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color 2

 続き。

 beforeの色は青であった。今回はafterの話から。

 1年の浪人を経て、地方都市のベッドタウンである故郷から京都に都入りし大学生活を始めた。
 身長体重のスペックから被った体育会系からの鬼オファーを何件か断り続け、学生食堂でも体育会よろしくの諸先輩方に声をかけられなくなってきていた1年生の終わり頃にafterを経験した。
 結局、大学から何となく始めてみたいと考えていた、とある文科系のサークルに所属をした。それなりの人数がいる団体であったが、合宿や日々の活動を共に経験をし、殆どのメンバが積極的に和気あいあいと活動をしていた。来年の新入生向けの勧誘を意識してか、長い春休みのある日ホームページの作成に向けての話し合いがもたれた。
 活動記録やメンバ専用掲示板、記録写真のアップなど大体のコンテンツはお決まりのものであったが、メンバ紹介については少し趣向を凝らそうということになった。
 どんな工夫等したのかあまり詳細を覚えていないが、一つ。同級生のメンバの中に、人のオーラが色で見える、という女性がおり、メンバ紹介ページ それぞれのバックの色をそのオーラの色にすることが決まった。何故1年間その特技?を披露しなかったのか疑問ではあったが、その女性は何か笑いのツボに入ったことがあると半日は断続的に笑っていたり、飲んでいたペットボトルのお茶を男性メンバにふいに「いる?」と飲ませようとしたり、朗らかな天然といった人であったため、オーラが見えるという点もその場にいたメンバは皆すんなり受け入れていたように思う。私も、サークルの活動と個々人の役割の関係上、彼女とは行動を共にする時間が多く、お互いに打ち解け合っており、天然だけど嘘をついたり人を試すようなことは一切しない彼女の芯のある性格から、オーラが見えるという点をあまり疑いなく受け入れていた。早速、その女性が一人ひとりのオーラの色を見ていくことになった。
 浪人の1年の期間も合わせ高校卒業から2年近く経ち、私の生活は大きく変わり高校時代を思い返すことも少なくなっていたのだが、オーラを見られる順番(奇妙)を待つ間に、ふと「青といわれるのだろう」と、高校時代の友人A、Bとの思い出もよみがえりながら考えていた。
 あなたは優しいオレンジ、あなたは渋めのシルバー、あなたは…明るい水色など、寒色・暖色様々な色が割り与えられていった。彼女が色だけでなく性格や印象なども伝えながら色を伝えていった。全メンバの長所を織り交ぜた色分けは、誠実で気配りも出来る彼女らしい、場が和む内容で進められていった。ホームページも色鮮やかになるのだろうと想像しながら自分の番を待っていた。
 ようやく自分の番が回ってきた。ここまで、水色や紺など青色系のオーラを持つメンバはいたが、青はまだ出ておらず、半ば青なのだろうと確信しながら彼女に向き合った。
 少し真剣なまなざしながらも口元は笑顔のまま、彼女がじっと私の顔を見る。大体2、3秒程度の沈黙の後、私のオーラの色が彼女から伝えられた。

 「あなたの色は、少し暗めの茶色。」

 ?
 ?

 先ず、青ではないことに肩透かしを食らったように感じながら、それ以上に「暗め」とはどういうことか、という驚きから、自然と
 「なんで?」と周り聞こえわたるほどの声が出た。
 私の前のメンバまで、暖色系はあったものの明るかったり鮮明な色がほとんどであり、少なくとも、暗い色と明確にマイナス表現をされた者はいなかった。
 そして、茶色。暗めの茶色。聞いて何を思い浮かべるか。他のメンバの男性の中には、ふざけた調子でその思い浮かぶモノの名前を口走る者もいた。いわれこそしなかったが、私自身も不浄なあの虫などを思い浮かべてしまった。私の動揺に反してその場は特に水を打ったようなこともなく、前半に色分けをされたメンバ間では新歓の方法の議論なども始まっていたためにマイナスな雰囲気とはならなかったが、私の驚きの声や近くにいたメンバの様子などから、彼女も少し気まずさを感じたのか、慌てて私の長所などを話しはじめた。
 「ほら、茶色って木や土みたいに落ち着いてて包容力があるというか、、」
 彼女を責める気は全くないのだが、どうしてもフォローにしか聞こえなく、その長所を表すにも他の色があるんじゃないかなどと考えていた。
 確かに、私は自己主張するよりは事なかれが先行するタイプであり、結果、人の話を聞く役に回ることが多い。また、外見に反比例して気が小さいため、人に嫌われるのが怖くて人のフォローや雑事の処理などを買って出ることが多いとは思う。ただ、それなりにそういった性質にのっとって頑張っているとは思うのに、暗い茶色とは。。。

 結局、次の年の新歓時期に向けて作成されたホームページのメンバ紹介の中には、ゴッホの「包帯をしてパイプをくわえた自画像」のような2年生男性メンバが登場することになった。
 せめてもの抵抗として青色のニット帽をかぶって写真撮影に臨んだのが、余計にゴッホ味を演出してしまった。
 後味がビターにならないように補足をすると、彼女とはその後のサークル活動でも仲良く交流し今も年賀状のやり取りは続いている。家族写真で見る彼女は相変わらず明るい笑顔をたたえている。

 これがafterの色「茶色」である。

 before及びafterでの、色と共に添えられた私の印象と思われる内容を考えてみる。
 成り行きからの役回りであったり性質上のものなのだろうが、主役にはならずに主たるストーリーの歯車として存在することを好意的に捉えて貰ったという点はbofore、afterで共通しているだろう。
 ただ、印象として与えられた色が全く異なるという結果になっている。
 観測した人物が異なるためにその色に違いが出たとも言えるかもしれないが、beforeにおいては友人A、Bで共通した青。afterにおいては述べていなかったが、私の色は茶色が妥当だということは、その場にいた何人かのメンバが青色では決して無いということも含んで答えていた(私は青がいいと少し抵抗もしたのだ。)ため、複数にで一致した見解となっていた。

 青から茶色へ、何が、どう、私の印象変化に作用したのかはわからない(予測しうるものも語らない)が、人の印象というものが複数人の間で同じ色として共通認識されるということは面白い。

 茶色(暗い、は除こう)と言われてから干支が悠に一回転以上している今、私の色は何色になっているのだろう。

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