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本当に強かった10人のプロ③~さくら美緒プロ

麻雀プロ さくら美緒

東京の神田で藤井すみれプロとご一緒した半年後。

私は再び出張で東京にいた。

前回遊びに行った「N」は相変わらず盛況で、店内はたくさんのお客さんでにぎやかだった。


この日も女性プロがゲスト。

私はそのゲストの存在を知らなかったのだが、タイミングよくプロの卓に座ることが出来た。

そのゲストというのが、さくら美緒プロ。


初めてお会いした数年前、まだ北海道にはその名は届いていなかったが、同卓したお客さんからは、


「この人は売れるよ。放っておいても世の中が見逃さないと思う。」


との評判。


麻雀をしていないときは非常ににこやか。

楽しそうに常連さんと冗談を飛ばし合っているのだが、いざ卓に入ると雰囲気は一変。

打ち姿はとても姿勢よく、指先の牌離れが非常にきれいで、相当な打ち込み量をこなしてきたことは想像に難くなかった。

第一印象は、どこかしら「覚悟」という二文字をまとわせているような感じ。

今もって何に対してそう感じたのかは思い出せないのだが、現在もさくらプロに対する私の印象は変わっていない。


艶やかで明るい雰囲気の中で、体の芯を貫く「覚悟」


件のお客さんの言葉に偽りはなかったと思う。

麻雀最強戦2020 最強戦ガール

2020年11月。

私は麻雀最強戦のアマチュア最強戦に出場するために東京へ向かった。

新型コロナウイルスで社会が閉塞的になる中で、店舗予選も非常にセンシティブな中で行われていた。

本来であれば、東西に配された「最強戦ガール」が全国津々浦々を巡り、店舗予選に花を添えてくれるのだが、この年は全くと言って良いほど動きが取れなかった。

この年の東日本担当が、さくら美緒プロ。

店舗予選ではお会いできなかったが、運よくこの年の北海道最強位となることが出来て、東京で再会することが叶った。

西日本担当の藤根梨沙プロ、さくら美緒プロ

もちろん、私と以前に神田でお会いしたことは覚えていらっしゃらなかったが、2年ぶりにお会いしたさくらプロは以前にも増して明るく楽しく場を盛り上げてくださって、ひりついたスタジオの外で笑顔を振りまいてくださった。

今思えば、知り合いが誰一人としていない現場で、さくらプロがいてくださったおかげで随分と落ち着いて麻雀を打つことが出来たと思う。

・・・まぁ、その割に初戦でスカッと負けましたが(笑)、さくらプロがいなかったらと思うと空恐ろしい思いがする。

麻雀プロ さくら美緒に惚れた日

そうして敢え無く負けた私は中々東京を後にする気持ちになれず、空虚な心持のまま東京を漂っていた。

が、いつまでもそうしているわけにもいかず、宿としていたホテルから明日の部屋がないのでもう延泊できない旨を告げられたタイミングで北海道へ帰ることにした。

その日、蒲田でさくらプロのゲストイベントがあるとのこと。

飛行機は最終便。

ならば…と、重たいキャリーケースをガラガラ引きながら、私は蒲田へ向かった。


この年の私は、麻雀の成績が非常によく、特にアマチュア最強位決定戦の前後は思い通りの麻雀を謳歌していた。

さくらプロと3ゲームご一緒して、好調の私がトップ2回2着1回。

さくらプロは3回とも私よりも着順が一つずつ下だった。

「みっちゃん、ダメだよ~。こんな強いお客さん連れて来ちゃあ。」

私の下家に座る常連さんが愚痴をこぼす。

「いいじゃないの。麻雀強い人と打つと楽しいじゃない。」

私の上家ですかさず笑顔でフォローするさくらプロ。


だけど、私は見逃さなかった。


3ゲーム目のオーラス。

私とさくらプロはお互いに和了りトップの接戦。

何とか私が逃げ切ったのだが、倒した私の手を観るさくらプロの眼光は鋭く、初めて悔しさを一瞬だけ卓の上に漂わせた。


さくらプロは女性としてももちろん素敵な方だが、私が打ち手として彼女に惚れたのは、終局の刹那にだけ見せた「悔しい」という表情だった。


本日行われたシンデレラファイト。

我が北海道からは連盟の木下遥プロが攻め抜いて勝ち上がったが、私のもう一人の注目はこのさくらプロ。


あれから2年と少しが経過し、今では麻雀格闘倶楽部にも登場する売れっ子となったが、打ち手として配信対局に登場する機会は未だ少ない。

だから、今日という日に賭ける意気込みは半端なものではなかったと思う。


麻雀プロとして、自分の麻雀を世の中に描きたい


彼女の心の置き場所は、きっとそこにあったと思う。

自分の麻雀を表現することのなんと難しいことか

初戦のトップ取りに勝ち切れなかった彼女は、続くセカンドチャンスに回った。

そして、その東1局。

西家スタート、ドラは4ピン。初打から「覚悟」を見せなければならない手をもらった。

「面前高打点派」を標榜するさくらプロだが、見える手役がマンズのホンイチか234あたりの三色と好対照の位置にある手牌だからだ。


しばらく手牌を見つめた後、放った牌は白。

親の高橋美希プロが早々に役牌を叩いて前に出ていき、局面が動くタイミングにあっても、実況の日向藍子プロはさくらプロの第1打が気になったようで、

「南や北がどっちか役牌だったら(ホンイチを)見たかも知れないですよね?」

と語っていた。

女性の感性なのか、あるいはMリーガーの勝負勘なのか。

これがなんとも鋭い指摘だった。

さくらプロの河には手放した役牌が並んでしまう。

「覚悟」を持って索子の両面ターツに手をかけていたら…。

勝負事にタラレバは禁物なのは重々承知の上で、そんな世界を観てみたかったと個人的には思う。

この四者の中で、1歩抜けて場数をたくさん踏んでいるさくらプロが力を見せて堂々勝ち切るとしたら、この手をホンイチチートイツやドラドラチートイツに仕上げるくらいの深い踏み込みが必要だったのかもしれない。

良い悪いの判断など私風情には無理なのは承知しているが、改めて振り返ると勝負所は序盤の心の置き所だったのかな、とはあくまでも個人的な感想。


それにしても見せ場は十分だった。

チートイツの待ち牌は手牌の中心に置くことが出来るのが美しい形(と、私は思う)

流れるような手順で聴牌した七対子赤2に裏ドラを乗せて一時トップに躍り出ると、難しい局面を幾度も潜り抜けてトップ争いをしながら終盤へ。

勝負所の南3局の親番では、

3番手の火野ハルナプロから炎ほとばしる三面張リーチを受けながら、

無筋を気合もろとも切り飛ばし続けて徹底抗戦。

己を信じて道を切り拓き続けた。


しかしながら、最後の自摸で執念が実ったのは火野プロ。

次局にも火野プロは決定打となるスーパープレーを見せて場を制圧。

結果、さくらプロは3番手に沈んだ。

敗戦を受け入れるために、苦々しく卓上を眺めたこの表情。

これこそがあの日、東京で観た「麻雀プロ さくら美緒」の顔そのものだった。


内容についてはアマチュアの私などが評するのは失礼かと思うので敢えて記さない。

が、今日のこのゲームに勝てなかった悔しさ、この場に賭けてきた思い、彼女が背負ったファンからの期待…それらが綯い交ぜ(ないまぜ)になって見せたこの表情こそ、懸命に戦ったプロの姿なのではないだろうかと。

これを読んでいただいた皆さんはどのようにお感じになるだろうか。


引き込まれる麻雀だった。

そして、凛として強い麻雀だった。


引き込まれ。

息苦しくなり。

感動を覚え。

そして、最後は涼しげな風に触れるようにさわやかな気持ちに。


私が大好きな瀬戸熊直樹プロの麻雀を見つめた後のような、そんな気持ちになった。


またお会いしたくなった。

そしていつかまた、目を吊り上げて、バッチバチに打ち合いたい。

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