1.本件の争点
本件の争点は、以下である。
第1審である福岡地裁小倉支部令和2年6月17日判決は、上記争点のうち、争点③、⑤のみ判断している(③、⑤があるとすれば他の争点の検討は不要であるため)。
2.競業避止義務の有効性
裁判所は、競業避止義務の有効性については、まず一般論として
としている。
これは特に新しいものではなく、競業避止義務の有効性を判断する一般的な基準である。
●被用者の契約期間中の地位(役職が高ければ高いほど有効となる要素)
●競業が禁止される業務・期間・地域(限定されればされるほど有効となる要素)
●使用者による代償措置の有無(退職金等の代償措置があればあるほど有効となる要素)
その上で、本件競業避止義務については、制限期間が退職後2ヶ月間であれば、必要かつ合理的な制限であると言えると判断した。
その理屈は以下である。
つまり、
①新規顧客開拓は既存顧客開拓より難しく
②訪問型代理店は会社ではなく募集人に顧客がつきやすく
③制限の範囲は小さいこと
として、X社の競業避止義務の必要性に一定程度理解を示している。
ただ、「しかしながら」として、
として、A病院のような、Yのもともとの顧客については、X社によって競業を制約する必要性は低いと指摘している。
そして、
として、一律に無期限で制限をすることは公序良俗違反であると判断している。
ただし、
として、
と判断した。
つまり、退職後2ヶ月間に制限して、既存顧客か否かに関わらず、本件競業避止義務について有効であると判断した。
そして本件では、Yは、X社退職後2ヶ月以内に営業活動をしたことによって、A病院は、F社と保険契約を締結しているのであるから、競業避止義務に違反すると判断した。
3.X社に生じた損害
まず損害が発生したと言えるためには、Yが営業活動をしなかった場合には、A病院がX社において、保険契約を更新していたといえるかという点が問題となる。
Yが営業活動をしてもしなくても、A病院がX社との間で保険契約を更新していない可能性が高いのであれば、Xに発生した損害は、Yの行為によるものではないことになり、損害賠償請求ができない。
この点について裁判所は、
から、Yによる競業避止義務違反行為がなければ、A病院はX社において、保険を更新していたと認められるとした。
そのうえで、前回更新時の保険料をベースにした代理店手数料相当額である141万2059円を損害として認めた。
これに対して、高裁はYに競業避止義務違反は認めないという逆の判断をしている。高裁判断については次回