保苅実。次世代につなぐということ。
保苅実とつながる会は、彼のこの願いを叶え続けることを活動の主旨としている。
「ラディカル・オーラル・ヒストリー:オーストラリア先住民の歴史実践」(御茶の水書房2004:岩波現代文庫2018)という一冊を遺してくれたから、保苅実がこの世を去った後も「ラディカル」は彼の分身として出会いの旅を続けている。
つながる会による最も大きな企画は、保苅実写真展の開催と図録販売である。当時、北海道立北方民族博物館の学芸員だった(現在は学芸主幹)笹倉いる美さんが、私の交流の中で提案し企画してくださったユニークな写真展である。
私の手元に遺されたミノルが撮った写真と、「ラディカル」からの引用をパネルにして、ストーリーを組み立てた写真展。
この写真展に3509人が訪れてくれた。それをブログに書いてくれた人たち。時間をかけて丁寧に写真とパネルを見ていたご夫婦。そして、私が何よりも嬉しかったのが、地元の中学からの団体に、笹倉さんのお話を頷きながら聞いていた中学生がいたという話。「きっと何かを感じ取ったと思います」と笹倉さん。
保苅実の人生と業績は、時空を超えて生き続ける。それを若い世代につなげていける機会を私は常に探している。街の図書館はもちろんのこと、高校の図書館に「ラディカル」をおけないかどうか。日本のどこかの小学生中学生高校生たちに、日本という小さな小さな国の外にどんなに大きな世界が広がっているかということを知ってもらいたい。コンピュータやスマホで見るだけじゃなくて、そこに向かって飛び出していった保苅実という若者がいたということ。そこには想像もつかないような歴史と文化が存在したこと。
コロナ禍にならなければ、地元新潟市で開催するはずだった写真展。いずれまた必ず、と思っているけれど、家にいながら保苅実の旅を一緒に経験してみるというのはいかがだろう。
保苅実写真展図録、販売中。展示された写真とパネル全てと、新潟日報の連載「生命あふれる大地:アボリジニの世界」が、札幌在住の写真家・露口啓二氏と笹倉さんの寄稿とともに収録されている。
そして、販売による利益は全てオーストラリア国立大学・保苅実記念奨学基金に寄付しています。
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