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塩田武士さんインタビュー(2011年4月)

小栗旬と星野源の初共演で話題沸騰中の映画『罪の声』。原作は、実際にあった昭和最大の未解決事件をモチーフに過去の事件に翻弄される2人の男の姿を描き、第7回山田風太郎賞を受賞するなど高い評価を得た塩田武士さんによる同名ミステリー小説です。2011年4月号『文蔵』にて塩田さんをインタビューする機会に恵まれました。冒頭のみですが、以下に転載します。*出版社、著者の許可済

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第五回小説現代長編新人賞の選考会で満場一致という快挙を成し遂げ、デビューを果たした作家の塩田武士さん。現在も新聞記者として活躍する彼が、いかにして処女作『盤上のアルファ』を書き上げたか、その情熱に迫った。

──選考委員の重松清さんが「途中からは『選考』を忘れてしまいそうになるほど物語に没入した」とおっしゃっていますが、まさしくデビュー作に相応しい瑞々しさがありながら、エンターテインメント性と重厚さを兼ね備えた作品でした。

塩田 ありがとうございます。

──本作の題材は「将棋」ですが、その題材とはいつ出合ったのですか?

塩田 大学卒業後に神戸新聞社に入社し、六年目でやっと希望の「文化生活部」に移りました。担当は演芸、テレビ、クラシック、そしてなぜか囲碁将棋のサブ。「興味ないけど、まあサブやし、ええわ」と思っていたところ、囲碁将棋の担当が辞められて、自分が本担当になってしまったんです。
 その初仕事が、二〇〇八年の第四九期王位戦第三局。自社用と他社用の夕刊の原稿を書いたものの、送信システムの不具合が発生したんです。「どうするんや、紙面に穴があくぞ!」と現場はバタバタ。配信を待つ全国の新聞各社からは催促の電話がじゃんじゃんかかってくる。そんなときにふと「ああ、これ、小説になるわー!」と思ったんですよね(笑)。それで皆が対応に追われている最中に、現状をこっそりネタ帳にメモったという……。

──つまり、棋士同士の白熱した闘いを見て「将棋を題材に書こう!」と思ったわけではない?(笑)

塩田 はい(笑)。白熱した闘いはそのあとです。対局室に入ったら、広い和室がしんとしていて、蟬だけが鳴いていた。そして深浦康市先生と羽生善治先生が盤面を挟んで、貧乏揺すりをしたり、ハアと溜め息をついたりしている。それはもうすさまじい迫力でした。大の大人がこれだけ真剣にものを考えるというのを初めて見た。この盤を挟んでの迫力ある攻防も絶対に華がある、絵になる、とそのときに感じました。

──塩田さんが感じている将棋の魅力は何ですか?

塩田 まずはゲーム性です。形勢がいいと思っていたときには、すべての駒の連結がいい。しかし形勢が悪くなった途端、いいと思っていた駒が邪魔になったりする。あとよく言われることですが、取った駒が使えることもユニーク。持ち駒まで計算しなくてはいけないゲームは世界広しと言えども将棋だけです。それから囲碁とは違って「ゼロか百か」という点。小説にも書きましたが、王様が詰まされるか詰まされないかという、わかりやすさも魅力です。
 また、新聞記者として感じた大きな魅力は、記者と取材対象者の距離が近いこと。一緒にゴルフや麻雀をしながら、相手のいろんなことを知ることができる。「人間」を知ることができる。これが本来、〝深い取材〞と言われるものなんだなと感じましたね。




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