マガジンのカバー画像

写真小説 DO TO

18
画家が抱える問題意識や、思想的な議論、そして極めて人間的な交流が、無作法なまでにゆったりとした語りの方法で展開します。豊平川の程近くにたたずむ小さな美術館。HOKUBU記念絵画館…
運営しているクリエイター

#HOKUBU記念絵画館

DO TO(1) 「あれから好きな画家は河原朝生」

小西さん 久しぶりです。日増しに寒くなりますが、つつがなくお過ごしですか。私はいま網走行きの列車の中です。レンガ造りの洋館が残る街から六時間がかりの旅を意気消沈してすごしています。長い長い道のりです。私の人生への問いかけは静かな空に向けられています。どんなにがっかりしているかお分かりにならないでしょうね。不本意ですが、とうとう都落ちです。窮迫した生活から逃げてきました。都会を離れたら、もう画家としての道は閉ざされるという不安が、私をとらえます。出るのはため息ばかりです。停車

DO TO(2) 「あれから好きな画家は河原朝生」

小西さん 開拓者によって開かれた、網走の町のはずれに居を構えました。豊荘という名のついたアパートです。畳の焼けた名ばかりのアパートです。引っ越しはひと段落しましたが、まだ、あわただしい雰囲気です。灯油業者への連絡や、ダンボールの処理など、この調子では部屋が片付くころには大晦日です。何もかも自分たちでやらねばならないのですが、ほこりにも、寒さにも、あきあきしてしまいました。部屋はお香のような古びた匂いがしますが、窓を開けようものなら、冷気が部屋に吹き込みます。いま外の気温は5