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自分探しのデートプラン

※ライティングゼミ7回目の投稿記事です。掲載OKでした。

ネタがない時の、2000文字の壁が越えられるようになった気がしたあたりです。(笑)

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とある日、わたしは1万円を片手に、文房具屋に向かった。
画材を購入するためだ。

といっても、わたしは今まで「画材」というのを購入した事がない。
なにから買うか、なにを買うか。

初デートに向かうときのような緊張感。
ドキドキとワクワクが同時にこだましていた。

この行動に至った理由はいくつかある。

ひとつは、前からほしかったけど買わずにいたものを、今あえて購入する、ということ。

もうひとつは、いつも使っているデジタル機器から離れて、アナログを経験すること。

一番は、自分が本当に描きたいものを探すこと。


そしてこれらはすべて、自分を喜ばせるため、
自分との「デートプラン」だ。


言い忘れていたが、わたしはイラスト制作の仕事をしている。

似顔絵や、LINEスタンプなど、様々な用途のイラストを描く日々。


作業はすべて、デジタルだ。


わたしにとって、そのイラストたちは商品だった。

もちろん気持ちを込めて、依頼をくれる人の希望を最大限に汲みとり、形にしている。

自分のイラストが世に出ていくこと、依頼者が喜んでくれたこと、
全てが自分にとってプラスであり、嬉しいことだ。


しかし、その反面。

自分の絵とはなんだろう。
オリジナルの意味。
創作とは、商品とは。


自分が描きたいものと、求められるものの違いがモヤモヤとなり、
わたしの心の中をずーっとうろついていた。


うまく自分の言葉に消化できず、悶々とただひたすら考える日々。


そんなとき、友人がわたしにこう言った。

「一回、お金とか抜きにさ、自分のために何かしてみたら?」

「他人を喜ばせるんじゃなくて、自分を喜ばせること考えよ」


「?」

すぐには理解できなかった。

なぜなら、わたしは自分のためにイラストを描いていると思っていたから。

相手のために描き、喜んでもらい、対価としてお金をいただく。

これこそが、自分の喜びと思っていた。


しかし、そうじゃないのかも……? 

自分がやりたいことが、他人基準になっていた? 


わたしはいつの間にか、自分にたいして、知ったかぶりをした恋人のような態度をとっていたのかもしれない。


好きな人のことをもっと知りたいと思うのと同じように、
もっと自分と会話しなければいけない。

どんどん自分に問いかける必要がある。

そう思ったわたしは、1日かけてひたすらと
「自分のうちなる声」を聞くことにした。

スマホを手離し、布団にもぐり、じっと目を閉じた。

「……」

(全然聞こえてこない……)

「……」

(なんか言えよ自分! )

それはまるで、片思い相手から返信を待つときのような、
そわそわして、もどかしい気持ちだった。


しょうがないと諦めて、布団の中でスマホをいじり始めたそのとき。

幼い頃の記憶がふと蘇った。


ある日の休日。
あったまった布団から出るのが嫌で、ゴロゴロぬくぬくしていた小学生のわたし。

大好きな少女漫画を、布団にもぐって読む時間が至福の時だった。

(そういえばよく、漫画のキャラクターを真似して描いてたっけ)


消しゴムのカスがまわりに飛び散るくらいずっと絵を描いていた。

模写も、オリジナルも、様々描いた。
描きたいものがどんどん浮かんでいた。

完成できないままに終わった絵もたくさんあった。

(また、あのときみたいにがむしゃらに描きたいな)

この記憶がわたしの心の声となり、
自分が喜ぶデートプランへのヒントとなった。

さて、画材といっても様々だが、
わたしが購入するのは「コピック」というアルコールインクで描くマーカーペンだ。


350以上の色の種類があり、滲ませながら着色していくのが特徴だ。

当時の漫画は、このコピックペンでカラー表紙などが描かれていた。
わたしはコピックで描かれたカラーイラストが大好きだった。

何色が使いやすいかなど、
下調べをきっちりしてからいざ文房具屋へ。


何百種類もあるペン。スケッチブック。ノート。

もともと文房具屋は大好きだが、
大人買いできると思って入ると、よりテンションが上がる。

バラバラとコピックペンをかごに投入する。
頭の中は、自分が描く予定のキャラクターや、イラストでいっぱいだ。


「こんなの描きたいな、あんなの描きたいな」

こんなにワクワクしながら物を選ぶのは久しぶりだった。


1時間ほど滞在し、会計金額は10520円。
少しはみ出したが、買いたいものが買えた。満足だ。

そそくさと帰宅し、ノートを広げ、時間を忘れて描いた。
トイレに行くのも忘れ、娘を抱っこ紐にいれながら、ずーっと描いた。


久しぶりのアナログは、わたしを幼い頃へとタイムスリップさせた。

「楽しいな。難しいけど、楽しい」


デジタルの癖で、画面を拡大するような手ぶりを、スケッチブックにむかってしてしまう。


大きさや、向きもすぐにパッと変えられない。
間違ったら消しゴムで消して、はじめから描き直しだ。


「もっとうまくなりたい。もっとたくさん描きたい」


楽しい! 

もっと知りたい! 

描きたい! 

自分自身と向き合って、みるみると溢れ出る気持ちは、思っていた以上に弾け飛んでいた。


そのとき、友人から言われた言葉を思い出した。

「一回、お金とか抜きにさ、自分のために何かしてみたら?」

「他人を喜ばせるんじゃなくて、自分を喜ばせること考えよ」

デジタルに慣れたわたしは、いかに効率よく描くかを常に考え、
スピード納品を追求していた。


ゆっくりと、消しゴムで消して、
描き直しを繰り返しながら完成させたのはいつぶりだろう。

「自分とデートするかんじだよ!」

と、その友人は言った。


自分が喜ぶデートプランを考えればいい。

夫、子供、友人、誰のことも考えず、ただひとり、自分のことだけを見つめる。

そうすると、忘れていた気持ちや、新しい発想がどんどん溢れてくる。

あれもしよう、これもしよう、
時間がどれだけあっても足りない。

好きな人とデートをするように、
自分をおもてなししながら、過ごしてみよう。

自分を喜ばせることで、心から楽しいと思えることを見つけられる。

今回のデートプランは成功だ。

「また会おうね」と、微笑みながらつぶやく。


自分とデート、お試しあれ。
<終わり>

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