支持され、愛され、成長する会社の秘密|地方のタオル屋さんから学んだ顧客と時代に応援される3つの要件
2019年7月17日と18日の二日間、愛媛県今治市に本社のあるタオルメーカー、イケウチオーガニックさん(IKEUCHI ORGANIC 株式会社)にお邪魔して工場見学をしてきました。僕の仕事はものづくりではありませんが、支持され、愛され、成長する会社になるために必要な、普遍的な要素を教えていただいた気がしたので、その内容を note に書き残しておきたいと思います。
※あくまで個人的見解です。予めご了承ください。
今治タオルに興味のなかった僕が、イケウチオーガニックさんに突撃訪問したワケ
僕は、イケウチオーガニックさんの商品を使ったこともなく、今治タオルについても「佐藤可士和さんがデザインしたおしゃれタオル」くらいの認識しかなく、失礼ながら、2019年5月までイケウチオーガニックさんの名前すら知りませんでした。
それが、5月18日に開催した「コミュニティリーダーズサミット in 高知」というイベントに登壇されたイケウチオーガニックの牟田口さんの話を聞き、衝撃を受け、どうしても会社のことを詳しく知りたくなりました。
だって、会社が倒産の危機になったとき、お客さんが "頑張れイケウチタオル* "というサイトを自分で作ったというんですよ。
さらに、
「イケウチさんのタオルを何枚買ったら、会社を続けられますか?」
そんなメッセージが、お客さんから寄せられたそうです。
* イケウチオーガニックさんのもともとの社名は「池内タオル株式会社」。2014年に社名変更された
お客さんからの支持が、熱量が、凄すぎる。
話を聞きながら身体が熱くなる。
「なんだなんだ、このタオルメーカー!?
どんなタオルつくってるんだ!?」
"100%無農薬のオーガニックコットンと、
風力発電のちからを使って、風で織るタオル"
なるほど、素敵なコンセプトの商品。
いやいや、でも、それだけでお客さんが、メーカーの倒産を止めるために「商品買わせてくれ」って言うか!?
この会社、ただ100%オーガニックな商品をつくっているだけじゃないはず…
※この動画でもエピソードが紹介されています
イベント当日、スタッフをしていたので、あまりゆっくり話を聞けなかったのですが、とにかく気になって仕方がない。
懇親会会場で、牟田口さんに突撃&質問攻め。
次の週には、お仕事をご一緒させていただいている高知のメーカー 2 社の経営者さんに、「一緒に、イケウチオーガニックさんの工場へ行って、意見交換させてもらいましょう!行きましょう!」と半ば強引にお誘いし…
10日後の5月28日には、牟田口さんに「高知におもしろいメーカーさんがあるので、一緒に見学させてください」とメッセージを送っていました。
前置きが長くなりましたが、情報が溢れ、人口減少を迎えた日本において、企業が生き残るためには、お客様がファンになってくれるような強い支持を集める必要があると感じていた僕にとって、イケウチオーガニックさんのエピソードは強烈でした。
書き加えると、もうひとつ、イケウチオーガニックさんが気になって仕方がなくなった理由があります。
僕は知っていたのです。
高知のメーカーで、顧客が応援団になっているような会社を。
・クラウドファンディングがない時代から、100人以上のお客さんが株主になっている木のおもちゃと家具のメーカー
・出張で近くを通ると、お客さんが「うちに泊まっていってください。話を聞かせてください」と言う薪ストーブのメーカー
この 2 社の皆さんと一緒に、イケウチさんの話をもっと詳しく聞いてみたい!
イケウチさんの話をこの 2 社の経営者さんが聞いたら、事業を大きく伸ばせるヒントを掴んでいただけるに違いない!
勝手にワクワクが止まらなくなっていました。
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支持され、愛される会社と商品の3つの特徴
そんなこんなで、3社の予定を伺って、7月18日、19日に今治市の本社工場にお伺いして工場見学と意見交換の時間をいただきました。
ホント、快諾してくださった牟田口さん、そして、2日間連続で会社のこと、商品のことを教えてくださり、またご一緒したメーカーさんとの意見交換の時間をたっぷりと取ってくださった代表の池内計司さんに感謝ですm( _ _ )m
1 時間ほど時間をかけて工場を見学させていただいた後、たっぷりと意見交換の時間もいただき、イケウチのタオルの魅力をたっぷり伺って、商品も気に入ってしまったのですが(牟田口さんおすすめのタオルを 2種買っちゃいました(笑))、それ以上に、会社としての姿勢と取り組みに強く惹かれるものがありました。
コミュニティリーダーズサミットでも、オープンハウス(ユーザーさん向け工場見学)、代表自らブログやSNSで情報発信、ユーザーの投稿にリプライする…と言ったお客さまとの接点・触れ合う機会をつくる取り組みを紹介されていましたが、今回の本社見学では、それ以前の大切なことを教えていただいたように思います。
僕が感じた3つの要件は以下の通りです。
お客さまに支持され、愛される会社の3つの要件
1. 常識を超えた品質水準を目指す …品質を徹底的に追求し続け、自社とお客さまと社会に対する価値水準を約束として宣言し守る
2. 経営者も社員も商品を愛している …作り手が愛せない商品をお客様に勧めることはできない
3. 人に説明できるような情報開示 …お客さまが「なぜ、この会社の商品が好きなのか」説明できる状態をつくる
1. 常識を超えた品質水準を目指す
支持され、愛される商品の第一要件は「品質が高いこと」。「当たり前だろ」と思うかもしれませんが、イケウチさんが目指しているタオルの品質は "常識" を大きく逸脱してます。
企業指針『2073年(創業120周年)までに赤ちゃんが食べられるタオルを創る』
…ん?食べられるタオル?
???
100%オーガニックのタオル、どころの話ではなく「食べられる」と。
生まれたばかりで免疫が低い赤ちゃん。両親が、触れるもの、口に入れるものに細心の注意を払って守ろうとする赤ちゃん。その赤ちゃんが、食べられるくらい安全なタオルを作ろうと。
この企業指針、単なるスローガンではありません。工場に入る際に、キャップとシューズカバーをつけるんですが、シューズカバーをつけるのは、ISO-22000の基準なんだそうです。ISO-22000って「食品工場」の安全基準なんですよ。タオル工場が、「食品」の安全基準を目指しているんです!
マジだ…。この会社、大真面目に食べられるタオルをつくる気でいる…( = A = )。
[タオルでは初となる ISO-22000 の取得に関わった曽我部さん]
「そりゃまあ、驚かれましたが、担当の方が良い方で何とか取得できました(笑)」とのこと。
▼イケウチさんの工場見学ではシューズカバーを付ける!これは食品工場の水準を守っているから。
ISO-22000 取得のエピソードは、イケウチさんの公式サイトにも記事化されています。
イケウチのヒト「食べられるタオルへと導く仕事人」
「食べられるタオル」とググると、いろんな方がイケウチさんの姿勢や目指している商品について記事を書いているので、気になった方は検索してみてください。
工場見学の後半に、見せていただいた検品作業では、スタッフの皆さんは手袋をつけて一つひとつのタオルを丁寧に確認していました。標準的なタオル工場の場合は、素手のほうが検品しやすいとのことですが、ここでも「食品工場」と同レベルの水準を満たすために、手袋をつけているとのこと。
検品も検針器にかけた上、一つひとつ人の手と目で確認し、バスタオルならバスタオルの検品マニュアル、ハンドタオルならハンドタオルの検品マニュアルがあり、大きなサイズのバスタオルは二人がかかりでチェックしているとのこと。すごい手間と人の集中力が動員されている…。
かっこいいスローガンを掲げる企業は少なくありませんし、耳障りの良いキャッチコピーをつけるのは簡単ですが、どれだけの企業が「掲げた通りに行動」できているでしょうか。
一見すると冗談かと思うような常識を超えた品質目標を掲げて、そこへ向かって真摯に取り組んでいく。このような姿勢で作られる商品と作り手に、ファンが付くんだなと納得したのでした。
2. 経営者も社員も商品を愛している
支持され、愛される会社や商品の要件、2つ目は、その会社の "中の人" すべてが商品を大好きという状態になっていることです。
もちろん、100%完璧な会社など存在しないと思います。しかし、弱みやまだ未熟な点を引っくるめて、会社のこと、商品のことが好きで、自分の仕事や商品、同僚や会社に愛着を持っている社員が揃っていることが重要だと思いました。
イケウチさんの社員さんの中には、元々ユーザーさんで、ついには就職してしまった人もいるそうです。大手有名外資系企業から転職をしてきた牟田口さんのように、商品を作っている企業と経営者の姿勢に共感して入社してくる人もいる。
代表の池内計司さんは、「ファンと会うことこそ、ものづくり」「お客さまの前で、90分間説明できないタオルはだめ」と仰っていると伺いましたが、まず、作り手側が商品を好きで、語りだすと止まらなくなる状態になっている必要があると感じました。
イケウチさんのコアなお客さまは「タオルマニア」のため、社員さんはその熱量や情報量を上回る必要があり、新入社員教育は大変だそうです(笑)。
工場を案内してくださったお二人の社員さんから、仕事に対するプロ意識や会社や商品に対する愛着と自信が伺えて、とても刺激になりました(僕だけ2日間連続で見学させていただいたため、社員さんごとに深く解説してくださる箇所が違ったりして、2度楽しめました♪)。
壁に貼られた作業フロー図や、社員の皆さんの写真と紹介文、代表の池内さんのメモ書きなどがあって、皆さんの仕事(思想と業務)が伝わってきました。
▼製造工程の解説!知らないことを知るって楽しい!
▼働いてる人の紹介!顔が見えると商品の見方が変わる気がする
▼代表・池内計司さんによる手書きの解説!歴史を感じられます
3. 人に説明できるような情報開示
イケウチさんは、自社サイトの情報量もかなり多いですが、「イケウチな人たち」という社員、お客さま、パートナーなど関係者の方が語るウェブメディアも運用、公式note では、会社の20年の歩みを公開しています。
自分自身が体験して実感したのですが、工場を見学させていただき、「チーズ」と呼ばれる糸の束の状態のオーガニックコットンの重さを手に触れて感じ、歴史を感じる工場の天井や、TOYOTA製の旧式織り機が現役で動く音を聞き、糸が切れないよう高めの室温と湿度が保たれた空間で、一本一本の糸が、目の前でタオルの形状になっていく様子を楽しみ、完成したタオルを丁寧に人の手で一枚一枚検品するスタッフの方の真剣な表情を見ながら、「どうしてそのようにしているのか、昔と比べてどう変化したのか、これからやりたいことや現状の課題は何なのか」を説明いただくと、完成しパッケージングされたタオルの見方が大きく変わりました。
▼これが「チーズ」だ!全部解くと「山手線一周分」の長さがある!
▼TOYOTA製の古い織り機!最新の機械と比べると遅いけどまだまだ現役!
工場見学のように、お客さまが商品を購入する以外の体験ができることだったり、Twitterで商品について投稿したら、中の人からリプライがあったりすると、商品が物理的なプロダクトから、特別な記憶とセットになったお気に入りに変わるんだと思います。
僕たちは、ショッピングセンターに行けばいろんな商品をいっぺんに見れるし、ECサイトでは指を少し動かすだけで商品が買えます。だから、忘れてしまっているもの。だけど、価値があると本当は知っていること。
僕たちが何気なく使っている商品を作った人が存在するってこと。
それを思い出し、手にとった商品が、いろんな人たちや自然の恵みや、環境があるからこそ、自分が生かされていることを感じることが大事だなと思いました。
ご一緒させていただいた、なかよしライブラリーの皆さん、おのストーブのご夫婦も「自分たちは十分に情報発信していると思っていたけれども、全然足りなかった」と仰っていましたが、物が溢れ、不要なものは要らないと考える人が多くなった現在では、
「私はなぜ、この商品を選んだのか?」
お客さまが自分の中で、納得できるだけの理由を提供することが重要なんだと思います。
そのためにも、
・なぜ私たちはこの商品を作るのか?(WHY)
・どんな人たちが、どんな想いや考えで商品を作っているのか?(WHO)
・どのように商品を作り、届けているのか(HOW)
こういったことを開示していき、社内の人たち、提携パートナー、お客さまなど関係者すべてが理解し、言語化できるように情報を提供することが重要だと感じました。
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3つの要件は、ファンを生むだけでなく、企業理念と商品販売力も強化する
1. 常識を超えた品質水準を目指す …品質を徹底的に追求し続け、自社とお客さまと社会に対する価値水準を約束として宣言し守る
2. 経営者も社員も商品を愛している …作り手が愛せない商品をお客様に勧めることはできない
3. 人に説明できるような情報開示 …お客さまが「なぜ、この会社の商品が好きなのか」説明できる状態をつくる
この 3つは、相互に影響しあっています。また、順番としては、まず①高品質な商品をつくることが最初で、知恵を絞り工夫を凝らして良い商品をつくる過程で、 ②愛着と自信が生まれ、③言語化することのできるストーリーや驚きと感動を生むエピソードができるんじゃないかと思います。
さらには、この 3つの活動を繰り返すことで、企業理念は強固になり、社内外に広がってステークホルダーすべてを巻き込んだブランド構築に繋がっていくように思います。
池内計司さんが仰っていた「今治タオルという産業を守っていく責任がある。一社ではできないから、みんなで地域の産業を守っていくことが大切」という言葉から、僕がこれまで見てきた、地方の同業者同士で牽制し合ったり、あるいは逆になあなあになってしまったりする関係ではなく、産業を活性化するための同志であり良きライバルであるという関係が大事なんじゃないかと思わされました。
イケウチさんは、中学生向けに工場見学も行っているとのこと。
これ、素晴らしい取り組みで、生徒にも会社にも意義があると思います。
先日から、ご縁あって高校で授業をさせていただいてるんですが、高校生って世の中にどんな職業があるのか、どんな仕事があって、どんな人がどんな思いで働いているのか?を知る機会が少なすぎると思うんです。
だから、将来なりたい職業を「両親の職業、学校の先生、テレビで見たことがある大企業、スマホのゲーム、YouTuber」くらいの選択肢の中から探して、ピンと来ないと「やりたいことが特に無い」となってしまってる気がします。
少し脱線しましたが、イケウチ本社の社員さんは、全員が、工場見学でアテンドができると伺いました。お客さまや子どもたちに説明するために、自分の業務範囲以外のことも調べて深く理解するようになりますし、見学者の表情を見ながら話をする中で、自分の仕事に対する考え方も強化されていくんじゃないでしょうか。
マーケティングの基本は、「誰に、何を、どうやって届けるか」ですが、情報公開によって、お客さまの方が「誰が、何を、どうやって作っているのか」を知っている状態で、かつ社員が「品質に自信を持ち、商品が大好きで、心からその良さを伝えることができる」。
これで、売れないはずがない。
まとめ: 支持させるブランドや愛される商品は、かっこいいキャッチコピーやイケてる広告では作れない
「マーケティングという言葉は、近い将来なくなるかもしれない」
こんなセリフを話すマーケターが増えてきたように感じます。
言葉がなくなるかどうかは分かりませんが、僕たち広告代理店やウェブ制作会社、商品開発コンサルタントといった外部の会社が「マーケティング」という言葉を、商品が生まれる現場やお客さまが喜ぶ姿を見ることから、切り離してしまったんじゃないかとも思います。
良い商品を作って、それを必要としている人に届けて、満足いただく。この連続した活動=マーケティングだとするならば、常にそこに立ち戻って発想する必要性を感じます。手段として、お客さま向けにオープンハウスを実施すれば、それで良しということじゃなく。
・利益率の高い商品を作りたいがために、
今までにない斬新なパッケージデザイン採用したが、
既存の会社イメージと乖離がある
・既存の商品を売るために、
テレビCMなどの広告のみによってイメージを変えようとする
まだまだよく見られる、こういった表面的でインスタントな解決をしようとしてしまう状況を変えていかなきゃと思います。
改めて広告のコミュニケーションって、プロダクトと切り離して作品化しちゃだめだなと思いました。
イケウチさんは、2014年に社名を「池内タオル」から「イケウチオーガニック」に変更されています。タオルというから商品カテゴリではなく、「オーガニック」へのこだわり、信念を社名に入れた。
CI / VIの変更だけでなく、商品写真の角度や店頭におけるディスプレイの仕方にも、イメージ統一のためのルールがあるそうです。徹底されてる…。
最後に。イケウチオーガニックさん、思想と事業と商品が一気通貫されていて "粋" や "ロック" を感じる素敵な会社で、代表の池内計司さんに直接お話を伺えて本当に良かったです。ものづくりをしている高知の会社の皆さんとご一緒させていただいたことで、一人でお話を伺う以上の気づきがありました。
池内さん、本も出されているようなので、早速購入してもう少し深くお考えを理解したいと思いました。
それから、やっぱり広報をされている牟田口さんの考え方や取り組みをベンチマークしたい。地方には、まだまだイケウチオーガニックさんのように、ご一緒した高知のメーカーさんのように、お客さまから強く支持されている素晴らしい商品を作っている会社があると思います。ですが、それらの会社の広報に、牟田口さんのような方がいるケースは少ないように思います。
僕たち広告やウェブ制作に関わる人間は、販促物をつくるという意識ではなく、"最も親しい第三者" という立場で、商品の魅力を言語化し、お客さまに届ける役割を担うパートナーとなれるよう、自己変革し、もっと現場に近く存在しなきゃいけないと改めて思います。まずは自分から変えていく。
イケウチオーガニックの皆さん、ご一緒させていただいた、なかよしライブラリーの皆さん、おのストーブの皆さん、ありがとうございました!
そして、出会いをくれたコミュニティリーダーズサミットにも感謝!
四国のものづくりの未来は明るいです◎。
リンク
・"食べられるタオル"を目指し、100%無農薬オーガニックコットンを風で織るタオルをつくる会社:イケウチオーガニック
・化学塗料を一切使わず、国産の木材のみを使って手仕事でつくる木のおもちゃと家具の会社:なかよしライブラリー
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