見出し画像

”置物”とドールの狭間について

~ドールと現実世界とのスケール差を克服する~

綺麗にキマったドール写真、素敵ですよね。ドールさんが醸し出す、人間とも、おもちゃ等の”物”とも違う立ち姿には独特の世界観や魅力が溢れていて、見る人を惹きつけます。
でも実際に自分で写真を撮ってみると結構上手く撮れないものです。かく言う拙者も、当初は何故残念な写真しか撮れないのか、その理由が全くわかりませんでした。理由については撮影機会を重ねていくごとに、何となく色々な法則が見えてきます。…見えてきますが、その頃には自身にとっては無意識のうちにクリアした課題と化している為、なかなか集合知化されないものであります。

そこで今回は、あまり語られていない(と拙者が勝手に感じている)ドールと現実世界とのスケール差をどう写真に落とし込んでいくかに関するお話を文章化するという、何とも無謀な記事に挑戦しようと思います。

前提とお約束事

当記事の対象者は、ドール写真をこれから撮り始めたい方、もしくは「肉眼で見る分にはかわいいドールさんを写真に撮ると、ドールさんが置物っぽい写真になってしまう!」とお嘆きの方へ向けて構成されています。
実際のところ、一定の経験を積んでいれば大体誰でも(頭では理解していないとしても)なんとなくで出来ている事ですので、多くの方には参考にならないアタリマエな情報であります。

⚠️お約束事
当記事は技法・手法の確実性(こうやれば必ず会得できるみたいな事)を保証するものではありません。当記事の手法・技法は、考え方のひとつに過ぎません。くれぐれも過大に受け止めないよう、お願い致します。

本記事は、判りづらい表現の修正や要点のさらなる明確化の為に適宜改訂されます。変更の概要はなるべく改訂履歴へ残します。先日読んだ内容から変わってる!といった事についてはどうかご容赦ください。

必要なもの

この記事の内容を試してみる為には、以下のものが必要です。

・ドール
 お好きなドールさんをどうぞ!ドールスタンド必須です。
・カメラ
 スマホで構いませんが、ズームできるものが好ましいです。
・三脚
 スマホの場合も三脚に載せた方が理解が早いと思います。

ドールのサイズ感と背景の関係

ドールさんを大自然(山とか海とか)へ連れて行き、何も考えずに馬鹿正直に撮影すると、大きな自然の背景に対して小さな”物”が置いてある写真が撮れてしまいます。これはこれで悪い事ではないのですが、恐らく撮影者さんは、ドール同人写真集の巨匠先生達みたいな、バーン!って感じの背景+ダイナミックなポーズのドールさんが入った写真を撮りたいのではないかと思います。では何故そのように撮れないかという点について、以下考えていきたいと思います…いや、無理矢理にでも考えていきましょう!

画像7

カメラで自然(山など)の遠くて大きな景色を背景に、すぐそこの小さな被写体(ドール)を撮影する場合、以下のパラメータの影響によって、撮れる写真のバランスが決定します(注:一部端折っています)。

(1)カメラ~ドール間の距離
(2)カメラ~背景間の距離
(3)レンズの焦点距離
(4)背景の大きさ、被写体の大きさ
(5)角度

ケース(A) 距離感

これらを考える際に全部のパラメータを可変にしてしまうと訳がわからなくなるので、まずは焦点距離(3)と背景の大きさ(4)を固定にして考えていきましょう。
条件を固定する為には三脚での撮影が必要となります。各パラメータの関係性を理解するまでは、固定焦点+三脚撮影するのがわかりやすいと思います。同様に角度(5)については、かなり複雑な要素が絡んできますので、まず最初はカメラを水平に、真っ直ぐ被写体を貫くように配置しているものとします。また今回のドールさんは地面に直接立っている状態とします。
イメージしやすくする為に、レンズは50mm標準レンズ、背景は数km先の富士山とします(○るキャン△で有名になった朝霧高原あたりを妄想してください)。

考える順番ですが、まずは背景から(順番の意味は後でわかります)。カメラから背景までの距離は、カメラのピント機構に照らし合わせると、実質無限遠と言って良い距離のはずです。この事はカメラの位置が多少前後しても撮れる背景にはほとんど影響がない事を表しています。つまり遠くて大きい背景では、焦点距離を変えない限り、カメラをどこへ置いてもサイズ感は大差ないという事になります。
逆にカメラを覗いてみて、この段階で背景の大きさが大きすぎたり小さすぎたりしてコレジャネーヨって場合は、既に自分が撮ろうとしている写真のイメージとは、撮影場所の選択もしくは撮影場所に対する焦点距離の選択が間違っているという事になります。

カメラを覗いて、背景の配置が大体おKならば、次はドールを配置します。ドールが写り込む際の大きさは、カメラからドールまでの距離(1)で決まります。全身を入れたいならばドールさんはカメラから遠い場所に、上半身アップでがっつり入れたいならば、ドールさんにはカメラから近い場所に立ってもらう事となります。
この際、ズームによって焦点距離を弄ってドールの大きさを合わせるやり方は、法則が理解できるまでは避けた方が良いでしょう。理由はズームで合わせてしまうと、折角調整した背景の写り方も変わってしまうからです。

さて、そろそろ自分でイメージした位置にドールを立たせられたでしょうか?今やった手順について言い方を変えると、「固定された背景に対して、ドールのサイズだけを拡大・縮小して撮った」と考えられます。
このような感じで、ドールを現実の世界(背景)のサイズ感に合わせて拡大・縮小して、本来のサイズを錯覚させるように撮る手法が、ドール撮影の入口の1つであります。ドール写真沼へようこそ!

画像9

⚠️これだけじゃないよ
必ずしもドールのサイズ感を本来より大きく錯覚させる事だけがドール写真ではありません。逆に意図的に大きな物体を写野に入れて、ドールの小ささを強調するように撮る手法もまたドール写真の醍醐味であります。ドールの持ち主さんとドールさんを一緒に撮る、#ドールとオーナーというジャンルも存在しております。
楽しみ方は人それぞれでおKなのが、ドール写真の世界であります。

このケースで判った事は2つ。そして「小さな置物であるドールを、人間かのような佇まい(サイズ感)で写真に収める為には、背景およびドールの距離感に関する計画的な調整が必要」という、撮影時のTODO(やること)が見えてきたのではないかと思います。

焦点距離固定の場合:
・遠い(大きな)背景では、カメラの設置場所の微細な違いでは、サイズ感はそう簡単には変わらない
・ドールのサイズ感は、カメラからの位置を変える事によりどうとでもなる
    ↓↓↓
撮りたい背景(世界観)へ、ドールの大きさを調整して写し込む

ケース(B) 焦点距離の意味

今度はケース(A)の位置関係のまま、焦点距離(3)以外を全部固定にします。ズームレンズならばすぐ試せますね。ではズームを望遠側へ動かす(もしくは焦点距離の長いレンズに替える)とします。すると先ほどの画から真ん中だけを拡大して切り取った画になると思います。
ではこの状態からカメラとドールの距離(1)を変更します。ドールさんが期待通りの大きさで写野に納まるよう、カメラからドールさんを離してみます。ケース(A)の経験から、ドールさんはカメラからの距離を調整する事で大きさはどうにでもでもなる事が判ったはずですので、早速それを応用してみましょう。カメラから離す事で、画面の位置的に先ほどの写真と同じくらいの場所にドールを配置する事が出来ると思います。
以上の手順では何をしたかというと、ケース(A)で理解した「背景の大きさはそう簡単には変えられないよ」について、(ドールさんの立ち位置を調整できる前提ならば)焦点距離を変える事によって背景だけを拡大縮小する事ができるよという事が見えてきます。

丁度ここに○るキャン△が流行する以前に撮った朝霧高原の写真がありますので、参考としてちょっと見て見ましょう。
どちらも大体同じ場所ですが、1枚目は焦点距離16mm魚眼、2枚目は100mm相当(いずれもMFTなので換算値)で撮ったものです。どちらも背景は焦点距離に合わせて拡大・縮小されています。そこに対して、撮りたいイメージに合わせてドールを配置していきました。
1枚目ではドールさんより富士山が小さく見えていますが、2枚目ではドールさんより富士山の方が大きく入っています(本当は立ち位置とドールさんのサイズが同じくらいの写真があれば良かった・・・)。1枚目は背後の木が低木だと判る感じですが、2枚目は焦点距離の違いにより背景が拡大されている為に、低木がまるで林であるかのように見えます。
これでケースAで見えた撮影時のTODOが何となく達成できました。そろそろ撮りたいイメージになるよう、ドールさんや背景の大きさ・位置を自由に調整できるようになってきているはずです。

⚠️レンズの効果
ついでに言うと1枚目は超広角特有の広さ+魚眼特有の歪曲が、2枚目は望遠レンズ特有の圧縮効果がかかってます。こういったレンズの焦点距離や種類の違いによる表現の差については、また別の機会にご紹介したいと思います。

画像5

画像6

■焦点距離の変更は背景の拡大縮小に有効
 ・背景を小さくしたい→焦点距離を小さくする
 ・背景を大きくしたい→焦点距離を大きくする

ドールは背景がキマってから配置するよう心がければ、大体思い通りの構図にできるはず!

ケース(C)近距離背景

ケース(A)の状態において、今度は背景の距離感を変えましょう。と言っても朝霧高原でダッシュして富士山から遠ざかるといったお話ではありません。舞台を自宅撮影に切り換えましょう。

スタジオ撮影や自宅撮影などで背景が近い場合、カメラの位置と背景の映り込み方は、ケース(A)の富士山よりもシビアになります。ドールと背景との距離がケース(A)よりも格段に近い為、ドールの立ち位置を調整してのバランスどりには限界があります。
例えば人間用の家具の前にドールさんを立たせて写真を撮ろうとして奮闘しても、家具の距離がカメラに近すぎる為、”巨大な家具の前に置いてあるドール”的な写真になってしまいます。背景を小さく写す為には、カメラを背景から離す必要があります。一方でドールが適切なサイズに撮れるよう、配置するスペースも必要になります。この2つの距離のバランスには自ずと限界があります。

次の写真は、ほっけ工房の部屋で人間用の居室を背景にしてバランスを調整してみた例です。超広角レンズを使った上で、背後の作業用テーブルから数m離れた場所にカメラを設置しています。距離がとれない為、この場所ではこの位のサイズ感が精一杯です。

画像1

もう1枚例を挙げておきましょう。
ほっけ工房でも数少ない、ドールを人間サイズっぽく撮れるスポットである階段前で撮ってみた例です。ここもカメラと背景の構造物との距離が数m程度である為、超広角レンズのすぐ前にドールさんに立ってもらう事で、背景とドールさんとのサイズ感を調整しています。この例も、この距離感が精一杯といった感じであります。

画像9

これを打破する為の近距離背景はどうしたら良いか?に関する結論は、ドールハウスやドールサイズの撮影ブースへと行き着きます。簡単に言えば背景の方がおドール様の世界観に合わせろやー!という流儀であります。
ドールサイズの撮影ブースの場合、既にドールサイズに背景がまとまっている為、超広角レンズを使って背景を縮小するような、錯覚を誘う手法を採らずとも、標準レンズで十分楽しめるのも大きな魅力です。

余談ですが、TwitterのTL上で複数の人が似たような家具を配置している事が多いのは、ドールとサイズ感が合う小物が希少である為、必然的に皆さん同じものを購入されるから、という考察が成立します。

画像3

ケース(D) 角度

先ほどまでは全て水平に真っ直ぐ撮る前提でした。今度は角度を変えてみましょう。一端水平に配置してから、カメラを少し上に傾けます。同時にカメラの高さは低くします。こうする事で手前のものが奥のものよりも背が高く見えるようになります。
これを応用すれば、ドールさんの身長に対して(水平に撮った時よりも)背景が低く見えるようになります。理屈的には、図のようなイメージです。あおって撮る事で、猿がキリンより背が高いかのように見せる事ができます(いやこの図のキリンが小さすぎじゃろー)。

あおり

実戦では、遠くの木々の高さや山々の高さ等を考慮して角度を少し付けると、ドールが現実世界に溶け込んだような写真が撮れるかもしれません(撮れないかもしれません)。

次の参考写真は、木々の高さや背景の稜線を考慮しつつ、三脚によってほぼ地面の高さに設置したカメラで若干上に角度を付けて(あおって)撮っています。あおり過ぎると首に稜線が掛かってしまい、いわゆる首ちょんぱ写真になってしまいます。逆にあおらない場合は、ドールさんのスクールカーデの背景が地面のタイルとなってしまい、色が近い為にドールさんが背景から分離しきれない、何だかよくわからん写真となってしまいます。

画像8

⚠️角度を付ける事の副作用
今回は超広角のデフォルメ効果とは切り離して考えたい為、超広角で角度を付けた際に現れる、顔が伸びてしまうとか足が長すぎるとかの現象については触れないものとします。
これらについてはまた別の機会があればまとめたいと思います。

実践してみた

以上を実践してみた例を置いておきますね。今回はキヤノンのEOS R5にカールツァイスの85mm MFレンズを付けて撮影しています。実際には背景の構図を決める際に色々なお約束があるのですが、今回のお話では全部すっ飛ばして、偶然いい案配に配置出来た的なご都合主義的な形で考えてください。
なお、カメラの位置は地面すれすれ、カメラの角度は水平、あおり角は地面と桜の枝の入り具合のバランスで「なんとなく」決めてみました。

⚠️背景を決める際に考えるべき事
お約束として光の向き(大事)、並木を構図内へ配置する際の入れ方、被写体を入れるスペースの作りだし方等々色々ありますが、今回は割愛します。考え方の根拠については、実践する前に座学で学んで頭でっかちになるよりも、ある程度撮影回数をこなして「なんとなく」わかってきた頃に再考した方が色々と吸収できると思います。

背景を決めた後はドールさんの配置です。ミラーレスをお使いの場合は、各社ともスマートフォンで遠隔操作出来る機能が存在しますので、そちらを使うと構図を見ながら微調整できますので捗ります。
今回の場合は奥の鳥居が背景のワンポイントなので、鳥居が隠れないよう注意しつつ落ち着く場所(若干右寄り、上下位置的にも不安感が出ず、桜が首に刺さらない場所)へ配置しました。
どうじゃろか

⚠️ドールの向き
ドールさんに左を向いてもらっているのは、構図の安定感以外にも理由があります。この写真の場合、朝の日が高くなってきた頃合で、太陽は右上にあります。この状態で右を向かせてしまうと顔に直射日光が入ってしまい、汚い写真になってしまいます。丁度この写真では足のふくらはぎが直射になっていますが、こんな感じで明暗でが出てしまいます。

画像10

余談ですが、この写真に対して「ドール写真に前ぼけを入れよう」の記事で触れた「前ぼけ」として桜の花びらが入ると、こんな感じになります。

画像11


さいごに

という訳で相当適当な解説ですが、雰囲気程度は伝わりましたでしょうか?
背景を決めてからドールを配置する手順でやっていけば、わりとどんな場所でもそれなりの構図の写真が撮れるようになると思います。

今回ご紹介したやり方は、ドール写真への入口のほんの一歩に過ぎません。この先にはまだまだ色々な要素があります。例えばレンズのぼけを活かす?/絞ってはっきり撮る?ですとか、望遠の圧縮効果はどういう時に活用する?等々、ちょっとやった位ではドール写真沼はぼくらに微笑みかけてはくれませんぞ、ふふふ (( ◜◡‾) ))。

拙者普段はnote界隈ではなくgoogle+におります…居ましたがgoogle+が死んでしまった為、現在はtwitterを仮住まいとしています。もし気が向いたらご訪問くださいませ。

♻️ 改訂履歴:
2021/03/20  初版
2021/03/21  判りやすくなるよう、細かい表現を修正
2021/04/03  「実践してみた」を追加

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?