【裁判例】レジェンド元従業員事件①事案の概要

0.福岡高裁令和2年11月11日判決

労働判例2021年6月15日号(1241号)に掲載された保険代理店の競業避止義務に関する裁判例である。

保険代理店は募集人が入社する際や、退社する際に、他の代理店への就職を禁止したり、元代理店への顧客への営業を禁止したり、競業避止義務に関する誓約を書かせる事例が多い。

その中で競業避止義務について判断した本件は実務に置いて非常に参考となる裁判例である。

1.事案の概要

株式会社レジェンド(X社)は乗合保険代理店であり、もともと代表者が個人事業として経営していたE社が、H21.3に法人化したものであった。

Yは、H16.2にXが扱う保険会社の一つであるB社の代理店研修生として3年間の研修を終えて、代理店独立基準を満たし、G社を開業したが、その後、H20.11にE社に入った。

そしてこの際に、YがG社で獲得した顧客(Y既存顧客)の保険契約はE社に移管された。

そしてE社が取り扱う保険契約がX社に移管され、YはX社の従業員として勤務することになった。

YはX社の求めに応じて、H28.4に機密保持誓約書にサインしている。

その中には、

第3条(退職後の機密保持)
1 機密保持について、原告を退職した後においても、自己の為又は当会社と競合する事業者、その他第三者のために使用しないことを約束します。
2 退職後、同業他社に就職した場合、又は同業他社を起業した場合に、原X社の顧客に対して営業活動をしたり、X社の取引を代替したりしないことを約束します。但し、個人情報、機密保持とも期限を定めないものとします。

といった記載があった。

ここまでの流れを図にしたのが以下である(左から右へ時系列的に記載している。以下同じ)。

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2.奪われた?病院との契約

Yは、その後H29.7にX社を退職し、保険代理店であるF社に入社した。

Yは、G社として稼働していた頃、10台程度の自動車保険契約を預かっていたA病院に対し、B社の財産包括保険の提案をしていた。

その後、YがX社に移籍した後に、A病院は、財産包括保険に加入することになった。

その後、YはX社を退社することになり、X社はA病院に対し、財産包括保険の更新の営業に行くが、更新には至らず、その後F社に移籍したYとの間で、B社とのは別の保険会社との保険契約を加入することになった。

X社からみれば退職した従業員に病院の契約を奪われた形である。Yからすればもともと自分の顧客だった病院に対して営業活動をしたにすぎないという面もある。

以上のような経緯を図にしたのが以下である。

スクリーンショット 2021-06-20 17.34.11

X社は、Yに対し、誓約書で記載した競業避止義務、秘密保持義務に違反したとして、債務不履行による損害賠償請求権に基づいて、A病院との保険契約を更新できていれば得られたであろう代理店手数料収入分である179万9386円及び遅延損害金の支払いを求めたのが本件事案である。

4.本件の争点

本件の主な争点は、Yの行為がX社との間で交わした誓約書に違反するかどうかである。

「競業避止義務違反などは誓約させても効力は無い」といった認識を持つ代理店も多いと思われるが、当然全て無効になるわけではないため、この点について判断されており、非常に参考になる。ちなみに、地裁の判断と高裁の判断が異なっており、この点も参考になる。

争点及びその争点に対する判断は次回

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