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米やめました⑥ 合法ドラッグとしての米

食品交換表第7版の序に「日本人の伝統的な食文化を基軸とし」とあるが、言うまでもなく眉唾である。そもそも日本のいつの時代の食文化を指しているのだろうか。

また、米を主食と崇め奉り山ほど食わせる前提で設計された日本食を持ってきておいて、糖尿病食事療法とは矛盾も甚だしい。バランスが重要と言いながら主食の概念を持ち出すのは、新手の天動説か何かだろうか。

私は食事の際、大量の蒸し野菜と海藻、いくらかの塊肉、大豆製品、スープといった並びの末席に、以前は申し訳程度の米を配していたが、そのうちに米に辿り着く前にもう十分となり(炭水化物を食べた時の満腹感とは性質が異なる。腹が満ちる前に脳が「もう十分」と言い出す)次回の食事に先送りするようになった。やがて米がなくても何ら問題がないことが判明した。

ある時に妻が突如、麦100%の飯が食べたいと言い出したので、噂の「臭い飯」を炊いてみた。黒ビールとかPumpernickelを思わせる香りではあるが、臭いというほどではない。ただ、粒に粘り気がないので箸で食べるには面倒なのである。時間をかけて食べることは血糖スパイクの防止にも有効であり、私は面白がってしばらく続けたが、妻は一度でギブアップした。

甘くない「玄米フレーク」「オールブラン」も買っていたが(当然ながら甘味はなくても糖質は相変わらず含んでいる)、コロナ禍に乗じた買い占めが起こり、「オールブラン」についてはその後スーパーの品薄が回復する頃になってもなぜか戻って来なかった。そのうちモデルチェンジしたらしく、以前よりお高くなってしまった。

ある時自転車での遠出の帰りに、ふと立ち寄った業務スーパーで激安オートミールを見つけ、早速買って試してみた。特に調理法は調べなかったが、味噌汁などに適当に一掴み叩き込んでも形になった。麦も味噌の原料ならば合わないはずはない、というよくわからない理屈だったが、あながち間違ってはいなかったようだ。炊く必要もないので野外活動や非常食にも便利だろう。

オートミール(ロールドオーツ)は味付けもなく気に入っていたが、以前に父が「鳥の餌」と評していたことを思い出した。同じ穀類なら白米よりもだいぶマシであるのに、何故腐すのだろうかとSNSに投げてみたところ、昔に「貧乏人は麦を食え」という政治家の発言があったことを教わった。

何となく聞いたことはあったが、政治家の発言を真に受けて、白米を食すと豊かな気分になり、麦を食すと惨めな気分になるのだろうか、それはそれで哀しい事だと感じたが、一度出来上がったマインドセットは容易に崩せないのだろうか。

オートミールは気に入っていたが、毎食食べるのでもなかったから極めてのろのろと消費していた。ようやく1袋を食べ切った頃に再度業務スーパーに出かけたら、何と長期にわたり品切れ中だと言う。調べてみたら私の知らぬ間にダイエットに良いとテレビで紹介されたようで、またぞろ買い占めが起こったという。

テレビには本当に害悪しかないなどと怒り狂った私は、遠方の別の店から通販で一気に8袋もまとめ買いしてしまう。届いてみたら明らかに買い過ぎで(1袋の価格も業務スーパーの2.5倍で、実に20倍もの浪費)結局友人らに暑中見舞いだと言って1人2袋ずつ送り付けた。

玄米も試した。やはり私には100%玄米が好みだったが、妻には受け入れられなかったようだ。なお、白米、玄米、もち麦、オートミールのカロリーと糖質量にはさほど違いはなく、食物繊維の量によって1食分の糖質量に差が出る。言ってみれば白米は「ゴリゴリに精製されたヤバいブツ」なのだ。と、この時に思い至った。もしや白米とは「合法ドラッグ」なのではないか?

ここでいよいよ私は糖質制限の第一人者、江部康二医師の文章に遭遇する。

「食事で摂取すべき糖質の必要最小量はゼロである」

「糖質は人体にとって必須栄養素ではありません」

これらの文言だけでも決定的である。この段階では私も半信半疑であったが、既に米・粉・砂糖をほとんどやめてしまった後なので、自分の現状とも何ら矛盾がなかった。また、食事療法と言いながら米推しをやめない糖尿病学会の謎については、以下の文章が参考になった。

「なぜ炭水化物が一番上になっているのですか? 身体に良いというなにか科学的根拠があるのですか?」
「そんなもんありません」

皆まで言うこともないが、言わば無意味に税金を絞られるためにニコチン依存症になっていた15年前の自分と、何ら大差がなかったというわけだ。なんなら(二重の意味で)薬漬けにされて、製薬会社に死ぬまで金を毟られるところであった。そこには根拠などないが、無根拠ならば縁を切ってしまえばいい。

あるいはリバウンド/スリップの危険に留意して、嗜好品と位置づけて時々解禁するかだ。今のところ糖質に関しては、そこまでの依存性は感じていないのだが、大量摂取の翌日は明らかに寝覚めが悪く、疲れも感じるので、端的に言ってデメリットでしかないのだ。

いま糖質が危険物質であるかのように書いてはいるが、多くの健康な人にとっては受忍できる程度の危険度なのだと思う。糖質制限は、糖尿病患者や健康問題のある人には直ちに関係するが、現状に問題がない人にはさほど関係がない。ただ一旦始めてしまうと、禁煙と同じく、それを中断する理由もあまり見当たらないのである。

2020年現在、糖尿病は完治しない病気である。2型糖尿病には遺伝が関わるとされ、元の遺伝的体質を変えられない以上、今の私にできることは死力を尽くして発症を防ぐことだけである。その意味ではアルコール依存症とも共通性があるように思う。

アルコール依存症については、一度漬物となった大根は元の大根に戻ることができない、と例えられる。依存症から回復するには、ただ、アルコールをやめるという以外に方法がない。糖尿病予備軍も一旦完璧に漬けられてしまったら後戻りはできない。否も応もなく、ただ糖質をやめる以外に選択の余地はないのだ。