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数字で検証!終身保険は必要か?

この記事のポイント

● 純粋な死亡時の備えとして生命保険に加入したい人は、終身保険に入る必要はないでしょう。老後の資産運用は自分で別途行うべきです。
● 一方で、貯金が本当に苦手で、色々なデメリットがあっても毎月保険と一緒に積立貯金したいという人には、終身保険は向いているかもしれません。

初めに

一般的な生命保険には基本的に定期保険と収入保障保険と終身保険しかありません。保険GO!では終身保険は通常の保険に加入したい人には不要と考えていますが、この理由も含めて、終身保険の性質や必要性を、実際の数字を参考にしながら見ていきましょう。

終身保険とは

終身保険は加入者の死亡時に設定した保険金が受け取れるだけでなく、途中で解約された場合にもそれまで払った金額の一部、もしくは全てを受け取ることがでる保険です。なお、解約時に受け取るこの金額を返戻金(へんれいきん)と言います。保険料の一部、もしくは全部が返戻金として戻ってくる性質から、定期保険等の掛け捨て型保険と比較して貯蓄型保険と言われることもあります。

終身保険の説明で、保険料は割高になるけれど、掛け捨てではないので損はしない、とのことがたまに言われますが、これは非常に誤解を招く言い方です。まず、保険料は割高どころか、同じ保障額の定期保険に比べて10倍以上になります。また、損はしないというのも嘘で、様々なシナリオを考えると定期保険のほうが損をしないことが多くなります。実際の保険商品を見て比較して見ましょう。

実際の商品で保険料を比較

オリックス生命保険の終身保険ライズは、終身保険の中では非常にいい商品の一つだと思いますが、それでも例えば35歳男性が60歳までの保険料払込期間(60歳払済)で2,000万円の同保険に加入した場合、毎月の保険料の支払いは53,520円、60歳までの保険料総額は約1,606 万円になります。この保険は60歳まで保険料を毎月払い込み60歳になった時に解約すれば1,721万円を受け取ることができますが、60歳になる前に解約した場合は、その時点までの払込保険料の70%しか受け取ることができません。一方で、60歳までに死亡した場合は、保険金額の2,000万円を受け取ることができますが、それまでに払い込んだ保険料は当然別途受け取ることはできません。

一方で、同じ35歳の男性が同じ条件(60歳満了、保険金額2,000万円)のオリックス生命の定期保険ブリッジに加入した場合は、保険料は大きく下がって月額4,389円になり、65歳まで何もなかった場合の払込保険料総額は約132万円になります。もちろんこの金額は返ってきません。

まず皆さんが驚かれるのが、終身保険の高い保険料ではないでしょうか。終身保険の月額53,520円は、定期保険の月額4,389円に比べて、どう考えても「割高」なレベルの金額でなく、全く異次元の金額といって差し支えないでしょう。5千円弱なら一度家族でランチを節約すれば捻出できる金額ですが、5万円強となると高級車のローンや地方都市の住宅ローンの月々の支払いの金額です。しかし、終身保険の場合は60歳の時点で1,720万円の返戻金が返ってくることは、これが全くない定期保険と比べて優れた点です。そこで、終身保険と定期保険の保険料の差額月額49,131円を、普通預金や投資信託で積み立てた場合の終身保険との比較を見ていきましょう。

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60歳を無事迎える場合

もし終身保険ライズと定期保険ブリッジの保険料差額をそのまま毎月積立貯金して60歳を無事迎えた場合は、終身保険ライズの返戻金が、定期保険で余った資金を積立貯金した場合の金額を250万円程度上回るので、結果として終身保険ライズに入っていてよかったということになるでしょう。この金額の差は、この終身保険ライズの60歳満了の返戻金の利回りが0.6%に設定されている一方、普通預金はゼロ%利回りで設定されていることによります。しかし、もし定期保険で余った資金を利回り3%程度の投資信託に毎月積み立てた場合は、運用益に対する税金後で2,015万円となり、終身保険ライズの返戻金は余った資金を積立投資した結果と比べて294万円下回ります。日経平均の10年、15年の平均年利リターンがそれぞれ8.6%、5.2%であることを考えると、長期利回りで3%の想定は決して高くないですし、しっかり分散投資をすればさらに高い利回りを確保することも不可能ではないと思います。なお、返戻金が保険料支払総額を上回る場合は、通常所得税が課されますが、ここではこれらは割愛しています。

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50歳で解約する場合

一方で、失業やその他の理由で50歳で保険を解約しなければならないケースでは、終身保険ライズでは払込金額の70%だけが返ってくることになりますので、終身保険ライズは定期保険ブリッジで差額を積立預金した場合と比べて210万円損をしてしまいます。言わずもながら、長期利回り3%想定の投資信託で定期保険で余った資金を毎月積み立てたシナリオでは、終身保険ライズはさらに損失が拡大します。

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50歳で死亡する場合

また、50歳で契約者の方が死亡した場合はどうなるでしょうか。終身保険ライズでは死亡時には保険金しか受け取れませんので、遺族は2,000万円の保険金だけ受け取ることになります。一方で、定期保険ブリッジで余った資金を普通預金なり投資で積み立てる場合は、遺族は2,000万円の保険金を受け取るとともに、それまでに貯蓄した884万円なり1,064万円をそのまま受け取ることができますので、定期保険ブリッジ + 積立預金 / 積立投資のほうが遺族の手元に残る金額は大きくなります。

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分析&まとめ

結局のところ、終身保険に入るべき人は、本当に貯金が苦手で毎月大きな保険料とともに10年〜30年後のために貯金を行う強制力が欲しい方となります。それ以外の方は、終身保険に入るメリットは基本的にありません。もし老後のために資金を運用したいなら、自分で運用した方が資産を増やせる可能性が高いです。また、終身保険の途中解約時に大きな金額を失うことや、終身保険では死亡時に保険金額しか受け取れないことを考えると、資産運用を終身保険で行うことにはあまりメリットもありません。

マイナス金利時代の終身保険は、ゼロ金利を念頭に保険料が決まっていますので、経済的な観点からは魅力がない商品となっています。先述の通り、終身保険ライズの利回りは約0.6%であり、その他の対面で販売されている多くの終身保険は終身保険ライズよりも低い利回りになっています。1980年代や1990年代前半のバブル期には、4%、5%の利回りを想定して終身保険が販売されていたため老後の資産の準備として非常に優れた商品でしたが、マイナス金利時代の昨今では、終身保険で老後の資産を運用することは、資産運用の観点からはあまり得策ではありません。また、もし将来金利が上がることがあるとしても、解約して高金利の商品に乗り換える場合は、契約上30%なりの違約金がかかるため、この超低金利下の今に終身保険に入る理由はあまりないでしょう。