最終決戦|国興しラブロマンス・銀の鷹その52
男が一人悲鳴を上げて外へと飛び出すと、セクァヌにくってかかった男があごで他の男に何やら指図すると、男はすっと部屋の外へ出て行った。
何事が起きてるのか、と思っていると、そのリーダー核の男は、セクァヌににこっと笑った。
「さすが銀の鷹姫。正直、オレでもびびった。」
「え?」
訳がわからずつい今しがたの威厳もどこへやら。
セクァヌは唖然として男を見つめる。
「くくくっ・・・話に聞いてたとおりの姫さんだな。大人なのか子供なのか。純真なのかなんなのか、分かりゃしない 。」
「キース?」
「あ、失礼しました、大臣。決して悪気があったわけではありません。」
男はひざをついてシュケルに謝る。
「どうも胡散臭い奴がいるようだったのだが、なかなか尻尾を出さなかったので。」
「で、セクァヌに詮議させたというわけですか?」
レブリッサが呆れた顔をして聞いた。
「これほど効き目があるとは思いませんでした。」
キースと呼ばれた男は大笑いし、レブリッサからセクァヌに視線を移す。
「いや、失礼、姫君。先ほどの言葉はお忘れ下さい。」
「え?でも忘れろと言われて忘れられるようなことではありません。」
「あ・・・い、いや・・・これはきつい・・・。」
わっはっはっはっ!と再びキースは笑う。
ここ数ヶ月の間でばらばらだった革命グループをまとめたそのキースという男は、頭をかきながらセクァヌらの頼みを快く引き受けた。
「オレたちは頼まれたからやるんじゃない。今がその時期だからやるんだ。オレたちの国の為に!」
そう言って別れたキースに、セクァヌは心地よい共鳴感を受けていた。
そして、ガートランド王が指定した期日。
「王!スパルキア軍です!」
「うむ。」
両軍は数百メートルの近距離でにらみ合っていた。
-カポカポカポ・・・-
夕刻近く、スパルキア陣営から馬が単騎ゆっくりとガートランド陣営に近づいてくる。
「む?」
ガートランド王が遠眼鏡で確認する。
「あれは・・・そうか、銀の姫か。」
夕日を背に受けて近づいてくるのは、セクァヌだった。
銀色の髪が夕日を受けて赤く、そして金色に輝く。
ガートランド王は、してやったりとほくそえむ。
「なぜ来ぬのだ?」
両陣営の真中で止まったセクァヌにガートランド王は不思議に思って見つめていた。
「最後の抵抗か?・・・無駄だ。こちらに切り札がある限りな。」
ガートランドの陣営横には、俄か作りの処刑場があった。その処刑台の上に
5人のスパルキア人が張り付けられていた。
彼らをちらっと見てガートランド王はにまりと笑いを浮かべる。
「早く来い。悪いようにはせぬ。」
セクァヌはキースの合図を待っていた。ギリギリのところまで進み、それまで時間をかせぐ。
夕日がゆっくりと沈んでいった。
「なぜ来ぬのだ?民を見捨てて戦うつもりか?」
ここに来てガートランド王は怒る。
「それならそれで見合った対処をするまで。」
すっと手を上げる。それは処刑開始の合図。
「うわーっ!・・ぎゃーーー!」
悲鳴があがる。
が、それは彼らが処刑された悲鳴ではなく、執行人らが襲われてあげた悲鳴。
間髪入れず、セクァヌが剣を掲げる。
「全軍攻撃開始!」
「うおーーーーーー!!!」
怒涛の勢いでスパルキア軍がなだれ込む。
が、ガートランド軍もぼんやり立っていたわけではない。戦闘体勢はしっかりとっていた。
「うおーーーーーー!!!」
ここに最後の決戦の幕が切って落とされた。
「お嬢ちゃん!」
「アレク!」
「これで終わりにするぞ!」
「はいっ!」
銀の鷹が舞う。
平原狭しと鷹が飛ぶ。
そして、アレクシードが兵士たちが、キースたち革命軍が我を競って敵を倒していく。
怒涛の勢いのスパルキア軍。が、反対にガートランド軍は戦意を失っていた。
初めからそのつもりはなく一個大隊直立不動で戦意のないことを示す者たち、投降する者が続々出、戦闘にはならなかったといっても過言ではない。
ごく一部の大義名分を重んじる大貴族率いる隊のみが半ばやけになってかかってきたとも言えた。
それも一般兵士らは次々と投降していく。
キースらの内部工作が功を奏した結果でもあった。
そして、戦いは事実上ガートランドの内部から崩壊した形で短時間で決着はつく。
「お嬢ちゃん。」
「こっちよ。」
闇の中、セクァヌらは逃げ延びたガートランド王を追っていた。遠くへ行っていない限り、セクァヌの気を読み取る力で十分だった。
神経を研ぎ澄まして王の気を辿っていく。
「いたか?」
近づいてきたキースが小声で聞く。
「はい、たぶんこの先に。供の者4、5人と一緒に。」
そこには農機具小屋があった。
「後はオレたちに任せてもらえないだろうか?」
「はい。」
-ヒュッ-
キースの合図と共に、そこにいた革命グループの仲間たちが中へなだれこむ。
「うわーー!」
「ぎゃーーーーー・・・!」
剣を交える音と悲鳴・・そして、王の断末魔の叫びが聞こえた。
己の力を誇示し、力に物を言わせて突き進んだ狂王のあっけない最後だった。
「お父様・・・お母様・・・。」
上を見上げ、遠い日を思い出すセクァヌの瞳から一筋の涙が流れた。
翌、明け方、スパルキア軍は、ガートランドの都へ足を踏み入れた。
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