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米やめました② 2軍

昨年(2019年)の秋に健康診断を受けた私(40代、男)は再検査を指示された。例年の如く、健診前に缶コーヒーか酒を飲み過ぎたせいだと軽く考えていたが、再検査の結果、私は糖尿病外来にかかるよう案内された。

過去1~2ヶ月の平均的な血糖の状態を示すHbA1c(ヘモグロビンA1c)の値は6.6%であり、医師からは2型糖尿病の予備軍(略して2軍(略すな))であることが告げられた。基準は様々だが、この医師の場合は7%以上を糖尿病と見なすらしい。確かに近年は体重と腹周りが気になっていたが、糖尿病と言われると話は別である。

私の父も長らく糖尿病を患っており、日々の注射が欠かせない。元々が丈夫だったためか、外見的にはさほど問題はないが、70歳前後から急速に歩く速度が落ち、重い肺炎で1ヶ月入院したり、視神経にも異常が出た。

どこまでが糖尿病と関わるのかはわからないが、同年代の人と比べると体力の低下が激しい。また何と言っても、日々注射を打ちながら四六時中菓子ばかり食べているので、母にも呆れられている。よって糖尿病予備軍と告げられた私が最初に思ったこととは当然「父のようにはなりたくない」であった。

お前は糖尿病だと宣告される直前、軽い気持ちで問診票に書き込んでいた私は「できれば薬を使わずに治療したい(はい・いいえ)」という選択肢に一瞬立ち止まった。ここで言われている薬とは何なのか。一過性のものなのか、それとも一生薬漬けにされるのか。何らの説明も記されてはいない。

家族の糖尿病を知りながら、この時まで何一つ学んで来なかった私に手持ちの判断材料は皆無であったが、最悪の場合を想定して「はい」をマルで囲んだ。今にして思えばこの瞬間がポイント・オブ・ノー・リターンだったのだ。「つまり薬は使いたくないということですね」と妙に念押ししてきた医師は、その場で外来栄養指導の予約を取った。

管理栄養士による栄養指導の概要とは、1日の摂取カロリーを1600kcalに制限すること、1日3食のバランスの良い食事を行い、ご飯は1食につき100-150gを厳守、それから適度な運動しろ、というようなものであった。

次いで食事療法のサンプルメニューを見せられた私は、その場でこれは無理、もしく非現実的だと悟った。主食・主菜・副菜・デザートという旅館の食事のごとき献立が、食材・調味料ごとに1g単位で記されており、これが日に3回繰り返される。皿の数を見ただけで怠い。

ちなみに我が家の食事の準備はほぼ100%私が行う。妻の方が遥かに多忙であることに加え、たまに妻に作ってもらうと塩分高めになるという理由もあるが、本人には黙っている(妻は東北出身で、そのためなのかどうか、塩辛いのが好みだが、私は明かな塩味がした段階で塩の用法としては間違いと捉えている。長きにわたる対立の末「塩は自分でする」というやり方で一応の合意に達した)。

それまでの私の料理とは、インド料理や炒め物など、基本的にワンポットミールであったので、まずはその方法での食事療法の再構築を試みた。ところが管理栄養士に渡された表によると、油は1日15gまでしか使えない。1食15gの間違いではないのかと思ったが、いずれにせよこの段階でインド料理は脱落した。

妻の友人にインド人がいて、2017年に彼の結婚式に招かれて北インドを訪れた私は、インド料理を「塩と油の料理」と認識した。多種多様のスパイスを揃えることが要点なのではなく、塩と油を思い切って使うことで本格的になる。

試しに油を極力減らしても作れないことはないが、鍋に油膜が張らないためか、異常に足が早くなる上に、そもそも油分が無くてはスパイスの芳香が機能しない。油分も塩気もなく、その上米も少なめとあっては、食べても気が塞ぐばかりである。こんなものは料理とは言えない。