アンデス

若いころの辺境探検の記憶と、これまで読んできた約1200冊のノンフィクション(歴史、自…

アンデス

若いころの辺境探検の記憶と、これまで読んできた約1200冊のノンフィクション(歴史、自然科学などなど)を混ぜ合わせて、文章に残せたらと思います。いつか自分がいなくなった時に、娘たちが「こんな記憶の積み重ねが、あの父だったんだな」と読んでくれたら嬉しいなとnoteに辿り着きました。

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マゼランは地図を持たない①

南米大陸と南極大陸が出会う場所、そして大西洋と太平洋がまじりあう場所、マゼラン海峡。 フィン・デル・ムンド(スペイン語で、「この世の果て」)と言われるパタゴニア地方の、最南部に位置するフエゴ島の、ウシュワイアという小さな町。人間が町と呼べる規模で日常生活を送ることができる世界最南端。町のいたるところに、はっきりと「この世の果て」と書いてあるのが潔い。この場所で力強く生きる住民たちの鼻息を感じる。 場所が場所なだけに、世界中から物好きなバックパッカーが訪れる観光地でもある。

    • 探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー⑨

      ⑨あいつは明日の朝には戻ってくるだろうよ アマゾンのジャングルのど真ん中で道を見失い、図らずも2日目のキャンプに突入した僕たちは、焚火を囲みながら酒を飲んで、とりとめのない話を何時間も話し続けた。 ふと気がつくと、その輪の中に、サブリーダーのナンドがいない。 「いつの間にか一人増えてました!」は相当怖いが、ジャングルで一人いないこともリアルに怖い。 夕方のまだ明るいうちからみんなでバーベキューの準備を始めたが、その時間帯にはもうナンドの姿はなかった気がする。 隣のおっさ

      • この一冊!リスト

        noteで文章を書いてる目的は、「自分の体験を文章化しておきたい、読んでくれた人がその文を面白がってくれたらなお嬉し」なのですが、その体験とリンクする「この一冊!を、ぜひ読んでもらいたい」のもあります。   そこで、リストにまとめてみました。アフェリエイトではなく、純粋に本の紹介なので、興味のある方はぜひ図書館ででも探してみてください。 『マゼラン船団 世界一周500年目の真実: 大航海時代とアジア』  ~濃密なエピソード満載の、大航海時代のすさまじい旅の記録。 【紹介

        • 探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー⑧

          ⑧ 森の精霊コダマ(アマゾン種) 動物園の人気者をむしゃむしゃ食べる行為は、日本では「かわいそ~」と非難されるかもしれない。 しかし、僕たちはついさっきワニの食材になるところだった。一方、このカピバラやアルマジロはたまたまホルヘたちに出会い、今僕たちの腹に収まっている。自然界のリングでは、命は等価だ。高尚な議論はいらない。ナイーブな議論は役に立たない。 アマゾンの真っただ中で帰り道を見失った割に、普通に肉を食らい、ビールを飲み干し、普通にいい感じに酔っ払い、おっさんたちと

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        マゼランは地図を持たない①

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー⑦

          ⑦カピバラの開き、アルマジロの姿焼き 一泊二日で町に戻るはずだった我らがジャングルツアーズは、あえなく帰り道を見失い、大自然のど真ん中で2回目の夜を迎えた。昼間の天気からするとおそらく頭上には満天の星空が出ているのだろうが、鬱蒼としたごっつい大樹に覆われたこの場所からは、空は拝めない。 昨晩の水没脱出劇から学習した探検隊の一行は、素人目にも周囲よりもやや高まった、川から十分離れた安全な場所にテントを張った。さほど広くもないが、テント数張りと焚火ができる十分なスペースは確保

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー⑦

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー⑥

          ⑥一泊二日の予定じゃなかったっけ? 命からがら陸地に戻ったとき、時刻は午後2時を回っていた。 ナンドと狩りの感想戦に熱中しているホルヘに、エンジントラブルのせいでどれほどヤバい状況だったかを訴えるが、 「あ~、あのエンジンも年季が入ってるからなあ」ぐらいの返しで、僕らの話なんか聞いちゃいない。 二人が森で仕留めた獲物はトラックの荷台に積み上げられている。射撃の腕前だけは確からしい。 「さあ、明るいうちに町に戻って、夜はバーベキューだ!」 ホルヘの一声で、再び探検隊は動き出す

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー⑥

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー⑤

          ⑤ワニを食べるのか、ワニに食べられるのか、それが大問題だ サラサラの真っ白なシーツが敷かれたベッドで目が覚め、昨晩の真夜中の脱出劇は悪い夢だったんだ、やっぱりわが家はいいよね~ という夢から覚めると、全身泥まみれのずぶぬれの僕が荷台に転がるトラックは、停車していた。しぶしぶ現実を受け入れ起き上がると、目の前には昨日ピラニア釣りをした湖の倍ぐらいの広さの水面が広がっている。   脱出後、朝日を見た記憶はあるが、完全に数時間、爆睡(気絶)していたらしい。太陽はほぼ天頂に位置し、

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー⑤

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー④

          ④ 落雷5本、今すぐ脱出せよ! ピラニアにも噛まれず、カンディルにも食い破られず、這々の体(ほうほうのてい)でキャンプ地に戻った。そこでは奥様たちが、ビール片手にテントを張り、夕食の準備を済ませていた。無鉄砲オヤジたちと長年連れ添えるだけあって、奥様たちもまた異次元にたくましい。ちなみに夕食のメニューは、ランチの残りのピラニアとワニとビールに決定。 初日とは思えぬ疲れで酔いの回りも早く、ひっくり返るようにテントで爆睡した。 目覚めたら爽やかな朝、のはずだった。 しかし

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー④

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー③

          ③ かっぱのアマゾン川ながれ  アマゾン突入早々に、ピラニアとワニの昼食を済ませ、再び探検隊は爆走し始める。あまりの悪路に、トラックの荷台席を丁寧に辞退し、リーダーのホルヘの助手席に座らしてもらう。  「どうした、顔色が悪いぞ! もう少し走れば、今日のキャンプ地に着く。俺が見つけた最高の場所だ!」 ホルヘがウルトラハイテンションで運転しながら叫ぶ。  「もう少し」とは「3時間」のことだった…。「最高のキャンプ地」は、「ジャングルに囲まれたバレーコートほどの面積の平地」のこと

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー③

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー②

          ②ワニなのかトリなのか、区別がつかないよ サバイバルアマゾンツアー最初の昼食には、もう一品ついていた。見た目は、日本の唐揚げそっくりだ。 「これ何?」「まあ、黙って食ってみろ。ビールに合うぞ!」 おそるおそる食べてみると、まんま鶏のから揚げ。ジューシーで実にうまい。 「まじでうまいね。チキンも持ってきてたんだ。」 「いーや、そりゃ、ワニだ。」 ひげもじゃのサブリーダー格のナンドが笑って、奥様達の臨時ジャングル台所を指さす。そこには体長1メートルくらいのワニが転がっていた。

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー②

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー①

          ① ウォームアップに、ピラニア釣りでもやるか? 1990年代末のある年の休暇期間。ごりごりの「アマゾン通」「アマゾンマニア」のおっちゃんらと仲良くなり、 「仲良しの数家族で一緒に、久しぶりのジャングルツアーに行くんだ。お前は日本人だから、ジャングルなんて行ったことないだろ? 一緒に行かないか? めちゃくちゃ楽しいぞ!!」と、半分連れ去られるように、メンバーに入れられた。僕も、「人生でこんな機会はそうそうないだろ」と冒険心がうずいた。うずくんじゃなかったと、ツアー中後悔するこ

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー①

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー⓪

          南米大陸の中央部をごっそり占拠する「アマゾン」。 赤道に沿うように走る、世界最大の流域面積を誇るアマゾン川(その河口にある三角州は九州よりでかい! もちろん川幅が広いところでは、対岸が全く見えない)。 その恵みを受けた熱帯雨林には、一説には地球上の動植物の4分の1が生息するという。 「何でもそろう」が売りのネット通販企業が、この地名を冠するのは、さすがという気がする。 1990年代後半の南米でのサラリーマン生活。その中で知り合った「アマゾン通」のおっちゃんたちと一緒に、数回

          探検?遭難?サバイバルアマゾンツアー⓪

          マゼランは地図を持たない②

          マゼラン艦隊は、案の定、地獄よりも地獄を味わうことになる。 1519年にヨーロッパの港を、5隻300人弱で旅立ったマゼラン艦隊が、1522年に奇跡的に地球を一周して戻ってきたとき、18人になっていた。当のマゼラン船長は、かかわる必要のない争いごとに首を突っ込み、東南アジアで殺害されている。 パタゴニア最南端のフエゴ島はだいたい南緯50度。現代の船乗りたちからも「吠える40度」「狂う50度」「絶叫する60度」と恐れられる凶暴な海で、さらに周辺の地形も複雑、海流も風も不規則と

          マゼランは地図を持たない②

          数万年の時間が崩壊するペリト・モレノ氷河③

          ペリト・モレノ氷河のデータをネットでざっと調べてみる。 数千年、数万年の間にアンデス山脈に降り積もった雪は自ら氷塊に姿を変え、最も氷が厚い部分では700メートルに達する。地球の重力に引っ張られ一日に約2メートルずつ流れ下り、破壊的な重さで山脈をくり抜き、大地をえぐり取りながら進んでいく。 氷河の先端は、最後にアルヘンティーノ湖に出会う。 その断面は高さ60メートルあり、数十分おきにその一部が崩壊し、湖面に崩れ落ちるのだ。 ネットも動画もない1997年、断片的な情報を頼りに

          数万年の時間が崩壊するペリト・モレノ氷河③

          数万年の時間が崩壊するペリト・モレノ氷河②

          地球の縮図、南米大陸を地図で見ると、南に行くにつれて幅が狭まり、意外なほど南極大陸との距離は近くに見える。まるで、南極という人を寄せ付けないホワイトホールに、大陸ごと吸い込まれていくようにも見える。 「幅が狭まり」と書いたが、そこには関東平野の30倍以上の面積をもつ大草原パンパ(学生のころ地理の授業で習ったことを覚えている方もいるのでは)が広がっている。世界有数の牧畜地帯なのだが、行けども行けども、地平線しか見えない。のどかな牧場感はゼロで、広大すぎて茶色の景色に全く変化が

          数万年の時間が崩壊するペリト・モレノ氷河②

          数万年の時間が崩壊するペリト・モレノ氷河①

          地球という惑星を知りたいなら、南米大陸に行けばいい、と誰かが言った。地球上のあらゆる気候帯や地形が巨大パズルのように入り組み、人類の歴史上の営みがそこかしこに刻印されている場所だから。 例えば、 「世界で最も大きい流域面積」を誇るアマゾン川の河口に広がる三角州、マラジョ島は、九州より広い。九州が川に浮かぶ光景を日本人はイメージできるのか? アマゾン川流域に広がる熱帯雨林(ジャングル)や湿原(パンタナール)、ギアナ高地には、数百万種の動植物がひしめき、まだ人類が認知できて

          数万年の時間が崩壊するペリト・モレノ氷河①