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教え子に会う

私は過去の一時期、仕事で先生みたいなことをしていました。
町内会から子どもたちを集めて、地域の子どもリーダーを育てましょう、というもの。
その時に通ってくれた子が東京にいるんです。

私が東京へ出張で行くたび、きちんと生活しているかという「生存確認」をするつもりで声をかけているんですが、都会に対して嫌な染まり方をせず、しっかりと生活をしているみたいです。

今回も上京の都合を伝えたら「ぜひ!」とのこと。
夕方からお茶でも飲んで、それからご飯を食べようということになりました。

その子は都心から少し離れた郊外に住んでいます。
都心のファストフード店でバイトをしたあと、電車で30分くらいの地元に戻り、近所の焼肉屋さんでアルバイトを掛け持ちしていたようです。

4年前に話をした時には、東京に身を置いていることに充実感を得ているらしいものの、「東京でどうするか?」ということに想いが至っていないようでした。
目標もなく都会に身を置いている。
親子くらい歳が離れている私にしてみたら心配でした。

「地元に帰ってきたらどうだ?仕事ならあるぞ。」

何度か促してみましたが、本人は東京で暮らすことを諦めませんでした。

私は40を過ぎるまで地元の小樽以外の場所で暮らしたことがなかったんです。地元で仕事に就き、通える雀荘がないということ以外には不自由を感じていませんでした。
そのため、小樽を出て都会で暮らしたいという人たちの気持ちは全く理解が出来ませんでした。

ただ、目標があるのなら別です。
そこに人生を賭してでも叶えたい何かがあるのなら。
ただ、特にそういうものもなく、なんとなく東京に住みたいってなんでなんだろう?
不思議だったんです。

4年前。
私は、教え子が住む街を訪れました。
ひしめく住宅の間を縫うように走る私鉄。
雑多な風景ですが、人が住む息吹が感じられて温かな雰囲気の街でした。

その子が働いているという焼肉屋さんに伺ったんです。
そのお店でとても大切にしていただいてることはすぐにわかりました。

「先生来たんならもう上がっていいよ。一緒にご飯食べていくんだよ。」

とても繁盛しているお店。
日曜の21時ですが、ほとんどの席が埋まっています。
忙しさのピークがずっと続いているような感じですが、ご主人をはじめお店の方たちは笑顔で教え子を送り出してくれました。

「忙しいお店だなぁ。」

「えぇ。これでも今日はまだ良い方なんですよ。」

そんな話から最近の暮らしぶりなど近況報告をしていると閉店時間の22時になりましたが、私は閉店時間を聞かされていなかったんです。

「え?もうお店終わりか!」

急いで残りのお肉を焼いて食べようとすると、

「先生!先生はゆっくりして行って良いから!」

と、ご主人。

「いや、ご迷惑ですから帰ります!」

と話すも、帰そうとはしてくれません。

「先生、これから賄いをみんなで食べるから、一緒に食べて行ってよ。」

ということになり、数人のお店の方たちの中に混ぜていただくことになりました。

「先生、本当にこの子はよく気がつくんだ。うちの大事な戦力だよ。」

教え子は照れ臭そうに笑っています。

「お世辞じゃないからね。できれば長く働いてほしい。本気でそう思っているよ。少なくとも俺たちが死ぬくらいまでは…娘みたいなもんなんだ。」

隣に座る奥さんも黙ってニコニコ笑いながら頷いています。
そして、教え子が私に話しました。

「だから、安心してくださいね。私、ここで生きていけますから。」


確たる目標もなく、ぼんやりとした動機で北海道から東京へ。
本当に心配していたんです。
でも、それが杞憂に終わり良かった。
ホッとしました。

「先生、また来てよ!絶対だよ!」

東京は冷たくて怖いところだという教育を受けて育った私。
そんな私の考えを打ち砕くようなご主人の温かな声。
私はお店の皆さんに深々と頭を下げ、この子をよろしくとお伝えして店を後にしました。

駅へと向かう道すがら。
道案内をしてくれた教え子と話しました。

「この街が良いところで、周りの人が良い人たちだということはなんとなくわかったよ。でもね、都会に疲れたら小樽へ帰っておいで。」

私の言葉に、深く頷いた教え子。
しかし、今日まであの街で暮らしを続けています。
あの子に教えてもらうまでは、名前も知らなかった街。
4年前に触れた温かさに再び出会うことができるかと思うと嬉しくてたまらないんです。

教え子に礼を言わなきゃな。
君がこの街で暮らしていてくれたから、またそこに行くことができるんだもの。


「人は、必要な時に必要な人と出会う。」

私の持論です。勝手な思い込みと言ってもいい。
でも、今回の旅はそれが確信へと変わる旅になりそうです。

「会いたい人に会っておくんだよ。」

まるで神様がそう導いてくださっているよう。
そんな気にもさせられています。

きっかけは、麻雀。
龍龍のおかげで、会いたい人にたくさん会えそうです。
ありがとうございます。


こんなに会いたい人たちにたくさん会えて。
…間も無く死ぬんじゃないのか、俺?

(笑)

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