空想旅行と時刻表

時刻表を見ながら、旅行を空想するのが好きだった。
きっかけは、小学5・6年生ぐらいの時、近所に住む従兄に時刻表の見方を教えてもらったことだった。

それまで自分一人で電車に乗って、何処かに行く、という発想自体が無かった。電車とは免許を持っていない大人と出かける時に乗る乗り物、という印象だった。あるいは正確な時間に目的地に着くための乗り物。

小学1年生の頃に、「はじめてのお使い」ならぬ、「子供だけでの初めての乗車」をした記憶がある。祖母宅への訪問のため、電車に子供だけで乗ったのだ。その時も姉と二人であって、一人ではなかった。途中、一度乗り換えをして、着いた駅のホームには祖母が待っていてくれたので、本当に、二人で電車に乗っていただけだったけれど。ただ、切符を買うとか、どの駅で乗り換えるとか、降りる駅を間違えないとか、やはり、私にとっては大冒険だった。

普段、主に母が運転して、車で移動することが多かったので、母のいつもと違う経験をさせたいという親心から発した試みだったようだ。

近所に住む従兄は鉄道や電気系の機器をいじるのが好きな、いまでいうオタク気質の人だった。年齢的には3歳年上だったが、小学生からしたら中学生の時点で十分大人に見えた。たまたま遊びにいって、机の上に載っている分厚いJTB時刻表が気になり、「これは何?」と聞いたような気がする。

前半には少しいびつな日本地図らしきものが書かれていて、その中に色々な鉄道の沿線が示されていた。
ページをめくると、恐ろしく細かい数字の一覧。新幹線の時刻表、そして在来線の時刻表と、続く。
詳しく説明を受けると、始発や終点を結ぶ毎日の電車の発着が正確に表になっていた。
それから時刻表を見るのが楽しみになり、本屋さんで買いたいと思うようになった。
しかし、よくよく聞くとダイヤは定期的・不定期に変更があり、最新のものを使わないと正しく運行が表示されていないということだった。

しかも、小学生のお小遣いをもらっていない身としては時刻表は価格は高かった。ポケット版のようなものもあったが、大きなB5判の方がいいもののように感じていた。実際、B5判の方が見易い気がする。

当時、私と姉は、必要なものは母親に申告して買ってもらい、自分の欲しいものはお正月のお年玉から出す、というルールだった。妹は変更してお小遣いを貰っていたが。
親戚が多いので、お年玉が少なすぎる、ということは無かったが潤沢でもない。

中学生になった時、一大決心をして時刻表を買った。
よく考えたら一人旅をする予定がある訳ではなく、地図をみて、時刻表をつないで、電車を乗り継ぎをしながら行ける場所を空想しているのが好きなだけだったので、最新版である必要は無かったのである。
ページの上や横の端に時々書かれている、現地の駅で買えるお弁当やお菓子を見て、この駅でこれを買って、と空想を楽しんでいた。

大人になって、中学生の頃からずーっと気になっていた中央本線小淵沢駅で買えるお弁当の「元気甲斐」を買った時は、感無量だった。そして美味しかった。因みに、このお弁当は従兄も、「食べたい」と言っていて、私と時期は異なるが中央本線で山梨に行った折に買って食べたようである。

◇◇◇◇◇

高校生の時は、思い立って一人で在来線と新幹線を使い広島に日帰りで行った。前日に戦争の報道番組を見て、急に原爆ドームに行ってみたくなったのである。これも時刻表で移動するのを普段から空想していたおかげである。

大学生になって一人暮らしをすることになった時は、ポケット版を購入した。実家から特急を乗り継いで6時間ほどの距離を移動しなければならなかったから、毎回、帰省の際はとてもお世話になった。

現在、スマホで使う「乗換案内」などのアプリは慣れている線であれば便利だけれど、旅行に行った時は絶対時刻表の方が便利で見やすいと思う。自分のいる場所やローカル線がどのように接続されているか、急な遅延などの際も、他の時間の便を探したり、その後の動きの予測が出来る。アプリと比べれば重いのが難点だけれども。


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