民主主義成立における絶対王政と議会・官僚制の重要性:資本主義の役割

アメリカなど新大陸国家の様に、何もないところから、というと言いすぎかもしれないが、新しい土地の国家を樹立したパターンはここでは無視する。

その場合、イギリスが民主主義だけでなく社会の発展・近代化のモデルと見なされやすい。ただ、プロイセン(ドイツ)でも当てはまると思う。

歴史の区切りとして、古代・中世・近代・現代が一般的かもしれないが、中世と近代の間に「近世」が入ることがある。中世は封建制、近代は資本主義的な成長経済と民主主義とするなら、近世はその間の大体15世紀から18世紀あたりになる。文化的にはルネサンス、経済的にはスペイン・ポルトガルの新大陸発見やアジア貿易と14世紀のペストの人口急減からの回復局面、宗教的には宗教革命、社会的には都市化、政治的には封建制から絶対王政ということになる。これらは関係していて、貿易の利益は王権に集中する傾向がある一方、14世紀のペストによる人口急減は労働人口を激減させて「封建制の危機」を招いた。宗教革命は既存のカトリックの権威を揺るがせ、特に修道院などが抱えていた資産が世俗権力に奪われる結果となる。

一方で、封建制が揺らぎ、農業生産以外の富の源泉が生じると、それを担当する勢力が政治的に力を持つことになる。イギリスだとジェントリーと言われる人たちと、商業・工業家だった。王様が戦争に明け暮れるのは変わらないが、その戦費を負担するのが(大)貴族だけではなくなってきて、より幅広い納税者の理解を得るために議会が必要になる。常備軍が整備されるのも、この時代である。また、商業が盛んになると交通インフラを整備する必要も出てきて、これも金を集めて工事をする主体として国が大事になってくる。都市化による都市貧民の増加に対し、中世の教会がセーフティーネットの力を落とすと、救貧法など政府の最低限の社会保障制度の仕事も生じてくる。

こうして徴税して、常備軍を平時に管理し戦時には大規模化した軍隊の兵站を担い、その他交通インフラ整備や統一された法行政、都市化による社会保障や公衆衛生など、官僚制が進むのもこの時期である。

図式的には、これが19世紀以降の近代に入ると、いよいよ経済が本格的に成長局面に入り、最低限の教育を受けた労働者からも所得税を取る必要性が出てくると、「議会」の選挙権を持つ人がどんどん増えていって、最後には成人男子全員とかになってくる。

こうして見ると、主権者としての国王がいる、ということ以外は近代社会とそっくりになってくる。イギリスではハノーバー朝、エリザベス時代に徐々に国王が象徴的な役割に移り、「王は君臨すれども統治せず」という状態になる。機能論としては、王様の代わりにprime minister(首相)を議会が選び、首相が行政を担当して議会がそれをチェックするという役割分担になる。

イギリス以外の国では、オランダ・ベルギーはフランス革命を契機に共和制に移行、フランスでは普仏戦争の敗北から第三共和政へ移行。第一次世界大戦の敗戦などを契機に、ドイツ=プロイセンやオーストリアも国王不在の共和国に移行した。

こうして、絶対王政という中央集権体制を作った上で、それをチェックする議会がちゃんとあれば、王政を廃止すれば、それに代わって行政を担当する大統領や首相に移行できることが分かる。

一方、ロシアなどでは第一次世界大戦で皇帝制が廃止されたが、議会の存在もなかったので、結局、共産党という別の独裁が整理するしかなかった。

既にみたように、それなりに議会が機能するには、納税者として農業だけではなく商業・工業から財を成した人が一定数必要になる。また、議員もそうだし、絶対王政を支える官僚を育成するにも、それなりに教育が普及しているのも重要。また、特に王権に対して議員の身分を保証するために刑法・刑事訴訟法、経済の発展に民法・商法が整備される必要がある。こうしてみると、単純な政治だけではなくて、経済・社会がそれなりに「近代化」されていることが重要であることが分かる。

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