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晴天やって明日もまた

 住んでいる街では、稲穂がみのりこうべを垂らす様子は見られないが、脳裏にある実家の風景には田んぼと、畑と、用水路がある。
 郷里を離れて根無し草となり久しく、頭髪や髭にも白いものが混じり、朝の洗面所ではえづくなど、私の体も色々と変化してきた。帰省の折に気づいてしまうのだが、いつまでも食欲旺盛だと思っていた父の食は細くなり、ふいの昼寝の時間も長くなっている。ただ、脳裏にある郷里と現実の郷里はそれほど変わらず、夏はカエルの合唱が暗い夜を埋め尽くし、秋には黄色の稲穂の海の上をよく衝突しないものだと思うほどトンボが舞う。
 空の雲が高く薄くなってきたこの頃、郷里のトンボ達はお互いの距離をはかりながら旋回しているのだろう。
 社畜の子は社畜、社畜の親も社畜。仕事の虫であった父は、何の引き合わせか、引退間近頃より友人に誘われて半農生活を初めた。老人二人とその妻たちで管理している田んぼは、それほど反数は無いが、年中自分でコメを買わなくていいほどの仕送りを受けられる程度の耕作面積がある。年々、自称”元気老人”たちだけでは作業は困難になってきており、いつからか私が田んぼに通うようになっている。こっちだってガタは確実に来ているのだが、田んぼのヘリにへたり込む老人の姿を想像すると向かわずにはおれない。今年も私は助っ人になっているわけだ。
 田植えと稲刈り以外の作業は多少あれども、米は農作物の中ではそれほど手間のかからないものと聞いたことがある。しかし、普段農作業どころか肉体労働をしないデスクワーカーにはつらい作業である。
 つらい作業ではあるが、私は稲刈りが好きだ。田植えよりも断然稲刈りがいい。
 稲刈りはまず、コンバインが稲を踏みつけずに農道から田んぼに降りられるように、降ろす場所一帯の稲を、中腰で鎌で刈り取るところから始まる。開始早々から腰に重みを感じながら、トラクターを起動させて、きれいな列のように刈り取れるよう注意を払いながらキャタピラーを進めていく。トラクターが一度に刈り取れる幅で最大限無駄のないように運転したいのだが、粘土質で凹凸のある地面の上では中々うまくかじ取りができない。新しいトラクターであれば刈り取った実をタンクに蓄えて、農道に置いたトラックの上の米袋に一気に詰め込むことができる。しかし郷里の旧式トラクターはタンクも小さく、運転者とは別にもう一人乗り合わせて、定期的に米袋にタンクの中の実を詰め込む作業をしなくてはならない。そしてぐるぐる田んぼの中を回るトラクターがトラックに近づいたタイミングを見計らって、パンパンに実の詰まった米袋を荷台に運び入れる。これが一番つらい。一袋20kg以上ある米袋を三桁は運ばなくてはならない。汗だくになり、泥にまみれていくうちに、明日以降の筋肉痛が運命つけられた手足が棒のようになっていく。何度かの休憩をはさみ、あへあへ元気老人グループの顔が土気色になったころ、夕焼けの中やっと一日の作業が終わる。

 この瞬間が大好きなのだ。

 トラクターの音と振動に驚き、バッタ、イナゴ、カエル、様々な生き物が稲の隙間から逃げ出す。飛び出してきた臨時のごちそうにありつこうと、カラスやトンビが田んぼの制空権を争う。最後の一列の稲の中に怯えながら身を潜めていた虫たちが飛び出し、すっかり稲も無くなると、鳥たちは雑木林や山に帰っていく。
 夕焼け空の天敵がいなくなり、人間たちが農具を片付けだす頃、一度は逃げ出したクモたちが縄張りにもどってくるのか、刈り込まれてすっかり短くなった稲の切り株のあちらこちらに急増のクモの巣がこしらえられていく。
 このクモの巣が夕日に照らされ、乾き始めた秋の風にゆらゆらと揺られながら、その波に合わせてきらきらと、おだやかに夕日を反射させる。
 これが、えも言われないほどきれいなのだ。汗に濡れた作業着にあたる微風がここちよく涼しく体をくすぐり、老兵たちと戦った戦場から、おだやかにゆらゆらとおどる反射光たちが、疲れで半目になりかけた目も楽しませてくれる。あぁ、今年の新米もうまいだろうな、と独り言ちながらゆっくりと片付けをすすめるのだ。

 稲刈りをするには稲穂が乾燥していないと、いなもみを乾燥機にかけた際に米粒が欠けるため、稲刈り予定の前何日かは晴れていなくてはいけない。昨年は予定日通りの稲刈りとなったが、一昨年は何度か雨によって順延し、結果、粒が肥大しすぎてひび割れているものが多くなってしまっていた。
 今年の新米は美味しくきれいに迎えたい。

じゃない。

10/3からの週は晴れないとダメ!!!
10/8に命がけで稲刈りをおわらせないとダメ!!!!!
10/9京都MUSEにいけないじゃないか!

10/3一周年は残念ながら行けません。。。
せめて10/9よろしくお願いします。お天道様。

晴天であれ明日もまた
晴天であれ明日もまた
晴天であれ明日もまた
晴天であれ明日もまた




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