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『RAN MAN/+3』感想

自分は今、やるべきことにとてつもなく追われている。
「忙しい」と言うと、それを言い訳に心を亡くしてしまいそうで嫌なのだけれど、そんな状態かもしれない。
毎日毎日追われているし、なんなら日に日にやるべきことが増えていっている。

そんな日常の中で「この日まで頑張ろう」っていうものがあるとちょっとだけ心がはねる。

7月29日はそんな日だった。この日まで走り抜けてきた。自分も『RAN MAN』かもしれない。

7月29日は、『+3(たすさん)』の第2回公演の日。

第1回公演のときよりも『+3』の3人との関わりが圧倒的に増えていて(エキカレを卒業してからの方が一緒に過ごした時間は長いのかもしれない)、より楽しみになっていた。

しかも、今日は友達を誘ってきた。一週間前に「面白いから!」って言って、それで来てくれるような、フットワークの軽い、行動力の塊の友達。

わくわくそわそわしていると暗転した。



(※演目の名前は合っているか不明。特徴的な単語を仮題とした)

1.脱獄

ずっと好きであり続けられるもの、いつまでも「好き」が尽きないものってあると思う。どんな共通点があるのだろう。そう考えてみると、共通点とは、

ずっと「新しい顔」を見せてくれること

かもしれない。


この演目では、ゆかちゃんの「新しい顔」を見た。

自分の目で見えている、ゆかちゃんは、ほんわりしていて、やわらかな感じで、周りにまとっている空気の輪郭が曖昧なことが多いけれど(そこに良し悪しの判断はまったくない)、この演目ではくっきりとした輪郭が見えた気がする。目が奪われた。


「ひとつの抜け穴の中に3人いる」という事実は変わらないのに、発される言葉によって、状況が二転三転、四転五転くらいする展開が、めちゃくちゃ面白かった。自分の頭を連れ去られて、笠松さんの手のひらで転がされるのがもう、快感になってきている。これを体験したことがないのはもったいない。次の現場はまだなのか。まだ体験したことのない人と、早く笠松さんの手のひらに乗って、一緒にころころされたい。

踊っているときのゆかちゃんのキラキラしている表情、良かった。
笠松さんとRikuくんの、裏で頑張って練習していたんだろうなというのが見えてくる少し不器用な感じが残るダンスも、味があって良かった。



2.不倫

ただのいちファンなのだけれど、この演目は思い入れが深い。

6月25日、名古屋でのキングオブコント予選で披露したネタ。
自分も音響として携わっていた。

あのときよりも、格段にパワーアップしていた。面白くて完成形だと思っていたあのネタが、こんなにも進化することってあるのか、と思った。

Rikuくんの表情、ズレたツッコミ。
ゆかちゃんの表情、言葉の放ち方。
笠松さんの仕草(眼鏡たちをひとつずつ落としていくときの、あの「わ…」って感じのちょっとびっくりするの、癖になる。あれが来るのを観客みんなで待ってしまっていた)、言えない恐ろしさを感じる言動。

不倫相手をお姫様抱っこして出てこようなんて、思いつかない。

あのアイデアが生まれた稽古場では、本人たちも自分も笑いすぎて(「笑い転げる」という表現そのまま)、稽古も手に付かないほどだった。今思い出しても笑ってしまう。

突拍子もない、シュールな面白さが至るところに「これでもか!」というほどに詰め込まれていながら、最初にあった「ハンバーグを食べ過ぎたからトイレ行ってくる」という言葉とか、フリが細かくて、後からフラれていた点と点が繋がって線になったときに面白さがどっと溢れてくるし、考えすぎかもしれないけど他の演目での世界線との繋がりとかもあるのかな、とか、+3はおそらく単純じゃないし、分かりやすくはないお笑いをしていると思うのだけれど、一度これにハマってしまうと抜け出せない。



3.上司

この演目では、常人離れしたヤバイ人間と、人間すぎるほどの人間たちがやり合っていた。今も思い出し笑いしている。あれは本当にトラウマレベルだと思う。ほんっとうに怖い。

初めのうちは、口からスポポポポってコーン6粒を飛ばすだけなら「まぁそんなこともあるか」って感じで見ていたのだけれど(普通はあの新人の反応が正しいと思う。実際に上司は奇妙な人なんだと思うが、これまでの演目に脳を支配され、感覚が麻痺している)、上司があまりにも飛ばしまくるし(コーン、にんじん、大根、玉ねぎのちゃんとハンバーグの具材を飛ばしていく)、玉ねぎはテーブル上にどんどん置かれていくし、徐々に場は混沌を増してくる。

カオスが極まると同時に、真ん中の3年目社員がヤバイ人間だということが分かり始める。

暗転が明けた後のテーブルの惨状といったら、ほんっっっとうに怖い。詰め将棋されて目線が遠くに向かってしまう上司の気持ちも分かる(「玉ねぎ将棋クラブ」って何なんだろう。言葉の組み合わせが面白いのも笠松さんの脚本の特長のひとつだと思う)。

隠されたメッセージの解読にわくわくし、そんなところまで考えていたんだ…!と感嘆し(鳥肌も立った)、上司と一緒に即興シナリオをこなしていく団結を応援する。

観客としても置いていかれることなく、一緒に楽しみながら事のなりゆきを見送ることができて、とても面白かった。

ただ、自分があの上司の立場だったら、と思うとゾッとする。
あれをよかれと思って何の悪気もなくやっているのだから怖い。
自分もそんなことを無意識にしていないか、顧みることにしようと思う。



4.墓

どこかで「墓になりそう」って言葉を聞いた気がするのだけれど、墓になる人ってここにいた。

序盤は今までの演目とは少し違って、重めな雰囲気。

願っても実現しないことを、必死にお願いし続けて、なんとかどうにかなってほしい。

そこまで想える人ができたあのお兄さんは、とても心が綺麗な人なんだろうなと思った。

ところが、お父さんの発言から狂い始める。

狂い始めるものの、かなこの墓として彼氏が旅をし、ギターを鳴らしながら歌っているのは心にジーンと来た。あの曲はRikuくんのオリジナルなんだろうか。

女性とのシーンでは、彼氏の心の揺れが切なかった。感動しそうだった。

お父さんの登場がなければ。

近未来的な音に合わせて小刻みに動くあの腕は何なんだろう。
音が鳴って、登場して、少ししてからうごめき出すあの腕。
あの腕。

骨を彼氏に見せつけるときの音に合った浮遊感も不思議な感覚だった。
結局その骨はシマウマーの骨だったらしいけれど。
言い方面白かった。



.5.幕間

個性的なこだわりの話とか、Rikuくんの絶妙な空気感が良い味を出しまくっている食レポとか、幕間もしっかりと面白くて、休憩時間がなかった。
あそこで稽古しているらしいから、あのほっともっとで買ってきたんだろうな、という背景がちょっと透けて見ることができるのも面白い。



おわりに

第2回公演も、本当に面白かった。

これだけ素敵なものを作っている人たちが身近にいるんだ、自分ももっと頑張ろう、と自然と思えた。

第3回公演も待ちきれない。





あとがき

日付が変わって7月30日、AM3時52分。

友達に焼いてもらったマドレーヌを食べながら。

アーティストがパーソナリティを務めるラジオでいつか聞いたような「寝るのも忘れて夢中になってしまう日」ってこの日のことだったのか、と今思っている。

今日は、本当に嬉しい出来事が目の前で起こった。

色々なことが報われた気がした。



少し時を遡って6月25日。
キングオブコントの予選が名古屋で開催された。
自分も音響として携わっていたので、+3の3人に同行した。

稽古場で試行錯誤を重ねてより面白いネタを追求している3人をとても間近で見ていたし、贔屓目無しにこのネタが本当に面白いと思って3+1の4人で臨んだ。

結果は、予選敗退。

出番終了直後の控え室で目を赤くしながら話している2人。「会場では後方で特に笑いが起こってましたよ」と言い張った。自分はあんまり言い張ることは得意ではなくて、すぐ折れてしまいがちなのだけれど、このときはちゃんと言い張った。事実なのだから。

客席から、どんなネタにどれくらいの笑い声が起こっているのかも、4人で見た。

会場を出て名古屋市内を走る車内には「ダメだったのかな」という空気が充満した。「笑ってましたよ」と言い続けた。

テレビ塔の前の段差に座って、このときの正直な気持ちを吐いたラジオはお蔵入りになった。「笑ってましたよ」。

ラーメン屋さんのテラス席で結果はまだなのかまだなのか、とそわそわしながら食べていた。

何度も「音響席から聞いていたら、お客さんしっかり笑っていましたよ」と繰り返し続けた。言い張るのは慣れていないので、徐々に自信がなくなってくる。刺さっている人には刺さっているのに、証拠を持ってその事実を示せない。

1つのスマホを囲んで4人で結果を見たときのことは、怒涛の1ヶ月が過ぎた今でも未だに覚えている。

辛かったな。

自分はただの音響でしかないけど、すぐ傍で見ていた、あれだけ力と熱を注いでぶつけたものがあっけなく散らされると。

歩いた。

久屋大通公園を結構歩いた。

帰りは自分が運転して名古屋から福井へ。

車内では、これからの作戦会議が行われた。

みんな少しずつだけどさっきよりは元気を取り戻してきて、熱くて良い雰囲気だった。



時が過ぎて、7月29日。

誘ってついてきてくれた友達が、「本当に面白かったです!体調崩して以来、久しぶりにこんなに笑いました」という感想を+3のメンバーに直接話してくれた。

「笑い方を忘れてました」と言っていた、彼にこそ届けるべきお笑い。
届けなければならないお笑い。

ちゃんと届いた。

ちょっと、パソコンの画面が滲んできました。
鼻水もぶすぶす言い出してきた。


嬉しかったな。

本当に、嬉しかった。


1ヶ月前の4人も、3ヶ月前の彼も、半年前の彼も、1年前の彼も、一気に報われたような気がした。

ここにはすごい力があるんだと思った。

深夜のエルパの周りを歩きながら話していたようなことは、誘うことすらできなかったけれど。

第3回公演も絶対に観に行く。希望ができた。

爛漫と咲き誇る+3を観に行く。



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