見出し画像

警備員


それはとあるデパートのトイレで起こった。


その日、街で買い物をしていた私はトイレに行きたくなった。

出来るだけ綺麗で静かなトイレで用を済ませたい。わがままかもしれないが、誰しもが望むことだと思う。

こういった時、私はよくデパートやビルのトイレを利用する。

一方的な搾取。デパートやビルで買い物をするわけでもないのにトイレは利用する。当然罪悪感が無いわけでは無い。それでも利用する。いいじゃないか、公共の場にあるトイレを利用して何が悪いんだ。

今回もまたデパートのトイレを利用することにした。

いざデパートへ。高級ブランドの紙袋をぶら下げるご婦人、美人な案内係、周りを見渡す警備員。ごくありふれたデパートの光景である。

いきなり直でトイレに行くのはナンセンスだ。だから食器や雑貨を見たりしてから行くのが自分流。

しばらくしてから適当な階の紳士トイレを選び、入ってみると狙い通り。綺麗かつ静か、私以外誰もいない。

私は優雅に小の用を済ませようとした。




「コツ、コツ、コツ、、、」




誰か来る。トイレで見ず知らずの人と一緒になるのは少し気まずい。加えて私は懐疑性なのでその人が何かしでかすのではないかと不安にもなる。




「コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、、、」




はやい。同時に私の鼓動もはやくなる。常人の歩くペースではない。不安の念が襲う。しかも小の用の最中で身動きが取れない。




そしてその不安は現実となる。


トイレに入ってきたのはさっき周りを見渡していた警備員だったのだ!息を切らして汗をかいていたことからかなり急いできたように思えた。そして彼の表情は険しく、不意に目と目が合ってしまった。


私が目的なのか。


自分は何かしでかしたのか。全力で数分前のことを思い起こす。アルコール消毒はしたのか。した。他のお客さんに迷惑もかけていないし、デパートの物品を壊したわけでもない。服装が怪しかったのか。いや、今日の服装はどこにでもいる大学生のそれだ。大丈夫、、、

ほんの一瞬の間にありとあらゆる思考を巡らせた。単なる職務質問にしても警備員が高圧的だったらどうする。やってもいないことにyesというわけにはいかない。ここは覚悟を決めてやるしかない。タイマン上等。


警備員がゆっくりと近づいてくる。







「バタンッ…ガチャッ…………ふぅー」

「んっ! p******o******oooooッ」







僕の後ろを通り過ぎてからはまさに一瞬であった。一瞬の間にさまざまなことが起こり私は状況をうまくのみこめていなった。

彼はただ大の用を済ませたかった、それだけだった。だから躍起になって急いできた。あの険しい表情は限界を迎えた彼の心情そのものだったのだ。

つぼだった。一度笑いのツボにはいってしまうとなかなか抜け出せない。トイレを出てもなお、おかしい(笑)。マスクがあってよかった。このご時世の恩恵をほんの少しだけ感じた。
















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?