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インターネット麻雀日本選手権2022観戦記

2月から予選が始まった今年のインターネット麻雀日本選手権。
例年、電脳空間で火花ほとばしる熱戦が繰り広げられているが、今年はいささか趣が違うと私は感じている。

今春から天鳳のインターフェイスを用いた「新ロン2」が稼働しており、この舞台で行われるタイトル戦はこれが最後。長年、この画面を愛していらっしゃったロン2ユーザーにとっては名残惜しいことと思うが、舞台が変わることに対する影響はこれに留まらない。

新インターフェイスへ移行するに伴い、参加ユーザー数が多くなり、本タイトル戦のユーザー予選が一層激化することが予想される。
ちなみに、私もベスト64にひっかかったのだが、来年からはそんなフロックはあり得なさそう。

私の初めてのベスト64は、西川淳プロにしっかり仕上げられて終了。
強えぇよ、プロは(TT)。

さて、このベスト64から勝ち上がった今年のファイナリストはこの4人。

まずは、連盟プロ最後の砦、北海道本部所属の北淳一プロ。

「僕はプロになる前に、(連盟広報部長の)黒木真生プロの仕事ぶりに憧れてプロになった。」

と話すように、普段は中々陽が当たらない裏方仕事に魅力を感じたとのこと。

その言葉のとおり、北プロはプロアマリーグ「帝氷戦」の運営をはじめ、自身が主宰する「HMF(北海道麻雀ファンミーティング)」、麻雀最強戦北海道ブロックの運営など、北海道麻雀界のありとあらゆる裏方仕事を、一つ漏らさず完璧に取り仕切っている。

私も長年、師匠の下で大会運営に従事していた期間があるが、裏方仕事を進んで請ける人にはもっと光が当たるべきだし、たくさんの方の麻雀を後ろで観ていることは自身の麻雀力の向上に大きく寄与すると考える。

この舞台にたどり着いたのはフロックではない。普段の緻密な仕事の積み重ねが、この道を切り拓いたのだ、と、北プロのことをご存じない方に私は声を大にして訴えたい。

そして2人目。

ユーザーのヨシバさん。
ロン2ユーザーには馴染みのある名前と思う。
私も、ロン2をプレーしていてこのお名前をかなりの頻度で見かけるし、ご一緒したことも1度や2度ではない。
タイトル戦の決勝へは実に5度目の進出とのことで、「今回こそは」というご自身の気持ちはかなり強いのではないかと思う。

個人的にはお名前を何度かお見掛けしたことがあるため、非常に親近感がある。
果たして、5度目の正直で栄冠をつかむことが出来るか。

3人目に登場したのは、ご覧のとおりさわやかないでたちのまちゅ王さん。
実況の大月れみプロが紹介していたコメントを伺うと、ロン2は予選が始まる少し前に始めたという新しいプレイヤー。
しかし、麻雀自体はかなりの手練れ。この舞台に上がってくるのも納得の実力と私は感じる。
この放送を観て、「まちゅ王ガールズ」が何人生まれたのか、勝負の行方と共に私の関心事である。

そして。

4人目のプレイヤーは、ご存じMリーガーの小林剛プロ。
自身が所属する団体「麻将連合」では、トップタイトルに位置する「将王」に君臨する小林プロだが、この方のことについては私よりも詳しい方がたくさんいらっしゃると思うので、紹介は割愛する。
ロン2のプレー経験は少ないはずだが、自ら「麻雀に流れなどない」という打ち筋を体現する同プロにとって、電脳空間はまさにホームグラウンドのはず。
最もマークせねばならないのはこのプレイヤーか?

それにしても、対局場所となったおなじみ夏目坂スタジオだが、その佇まいがいい。

麻雀卓が置かれているはずの対局場に、今日は机が4つとパソコンが4台。
時代の最先端を行くインターネット麻雀なのに、選手が4人ひざを突き合わせているアナログ感が実にアンマッチで面白い。
選手としては、微妙な表情の動きや息遣い、そういった「気配」が感じられそうで、これはこれで特有の難しさがありそうだ。

選手の紹介が終わり、いよいよ対局が開始された。(以下、敬称略)。
1回戦。
先手を取ったのは、

北家スタートのまちゅ王。
5巡目に手なりでピンフのテンパイが入って即リーチ。
待ちは、宣言牌の2ソウのそばの1-4ソウ。

そして、我らが北。ロン牌の1ソウを一発で掴む。
開局早々の子方のリーチなので、私なら一発で1ソウを切り飛ばしている日もありそうなのだが、

躊躇うことなく現物の9万をスッと切り出す北。
一発だけ避けたように見えるが、さにあらず。

次に無筋の9ソウを引くと、間を置かずに發のトイツ落とし。
しっかりと受ける手順に入っている。
そして、親番の小林にもロン牌の1ソウがこんにちは。

親番でこのイーシャンテンだが、現物の9万を切っていてフリテン含みのイーシャンテン。
ション牌ながら通りそうな西を切って受けるプレイヤーが多いことと思うが、ここは押し返しを狙わずに打7ピンを抜き打ってヤメ。
中途半端に色気を残さずに、この親権をさっぱり手放したところは小林らしい。

プロ2人がしっかりとこのリーチを受けきって、この局は流局。

この局を観て、我らが北はいつも通りに辛抱強い麻雀に徹しているなと、善戦の期待が膨らんだのだが、いかんせん一発でロン牌を引かされ、行きたい道(=マンズのホンイチ)に戸を立てられてしまったのは不安材料で、暗雲垂れ込める感覚が私には感じられた。

実は、このゲームが行われている裏で、私たち北海道のプレイヤーは「帝氷戦」で戦っており、リアルタイムで対局が観られなかった。
対局の途中経過を運営のかわいめぐみプロから逐一聞いていたのだが、やはり運気の低さがそのまま結果に直結して我らが北、1回戦目はラス。

1回戦結果
ヨシバ +33.0  まちゅ王 +12.9  小林 剛 ▲12.7  北 淳一 ▲33.2

決勝戦は5回戦あるので、1回戦目のラスはまだいくらでも取り返しが利く。
「1回戦目のラスは、逆にやることに迷いがなくなるから、良いこともあるもんだよ。」
と、私はかわいプロと話していたが、北が、このマイナスにどう向き合っているのか、私はその精神状態が気になっていた。

辛抱強さは折り紙付きの北淳一。
しかし、普段から逆転ホームランのような長打をねらって打つプレイヤーではないがゆえに、点数の少なさに押されて慣れない道に足を踏み入れたが最後、そこは修羅一直線。
自分の足元を見つめなおせたのなら良いが、遥か高みにいる先頭集団を見上げて悲壮を感じているのなら…と。

2回戦。

開局早々、プロ同士の一騎打ち。
小林がドラ単騎チートイツの先制リーチを放つも、北がすぐに追いついて追っかけリーチ。
和了牌を一発で手繰り寄せて2,000-4,000の和了で北に凱歌が上がる。

次局は小林がまちゅ王さんから「早いリーチは1-4ソウ」を一発で仕留めて11,600を和了るなど、プロがユーザーに先制する展開に。

道中、ヨシバが北を逆転して2着目に浮上して、迎えたオーラス。

ラス親の北が5巡目リーチ。
苦労しながらも終盤に高めの3万をツモ和了って2,600オールの加点に成功して再度2番手に浮上。
トップの小林まで6,000点差に迫ったのだが、

ヨシバが10巡目に決死のリーチ。
これを一発でツモ和了って1,300-2,600の1本場。
一発ツモもしくはツモ裏ドラ条件をキッチリこなして北を再逆転。

振り返ると、この局が両者の明暗を分けたと言って良いと思う。
もしも、この点差が逆になっていたら…終盤の両者の戦い方が大きく変わったはずだ。

2回戦を終えて、
ヨシバ +43.4  小林 剛 +14.1  まちゅ王 ▲23.8  北 淳一 ▲33.7

点差はともかく、ようやくエンジンがかかってきた感のある北。
3回戦でようやく芯を食った和了をモノにする。

東3局でリーチ一発ツモピンフドラの2,000-4,000で局面をリードすると、

熾烈なトップ争いが繰り広げられるオーラスにツモ二盃口ドラドラの3,000-6,000を和了って待望の初トップを奪取。

3回戦を終えて、
ヨシバ +48.8 小林 剛 +5.1 北 淳一 ▲2.1 まちゅ王 ▲51.8

北はこの一撃で負債をほぼ解消したが、注目すべきはユーザーのヨシバ。
決して展開が向いた3回戦ではなかったはずだが、名手小林を3着に退けて、自らはさらりと浮きを乗せたのは驚異の生命力と言える。

そのヨシバから、北が殊勲を上げる。

迎えた4回戦。
東1局のやりとりが面白かった。

8巡目。
小林から出た2枚目の東をヨシバがポン。
マンズのホンイチへ向かう必然の動きなのだが、この動きで、

北に絶好球の5ピンが飛び込んできて打6万で即リーチ。

ヨシバも7万をツモって、北の現物である6万待ちに構えたのだが、

ヨシバが7ピンを掴んで北へ11,600点の放銃となった。

捨て牌を観てほしい。
ヨシバがテンパイを入れる直前に、北が後にロン牌となった6万の処理に成功している。
まさに紙一重の鍔迫り合い。
そして、この一太刀を浴びせた後の北の表情にも注目してほしい。

眉ひとつ動かさず、視線は画面に注がれている。

集中しているから…人はそう言うだろう。
しかし、私は違うと思う。

大物手を和了した時、人は少なからず動揺し、高揚する。
さあ、これから逆転するぞ!と意気込めば座り方を直すだろうし、一つ息を吐いて安堵の思いに駆られる人もいるだろう。

しかし、この時北は微動だにしなかった。それはなぜか?
きっと、ヨシバが放銃の瞬間に抱えたであろう「失点に対する失意」に寄り添っていたのだと思う。

北は、対局者に最大限の敬意を持っている人だ。
北は、麻雀を愛するとともに、麻雀を愛する人を愛する人だ。

勝負事だから、大きな手を相手から直撃して申し訳ないなとまでは思わないだろうが、それにしても、相手の思いに気づくことが出来る人だ。

これ見よがしに相手に対して自分の優位をひけらかさない。
それは、相手に対する最大限の敬意であるし、プロとしての矜持であろうと私は思う。

打ち手としてだけではなく、様々な舞台をプロデュースする北ならではの姿。
私は、もう結果は二の次で、この北の姿が世界中に発信されたことが嬉しくてたまらなかった。

そして、この北の姿をもっとたくさんの方に知ってほしくて、この観戦記の筆を執った。

私ごときが何をかできるわけではないのに。
しかし、私にそういう衝動を突き付けた北の姿は、それほど素晴らしい姿だった。
同じ時代に北海道で麻雀を打つ同志として、手本となるべき姿だと思うし、私も含めてもっとたくさんの打ち手が学ぶべき心だと思うがどうだろうか?

しかし、さすがと言えばユーザーのヨシバ。

東2局。
タンヤオドラのカン5ピンでヤミテンを入れていたヨシバが、更なる加点を目指してリーチに踏み込んできた北の姿を観るや否や、追っかけリーチを敢行。
そして、終盤に北からリーチタンヤオドラの5,200点を召し取って先ほどの意趣返し。
きっと、北とヨシバの二人、このやり取りがたまらなく楽しかったはずだ。

牌で会話を交わす。

何を言っているのかわからない人は多いだろうが、二人の間にはパソコンを介してそんなやり取りが行われていたのではないかと私は感じた。

そして、このゲームは、

北の6,000オールや、

ヨシバの2,000-3,900と、大物手が飛び交う乱打戦に。
最終的には6,000オールがものを言って、北が連勝でヨシバを猛追。
4回戦を終えて、
ヨシバ +45.3  北 淳一 +20.0  小林 剛 ▲24.3  まちゅ王 ▲41.0
と、我らが北は2番手に浮上。

そして迎えた5回戦。

オーラスに現実的な条件を残した北だったが、反撃もここまで。
1回戦目からゲーム巧者ぶりを遺憾なく見せつけたヨシバが、宿願とも言える優勝を手にして今年のインターネット麻雀日本選手権が幕を閉じた。

観戦記という形でありながら、5回戦目の足跡を振り返らなかったのはどういうことか?というそこのあなた。

するどい(笑)。

ぜひ、最終戦は連盟チャンネルで見返していただきたい。
そして、逃げるヨシバ、すがる北のデッドヒートを実際にご覧いただきたいと思う。

最後に。

私みたいな一介のアマチュアがプロを評するのはおこがましいにもほどがあるのだが、この日の北の出来は素晴らしかった。
連日の激務に加え、対局の前の日にHMF(北海道麻雀ファンミーティング)の運営をきっちりこなし、早朝に起きて当日に東京入り。
この日くらいは仕事を他の人にお願いして、任せても良いのではないかと私は思っていた。
しかし、北はそれを良しとはしなかった。
そして、この日のこの戦いぶりである。

なんといえば良いのか今でも私ははっきりと答えが見つからないのだが、この日の北の姿を見て、
「北海道にバケモノがいたよ。」
という言葉が頭に浮かんできた。

重鎮、喜多清貴の右腕として、北海道麻雀界のために昼夜を問わず命を削る男。
その男が、こうして陽の当たる場所にたどり着いたことに、私は嬉しさを禁じ得ない。
確かに戦いには敗れてしまったかもしれないが、その存在感を大いに示すことが出来た。
北ファンとして、私はそれだけで満足している。

そして、これを読んでいただいた方に、そんなバケモノのことを知っていただければ幸いだ。

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