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韓国の民主化の歴史を描いた映画の時系列まとめ

韓国では戦後の政治の歴史を描いたノンフィクション映画が多く制作されています。特に軍事政権から民主化に至るまでの過程においては、日本とは大きく異なる歴史を有しており、これらの歴史の流れを押さえておくと、鑑賞にももちろん勉強にもなります。

これまで見た作品などを時系列に並べつつ登場人物となる大統領を紐づけることで、複数の作品を横断的に理解していただけたらよいなと思います。作中で民主化に関わる内容が主題として扱われていないものもあります。

なお、これらの作品では빨갱이(パルゲンイ、アカ、共産主義者)という言葉が非常に多く登場します。


登場する主な大統領

李 承晩(イ・スンマン) - 任期:1948~1960年

韓国の初代大統領。1960年に不正選挙の疑いでアメリカに亡命することに。

朴 正煕(パク・チョンヒ) - 任期: 1963~1979年

クーデターにより権利を握り、高度経済成長を実現する。側近に暗殺される。

全 斗煥(チョン・ドゥファン) -  任期:1980~1988年

光州事件の中心的人物。その後大統領となり、文化的な改革などを行なった。

盧 泰愚(ノ・テウ) - 任期:1988~1993年

1987年に民主化宣言を行い、16年ぶりの民主的選挙で大統領に当選した。

金 泳三(キム・ヨンサム) - 任期:1993~1998年

朴正煕政権以来、初めての軍人以外の大統領で、文民政権と呼ばれた。

金 大中(キム・デジュン) - 任期: 1998~2003年

1971年の大統領選で朴正煕と接戦するも敗れた。その後暗殺未遂、死刑判決、亡命、軟禁などを経て大統領に。90年代に日本の映画などを流通させた。

盧 武鉉(ノ・ムヒョン) - 任期:2003~ 2008年

初の終戦後生まれの大統領。弁護士出身。


韓国史映画の時系列

以降では、作中の舞台となる時代により作品を時系列順に並べてみます。基本的には、作中の中で一番古い時代を起点に考えます。

『大統領の理髪師』 1959~1979年(2004年公開)

原題:효자동 이발사
李承晩の不正選挙あたりの話から始まる作品。タイトルの「大統領」というのは朴正煕のことで、四月革命による李承晩の失脚に続く、朴正煕政権の始まりから終わりまでが中心的な内容となっている。


『キングメーカー 大統領を作った男』 1961~1988年(2022年公開)

原題:킹메이커
金大中とその選挙スタッフの厳昌録(オム・チャンノク)が主人公の作品。主に1971年の大統領選(朴正煕が当選)のことが描かれる。


『夏物語』 1969年 (2006年公開)

原題:그 해 여름
イ・ビョンホン主演の大学時代の恋愛映画だが、後半のソウルの大学シーンで、朴正煕が長期政権を目論み行なった3選改憲への反対する学生運動が展開される。


『シルミド』 1968~1971年(2003年公開)

原題:실미도
1968年に北朝鮮の軍事スパイによる、大統領殺害未遂である青瓦台襲撃未遂事件が起きた。それに対するべく、北朝鮮の金日成暗殺計画を立てた政府により作られた特殊部隊の話。実尾島(シルミド)という無人島で訓練が行われた。撮影もその島で行われたらしい。

映画の公開によって、その事実が多くの人々の目に晒されることとなった。政府とも揉めた模様。

なお、青瓦台襲撃未遂事件で唯一捕えられた北朝鮮スパイはなんと韓国人となり牧師になったとのこと。


『セシボン』 1970年代 (2015年公開)

原題:쎄시봉
実在のフォークシンガーと音楽喫茶をモチーフにした音楽映画。この時代の夜間出入り禁止令の取り締まりなどの描写がある。中心的な登場人物であるイ・チャンヒは歌詞の政治的な内容などから朴正煕に目をつけられ、発表曲を禁止曲にされたり、大麻使用の疑いをかけられたりし、結局アメリカに渡る。これはこの時代の多くのミュージシャンが置かれた境遇であった。


『ペパーミント・キャンディー』 1979~1999年 (2000年公開)

原題:박하사탕
20年間のエピソードを逆順に描いた作品。そのうち、1980年の場面で兵役中の主人公が出動する光州事件が描かれている。


『KCIA 南山の部長たち』 1979年(2020年)

原題:남산의 부장들
大統領であった朴正煕が金載圭(キム・ジェギュ)に暗殺されるまでを描いた作品。


『ソウルの春』 1979年 (2023年公開)

原題:서울의 봄
朴正煕暗殺後、民主化ムードが漂った時期のことを指す言葉。映画では、1979年12月12日夜7時からの9時間を141分に収めたとのこと。この日に全斗煥による軍事クーデータが行われた。


『光州5・18』 1980年 (2007年公開)

原題:화려한휴가〈華麗なる休暇〉
ソウルの春による民主化ムードに包まれた光州にて、それを武力で押さえ込む全斗煥率いる軍事政権が起こした光州事件を描いた作品。光州に住む主人公の視点による物語。


『タクシー運転手 約束は海を越えて』 1980年 (2017年公開)

原題:택시운전사
光州事件を現地で取材したドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターと、その取材のため同行したタクシー運転手の金砂福(キム・サボク)という二人の実在の人物をモチーフにした作品。当時、政府による情報統制のため光州で起こっていたこの事件は韓国では報道されておらず、ユルゲン・ヒンツペーターにより海外で報道された。


『弁護人』 1981年(2013年公開)

原題:변호인
のちに大統領となる盧武鉉が弁護士だったころの話。政府による共産主義分子の排除を名義に、社会活動家を不当に暴力的な拷問に課していた。捕えられていた学生の弁護活動を描いた作品。


『偽りの隣人 ある諜報員の告白』 1985年(2020年公開)

原題:이웃사촌
のちに大統領となる金大中がモチーフの話。前提として、1980年の光州事件の扇動を理由に全斗煥による逮捕、死刑判決→無期懲役→アメリカ亡命による無執行の措置を受けていた。亡命から大統領選出馬のために帰国強行し、逮捕され自宅軟禁されたエピソードをモチーフにした作品。


『1987、ある闘いの真実』 1987年 (2017年公開)

原題:1987
全斗煥政権の警察署内で学生運動のデモによって捕えられた朴鍾哲(パク・ジョンチョル)が拷問により死亡する。それ以降の盧泰愚による民主化宣言が出されるまでの民主抗争を描いた作品。


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