANLEY SLAM!もラウドネスウォー最終兵器の一つの遺物のような側面があります)  繰り返して申し上げますが、ヘヴィメタルリスナーはその作品を作ったスタジオやエンジニアの存在を確認し理解し、購入の一助としていますし、賞賛の声を惜しみなく裏方にも投げかけます(全員漏れなくミュージシャン)。げに美しく心振るわせる見事な海苔波形たちと共に我々は生きてきました

 そのためヘヴィメタル界における楽器の進化や技術革新は大変迅速で、最先端を走るメタル系プロデューサーの多くが各種メーカーやデベロッパーからエンドースを受けているケースが多いことを見ても理解できます。メタル界由来の様々なレコーディングテクニックを知りもせず採用する若いエンジニアもいますが、全てはネットや草の根交流を通じて連綿と紡ぎ上げられてきた偉大な功績なのです

 世界で見れば作曲アレンジ録音ミックスマスタリングまで包括して担当するプロデューサーが増えています。これは「完成形を見ながら一つ一つ丁寧に織り上げるように作り込んでいる」のであって、そうやって作られた作品の完成度は『分業』で作られたものとはサウンドクオリティが大きく違うケースが多いと思います

 本邦においてはバブル崩壊後のバジェットの減少やDTMの台頭、そして団塊の世代がきちんと技術や環境を次世代に受け継がず自分たちだけが美味しい汁を吸って逃げ延びたため「団塊Jr世代」がクソの役にも立たない世代のまま日本のビジネスシーンの中心に居座ったことが最大の問題です  あなたの周りに「仕事ができてバランス感覚が良くて尊敬に値する50代以上の先輩」がいますか?かなり少ないでしょう。ミュージックビジネスにおいても、、、まあこの話はどこか別に機会に触れましょう。ちなみに私は最近1980年代当時の日本のCDをよく聞きますが、感動的なサウンドの名作が多く正直驚きます

 きちんと技術の継承を行えなかったため未熟なミキシングエンジニアが増えたこと、リスナーが希望する高音圧な作品へのミスマッチは拡大の一方でした。私のような地方のインディーズシーンでもその需要は超明確でしたし、業界30年を超えるベテランが今でも「ローカットしてマキシマイザーで一発ドカン」程度の実力だけで食っているのが現状です

 しかし、マキシマイザーに対する需要はプラグインメーカーにとっても最も重要なものです。各社最も力を入れて開発し販売してきており、WAVES社の大傑作L316以降に発売された製品は他社も含めて内部でマルチバンド処理や相当に複雑なプロセスを経ており、そんなど素人プロでもなんとかやっていけるレベルなのです

 ある若手の作曲家Tさんから「Twitter界のマスタリングエンジニアの発言を観察しているとその幅の利かせ方に驚くばかりだが、知能を使わず努力もせずに楽な仕事をしているとあのように全員幼稚になっていくのではないか?」と言われ爆笑したことがあります  Twitterをしていない名エンジニアさんも沢山おられますし、多く発信するわけでもないけれど実に見事な作品を手がけられる方も確実にいます。プロっぽく振る舞うプロとプロは違いますね。でも『楽譜読めない音楽の知識ない楽器できないRecできないMixできないなんにもできない』けどみんなが頑張って作った作品にふりかけかけてマスタリングだけできる、なんてマトモじゃないでしょう(笑)

 かっこいい音を作ってほしいユーザー。正しく技術でもって応えられないエンジニア。その埋められない隙間を埋めるために必死で下がるLUFS(爆)。結果としてポップスなのに音割れするマスター続発によって、海苔波形嫌悪ユーザーを多く生み出しましたが、単に我が国だけのクソみたいな話であって世界の潮流とは全く関係あランティス

 さて、まとめます。栄枯盛衰、いつかはわかりませんがサブスクの時代も終わりまた次のフォーマットが訪れるでしょう。そんな時に問題になるのは波形の形ではなく、音楽の内容そのものだけです。トランジェントキッツいブッサイクな声優さんが吐き捨てるように歌うアニソンがピリピリ音割れしてたとして、そんな音楽が長く愛されるはずもありません

 アナログ時代には圧倒的な音楽の見識を持った超人たちが必要とされましたが、DAWの時代においてマスタリングは半ば事務員の仕事です。マスタリングエンジニアに仕事をさせないようにリファレンスと比較しながらしっかりとミックスしましょう。そして、LUFSとか波形の形なんてどうでもいいので『Gain Match』して作業をすることが何より大切です。何度も何度も聞き直したくなるような音楽を作り上げていきましょう

*過去に質問箱で回答したものの中から、反響が多かったものを中心に再編集・追記して投稿しています

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