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腰痛はどのような業種で起こりやすいですか?

腰痛の発生件数は増加傾向にあり、毎年業務上疾病に占める割合の約6割を占めています。特に小売業、介護施設では「転倒」および腰痛等の「動作の反動・無理な動作」など職場における労働者の作業行動を起因とする労働災害が増加しています。重量物取り扱いなどによる腰痛予防のためには、「職場における腰痛予防対策指針」に基づき、対策を講じる必要があります。
なお、「職場における腰痛予防対策指針」では、一般的な腰痛の予防対策を示した上で、腰痛の発生が比較的多い次に掲げる (1)から 5 まで の5つの作業における腰痛の予防対策を示している。
(1)重量物取扱い作業
(2)立ち作業
(3)座り作業
(4)福祉・医療 分野 等における介護・看護作業
(5)車両運転等の作業

腰痛を予防するために作業管理、作業環境管理はどうしたらよいですか?

作業管理

(1)自動化、省力化
腰部に負担のかかる重量物を 取 り 扱 う作業 、人 を 抱え上げ る作業 、不自然な姿勢 を伴う作業で は、作業の全部又は一部を自動化することが望ましい。それが困難な場合には、負担を減らす台車等の適切な補助機器や道具、介護・看護 等 においては福祉用具を導入する などの 省力化 を行い 、労働者の 腰部への 負担を軽減 する こと。

(2)作業姿勢、動作
労働者に対し、次の事項に留意させること。
イ前屈、中腰、ひねり、後屈ねん転等の不自然な姿勢を取らないようにすること。適宜、前屈や中腰姿勢は膝を着いた姿勢に置き換え、ひねりや後屈ねんてんは体ごと向きを変え、正面を向いて作業する ことで不自然な姿勢を避ける ように心がける。また、作業時は、作業対象にできるだけ身体を近づけて作業すること。
ロ不自然な姿勢を取らざるを得ない場合には、前屈やひねり等の程度をできるだけ小さくし、 その 頻度と時間を減らすようにすること。また、適宜、台に寄りかかり、壁に手を着き、床に膝を着く等をして身体を支えること。
ハ作業台や 椅子は適切な高さに調節すること。 具体的には、 立位、椅座位に関わらず、作業台の高さは 肘 の曲げ角度がおよそ 90 度になる高さとすること。 また、 椅子座面の高さは、足裏全体が着く高さとすること。
ニ立位、椅座位等において、同一姿勢を長時間取らないようにすること。 具体的には、 長時間の立位作業では、 片足を乗せておくことのできる足台や立位のまま腰部を乗せておくことのできる座面の高い椅子等を利用し、長時間の座位作業では、適宜、立位姿勢を 取 るように心がける。
ホ腰部に負担のかかる動作では、姿勢を整え、かつ、腰部の不意なひね り 等の 急激な動作を避けること。また、持ち上げる、引く、押す等の動作では、膝を軽く曲げ、呼吸を整え、下腹部に力を入れながら行うこと。
ヘ転倒やすべり等の防止のために、足もとや周囲の安全を確認するとともに、不安定な姿勢や動作は取らないようにすること。また、大きな物や重い物を持っての移動距離は短くし、人力での階段昇降は避け、省力化を図ること。

(3)作業の実施 体制
イ作業時間、作業量等の設定に際しては、作業に従事する労働者の数、作業内容、作業時間、取り扱う重量、自動化等の状況、補助機器や道具の有無等が適切に割り当てられているか検討すること。
ロ特に、 腰部に過度の負担のかかる作業では、無理に1人で作業するのではなく、複数人で作業できるようにすること。 また、 人員配置は、労働者 個人 の 健康状態 (腰痛の有無を含む。 、特性年齢、性別、体格、体力、等 )、技能・経験等 を考慮して行うこと。 健康状態は、例えば、4の( の健康診断等により把握すること。

(4)作業標準
イ作業 標準の策定
腰痛の発生要因を排除又は低減 できるよう 、作業動作、作業姿勢、作業手順、作業時間等 について、 作業標準を策定すること。
ロ作業標準の見直し
作業標準は、個々の労働者の健康状態・特性・技能レベル等を考慮して個別の作業内容に応じたものにしていく必要があるため、 定期的に確認し、また新しい機器、設備等を導入した場合にも、その都度見直すこと。

(5)休憩 ・作業量 、作業の組合せ 等
イ適宜、休憩時間を設け、その時間には姿勢を変えるようにすること。作業時間中にも、小休止・休息が取れるようにすること。また、横になって安静を保てるよう十分な広さを有し、適切な温度に調節できる休憩設備を設けるよう努めること。
ロ不自然な姿勢を取らざるを得ない作業や反復作業等を行う場合には、他の作業と組み合わせる等により、当該作業ができるだけ連続しないようにすること。
ハ夜勤、交代勤務及び不規則勤務にあっては、作業量が昼間時における同一作業の作業量を下回るよう配慮し、適宜、休憩や仮眠が取れるようにすること。
ニ過労を引き起こすような長時間勤務は避けること。

(6)靴、服装等
イ作業時の靴は、足に適合したものを使用すること。腰部に著しい負担のかかる作業を行う場合には、ハイヒールやサンダルを使用しないこと。
ロ作業服は、重量物の取扱い 動作 や 適切 な姿勢 の保持 を 妨げないよう 、伸縮性、保温性、吸湿性のあるものとすること。
ハ腰部保護ベルトは、個人により効果が異なるため、一律に使用 する のではなく、 個人毎に 効果を確認してから使用 の適否を判断す ること。

作業環境管理

(1)温度
寒冷ばく露は腰痛を悪化させ、又は発生させやすくす るので、屋内作業場において作業を行わせる場合には、作業場内の温度を適切に保つこと。また、冬季の屋外のよう に 低温環境下 で 作業 させざるを得ない 場合には、保温のための衣服の着用や暖房設備の設置に配慮すること。

(2)照明
作業場所、通路、階段等で、足もとや周囲の安全が確認できるように適切な照度を保つこと。

(3)作業床面
労働者の転倒、つまずきや滑りなどを防止するため、作業床面はできるだけ凹凸がなく、防滑性、弾力性、耐衝撃性及び耐へこみ性に優れたものとすることが望ましい。

(4)作業空 間や設備、荷の配置等
作業そのものや動作に支障をきたすような機器や設備の配置や整理整頓が不十分で雑然とした作業空間、狭い作業空間 は 、腰痛の発生や症状の悪化につなが りやすい ことから、作業そのものや動作に支障がないよう十分に広い作業空間を確保し、 2の ( のように作業姿勢、動作が不自然にならないよう、 機器・設備、荷の配置 、作業台や椅子の高さ 等に配慮を 行う こと。

(5)振動
車両系建設機械の操作・運転等 により腰部 と 全身に著しく粗大な振動、あるいは、車両運転 等 により腰部 と 全身に 長時間 振動を受ける場合、腰痛の発生が懸念されることから、 座席等について 振動ばく露の軽減 対策をとる こと。

重量物についてはどのように扱う必要がありますか?

重量物を取り扱う作業を行わせる場合には、事業者は、単に重量制限のみを厳守させるのではなく、取扱い回数等の作業密度を考慮し、適切な作業時間、人員配置等に留意しつつ、次の対策を講ずること。
なお、重量物とは製品、材料、荷物等のことを指し、人を対象とした抱上げ等の作業は含まない 。

1自動化、省力化

重量物の取扱い作業については、適切な 動力 装置 等により自動化し 、 それが困難な場合は、 台車、補助機器の使用等により人力の負担を軽減することを原則とすること。 例えば、倉庫の荷役作業においては、 リフターなどの昇降装置や自動搬送装置 等 を有する貨物自動車を採用したり、ローラーコンベヤーや台車・二輪台車などの補助機器や道具を用 いるなど、省力化を図ること 。

2人力による 重量物の取扱い

(1)人力による重量物取扱い作業が残る場合には、作業速度、取扱い物の重量の調整等により、腰部に負担がかからないようにすること。
(2) 満 18 歳以上の男子労働者が人力のみにより取り扱う物の重量は、体重のおおむね 40 %以下となるように努めること。満 18 歳以上の女子労働者では、さらに男性が取り扱うことのできる重量の 60 %位 までとすること。
(3) (2) の重量を超える重量物を取り扱わせる場合、適切な姿勢にて身長差の少ない労働者2人以上にて行わせるように努めること。この場合、各々の労働者に重量が均一にかかるようにすること。

3荷姿の改善、重量の明示等

(1)荷物はかさばらないようにし、かつ、適切な材料で包装し、できるだけ確実に把握することのできる手段を講じて、取扱いを容易にすること。
(2)取り扱う物の重量は、できるだけ明示すること。
(3)著しく重心の偏っている荷物は、その旨を明示すること。
(4)荷物の持上げや運搬等では、手カギ、吸盤等の補助具の活用を図り、持ちやすくすること。
(5)荷姿が大きい場合や重量がかさむ場合は、小分けにして、小さく、軽量化すること。

4作業姿勢、動作

労働者に対し、次の事項に留意させること。重量物を取り扱うときは、急激な身体の移動をなくし、前屈やひねり等の不自然な姿勢はとらず、かつ、身体の重心の移動を少なくする等できるだけ腰部に負担をかけない姿勢で行うこと。 具体的には 、次の事項にも留意させること。
(1)重量物を持ち上げたり、押したりする動作をするときは、 できるだけ身体を対象物に近づけ、重心を低くするような姿勢を取ること。
(2)はい付け又ははいくずし作業においては、できるだけ 、 はいを肩より上で取り扱わないこと。
(3)床面等から荷物を持ち上げる場合には、片足を少し前に出し、膝を曲げ、腰を十分に降ろして当該荷物をかかえ、膝を伸ばすことによって立ち上がるようにすること。
(4)腰をかがめて行う作業を排除するため、適切な高さの作業台等を利用すること。
(5)荷物を持ち上げるときは呼吸を整え、腹圧を加えて行うこと。
(6)荷物を持った場合には、背を伸ばした状態で腰部のひねりが少なくなるようにすること。
(7)2人以上での作業の場合、可能な範囲で、身長差の大きな労働者同士を組み合わせないようにすること。

5取扱い時間

(1)取り扱う物の重量、取り扱う頻度、運搬距離、運搬速度 など、 作業 による負荷 に応じて、小休止・休息をとり、また他の軽作業と組み合わせる等により、 連続した 重量物取扱い時間を軽減すること。
(2)単位時間内における取扱い量を、労働者に過度の負担とならないよう適切に定めること。

6その他

(1) 必 要に応じて腰部保護ベルトの使用を考えること。腰部保護ベルト については 、一律に使用させるのではなく、労働者 ごとに 効果を確認してから 使用 の適否 を判断 す ること。
(2) 長時間車両を運転した後に重量物を取り扱う場合 は 、小休止・休息及びストレッチングを行った後に作業を行わせること。
(3) 指針本文「4 健康管理」や「5 労働衛生教育等」により、腰部への負担に応じて適切に健康管理、労働衛生教育等を行うこと。

介護職の腰痛はどのように予防したらよいですか?

高齢者介護施設・障害児者施設・保育所等の社会福祉施設、医療機関、訪問介護・看護、特別支援学校での教育等で介護・看護作業等を行う場合には、重量の負荷、姿勢の固定、前屈等の不自然な姿勢で行う作業等の繰り返しにより、労働者の腰部に過重な負担が持続的に、又は反復して加わることがあり、これが腰痛の大きな要因となっている。

(1)対象者の残存機能等の活用

対象者が自立歩行、立位保持、座位保持が可能かによって介護・看護の程度が異なることから、対象者 の残存機能と 介助への 協力 度等 を踏まえた介護・看護方法を選択すること。

(2)福祉用具の利用

福祉用具(機器・ 道具)を積極的に使用すること。

(3)作業姿勢・動作の見直し

イ抱上げ
移乗介助、入浴介助及び排泄介助における対象者 の抱上げは、労働者の腰部に著しく負担がかかることから、全介助の必要な対象者 には、リフト等を積極的に使用することとし、 原則として 人力による人の抱上げは行わ せ ないこと。また、 対象者 が座位保持できる場合にはス ライディングボード等の使用、立位保持できる場合にはスタンディングマシーン等の使用を含めて検討し、 対象者 に適した方法で移乗介助を行 わせる こと。人力による荷物の取扱い作業の要領については、「I重量物取扱い作業」によること。

ロ不自然な姿勢
ベッドの高さ調節、位置や向きの変更、作業空間の確保、スライディングシート等の活用により、前屈やひねり等の姿勢を取ら せ ないようにすること。特に、ベッドサイドの介護・看護作業では、労働者が立位で前屈にならない高さまで電動で上がるベッドを使用し、各自で作業高を調整 させ ること。不自然な姿勢を取らざるを得ない場合は、前屈やひねりの程度を小さくし、壁に手をつく、床やベッドの上に膝を着く等により身体を支えることで腰部にかかる負担を分散 させ 、また不自然な姿勢をとる頻度及 び時間も減らすこと。

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