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ガパオおじさん

私はエスニック料理を食べに行くのが大好きです。

木彫りの置物 民族衣装の店員さん カラフルで不思議な料理…まるでおとぎの国の旅人になった気分です。

しかし、ひとつだけどうしても現実に引き戻されてしまって口にできないものがあります。

タイ料理のガパオライスです。私は他人の作ったガパオライスがどうしても食べられないのです。

それは次のような恐怖体験に基づいています。


——私の地元に“ガパオおじさん”(勝手に命名)というおじさんがいます。

彼はお気に入りの女の子の勤め先やお誕生会の情報を聞きつけてはヌルリと現れ、箱から手作りのガパオライスを取り出し

「今すぐ目の前で食べろ」

と強要してきます。ケーキのように丸く形作られたガパオライスの上には、ハムでできたウサちゃんや海苔で描かれた“HAPPY BIRTDAY”の文字。

(おじさんちの台所で作ったのか?)
(手は洗ったのか?)
(火は通っているのか?)
(皿もおじさんちのやつなのか?)
(とにかく、ちゃんと、洗ったのか?)

その場にいる全員が全ての言葉を飲み込み、切り分けられたガパオライスを大人しく口に運びます。
おじさんの魔法にかかった者は、何故か抵抗できずに笑顔でガパオライスを食べるしかなくなるのです。もちろん追い出す事もできません。

そんな中、難を逃れた2人の人間がそのおぞましい光景を遠巻きに見つめていました。

そう、私と夫です。

私たちは情や善意といった魔法が効かないほどに屈強な“衛生観念”を持ち合わせていました。

「ダイエット中なので」と奥へ引っ込む私と「オレ他人のおにぎりとか無理やねん」と真顔で突っぱねる夫を、全員が引きつった笑みで睨みつけていました。

幾たびも繰り返されるこの出来事のお陰で、私たち夫婦はガパオライスを見るとおじさんの顔が 指が メチョメチョになったハムのウサギが脳裏を支配するようになり、すっかりガパオライス恐怖症になってしまいました。

けれどいつかタイで本場のガパオライスを味わいたい気持ちがあり、思い切って似た感じの物を作ってみました。

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あり合わせの物で見よう見真似で作った偽ガパオライス。ちょっとだけおじさんが顔を覗かせましたが自分で作ったのもならなんとかいけるようです。

本当は近くのエスニックカフェで食べてみたい。色んな人とおすすめのお店やレシピを共有してみたい。けれどハッシュタグなどは付けません。

何故ならおじさんがヌルリと現れるかもしれないから…


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