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北海道のむかし話17  頭も名人


頭も名人

「俺はニシンつぶしの名人だ」というふれこみで、雇われたものの、さっぱり働かない繁次郎に腹をたてた親方、このホラふきの繁次郎をぎゅうととっちめてやろうと、大樽にいっぱいニシンを入れて、繁次郎を呼び出し、

「さあ、繁次郎、おまえはニシンつぶしの名人だと自慢しているが、今日はひとつその腕前を見せてもらおう。この樽のニシンをつぶすことができたら、全部おまえにくれてやる」

困った顔をするかと思いのほか、繁次郎けろりとして、

「よし親方、ニシンをつぶせばいいんだろう。よーし見ててくれ」

白はちまきをきりりとぬすび、片はだぬいだ繁次郎、樽のふちをたたいて、大声で、

「さあさあ、みんな集まれ、集まれ」

と、人を呼び集め、ころあいを見はからって繁次郎

「これからニシンつぶしの競争だ。つぶしただけは、みんな自分のものだ。さあ、かかれ、かかれ」

と、樽のニシンをつかんではなげ、つかんではなげしたので、集まった人たちはキャアキャア大騒ぎしながら、我さきにと、つぶしだし、みるみるうちに樽の中はきれいに空になってしまった。

いっぱいくわされたと、くやしがる親方の前で繁次郎
「親方、おれはニシンつぶしも名人だけど、頭のほうも名人だね」

                          江差の繁次郎

ニシンつぶしとは、ニシンの腹を裂いて中の物を取り出し、カズノコやシラコをえり分け、魚体は身欠きにまわす作業。猫の手も借りたいといわれ、この「つぶし」の数多くできる人が高い賃金でひっぱりだこでした。


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