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清濁併せ呑むように。

現在発売中の雑誌『SWITCH』は「特集 是枝裕和」にふさわしい、新井敏記編集長によるドキュメントと、ロングインタビューの2本立てで、映画『真実』の原案となったプロット「クローク」の初掲載(イラストがこれまた素敵!)、ワールドプレミアとなったヴェネツィア国際映画祭のリポートまであります。

私は是枝監督のロングインタビュー原稿と、それとは別にCoccoのインタビュー原稿を書かせていただきました。

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是枝監督は『映画を撮りながら考えたこと』の続編をいつか……と思って、インタビューを続けています。幸い、『万引き家族』はウェブで、『真実』はSWITCHで書かせていただき、本当にありがたいです。

『三度目の殺人』もインタビューだけはしていて、次の2作品まで含めば続編になるのではないかと提案したところ、監督からは「最初のが20年分だったから、続編も10年分くらいないと読み甲斐ないと思う」と言われてしまいました。ということは2026年発売か。その間にもっと自分も成長しなくちゃな。

Coccoは8ページの特集で、アルバム『スターシャンク』の世界観が伝わる奥山由之さんの写真が素敵です。

タイトルにある「シャンク」は、アクセサリーづくりにおいて「繋ぐ」技術のことを指すそうで、リリースには「光を繋いで、みんなで生きていけますように」という本人からのメッセージもありました。

取材中も彼女が「パラレルに起きたさまざまなことが繋がってアルバムができた!」という話をしていたのですが、私には、ファンともう一度繋がる、息子を含む次世代に縁やチャンスを繋げる、沖縄のことを世界にあらためて思い出させる、というような意味合いもあるように感じられ、それを指摘すると、「確かに! みんなシャンクしたがり。繋ぎたがり」と笑っていました。

個人的には司馬遼太郎の話が聞けてよかったし、ファンに伝えねばいけないことを含め納得いく原稿が書けたと思ってはいるのですが、ちょっとだけシリアス過ぎたかも……。

例えば、Coccoが二十歳の息子と歩いていたら20代の若いモデル事務所のスカウトマンに声をかけられ、しかもカップルだと思われたそうで、「そうかこの子、“Cocco”を知らないんだっていう、それが衝撃で。デビューして20年以上経って、あたし、ただの美魔女なんだ!?って」という愉快な話もしてくれたんですよね。しかし、枚数的・テイスト的にどうしても入れられなかった。『ロッキング・オン・ジャパン』や出演したラジオではその話もしていたので、ホッとした次第です。

まあ、さまざまなメディアで、さまざまな彼女の面を伝えられたらいいんですよね。人は相手によって自然と自分の見せ方が変わるわけで、インタビュアーや媒体によって取材される側も見せる面を自然と違えているというか。とにかく、「美魔女」と「クルチヌムリ」については、いつかどこかで書きたいなと思っています。

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2年前、Coccoの20周年を『SWITCH』が特集しましたが、そのときは16年ぶりに合計8時間インタビューして、60枚以上の原稿を書きました。

それを読んでくれたある人──Coccoの一時期最大の理解者に、「読みました。清濁併せ呑むようにというか、Coccoの言葉をそのまま受け入れて書ける人はもう堀さんしかいません」と言われました。「それって、褒めてないですよね?」と返すと、「もちろん、褒めてますよ」と笑っていましたが、その言葉は非常に強く心に残っています。(いまでも褒め言葉ではなく、決して悪い気のしない皮肉だと思っています。)

是枝監督の最新作『真実』ではないですが、人は記憶をつくり変えるものだし、忘れることができるから前に進んでいけるものだし、思いやりの結果、噓をつくこともあれば、真実が相手をひどく傷つけることもある。

そんなわけで、インタビュアーとしては相手の「いま」の発言を尊重し、受容するようにしています。たとえそれがつくり変えられた記憶であったとしても、以前の発言を忘れた行動であったとしても、「いま」が常に正しい。……あ、政治家とか経営者がそれでは困るから、アーティスト限定で(笑)。



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