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[この曲がすごい!その8]RCサクセション"いい事ばかりはありゃしない"

「好きな一曲をただレビューする」コーナー。記念すべき第8回はこちら!RCサクセションの「いい事ばかりはありゃしない」!

RCは名曲が多いし、もっと派手な曲もたくさんあるのですが今日はなんとなくこの名曲の気分。全然直接的じゃない優しさを感じる曲。

「いい事ばかりはありゃしない」は1980年リリースのアルバム「PLEASE」に収録された一曲で、RCサクセションが三人組フォークロックバンドから派手なロックバンド編成へと変貌してライブアルバム「RHAPSODY」、シングル「雨上がりの夜空に」をリリースしていよいよロックバンドとしての人気や注目が高まった後の勝負のアルバムでしたが、そのタイミングでもこの曲を収録するあたりにバンドメンバーや編成が変わってもブレない清志郎のこだわりや意地を感じる気がします。

曲はスローテンポのバラードで、歌詞は「金が欲しくて働いて 眠るだけ」と上手くいかない日常や上手くいっても失敗してしまうやるせなさや無力感、若い頃からだんだん年を取り仕事は覚えていくけど何も変わっていない自分に気づいて思わず涙ぐんだり立ち止まったりしながらもまた「金が欲しくて働いて 眠るだけ」と歌われます。

僕はテンションが上がる曲や楽しい曲、明るい曲も全然嫌いじゃないですけど、このどん詰まり感や無力感を歌ってくれる清志郎をすごく信頼しています。清志郎のキャリアも順風満帆だったわけではなく、貧乏な時期もあったりデビューしてもレコード会社のトラブルに巻き込まれて契約を解除されたりリリースしたアルバムが廃盤になったり、中学生の頃からの幼馴染だったバンドメンバーが鬱になってギターを弾けなくなってしまったので清志郎がクビにしたりと清志郎自身もどん底を味わいながらミュージシャンとして活動してきました。旧友だったメンバーが離脱したこともロックバンドとしてRCサクセションが生まれ変わる大きな要因だったと思いますが、レコードも出せずライブで交流があった矢沢永吉や井上陽水の前座を努めては彼らのファンから大ブーイングを浴びてしまったりもした時期があって、その後ローリングストーンズを研究したりセックス・ピストルズに影響を受けてそれまでおかっぱだったり長髪だったりした髪をばっさり切り落としてツンツンさせてメイクもしたり、服装も素朴なフォーク歌手のようなイメージから派手で奇抜なステージ衣装に変わっていきました。そんな試行錯誤の末、ライブパフォーマンスに注目が集まり動員が増えた頃に大ヒット曲「雨上がりの夜空に」のような痛快なロックナンバーをリリース(歌詞は結構やるせないですけど)しましたけど、それでも根本的な寂しさや弱さ、自分を含めたそういう人たちを描き出す優しさを失っていないことがこの曲からもよくわかります。

「新宿駅のベンチでウトウト 吉祥寺あたりで ゲロを吐いて
すっかり 酔いも 醒めちまった 涙ぐんでも はじまらねえ」

このみっともなさとやるせなさ。
僕は北海道の札幌から小樽という港町にある大学に毎日電車で50分ほどかけて通っていましたけど、ほぼ毎日小樽でお酒を飲んでは吐いたり吐かなかったりした後に電車に揺られて帰っていたし、大学を卒業しても就職も出来ずに出来るかどうかも分からない夢を目指してフラフラしてたのでこの汚さとか情けなさはホントに他人事じゃなく身に沁みます。さすがに今はそんなひどい飲み方はしないですけど、大学卒業後東京へ出かけた時には新宿から吉祥寺に移動してこの曲を思い出してお酒を飲んだりしました。
「誰も気にとめないような情けない人」「お金が欲しくて働いて眠るだけの悲しい人」にフォーカスして歌ってくれることで清志郎だけは誰にも見せたくない弱く情けない自分に気が付いてくれているような、やるせない夜や、なにもかも上手くいかなくて泣き出しそうな夜に「もしかしたら清志郎もこんな気分だったのかな」と自分がひとりぼっちじゃないような気持ちにさせてくれます。そこが僕がこの曲を「優しい」と思う理由です。
RCサクセションの曲にもありますけど、まさに「君が僕を知ってる」っていう気にさせてくれる。

この1983年の武道館ライブの映像で僕が好きなのは4分20秒くらいでCHABOと清志郎が肩を組んで歌った後にCHABOがギターのボリュームをコントロールしながら弾いて泣いているような演奏をして、そこに清志郎の歌が乗る部分です。ここでいよいよ孤独感と感傷がマックスに高まってその後のクライマックスをさらに盛り上げます。

僕の好きな曲の傾向に「なんだかかなしい」っていうニュアンスがあることが多いのですが、この曲はその上に「やるせない」ところがすごく好きです。きっと僕自身がいつも自分の不甲斐なさにやるせなくなったり無力感で悲しくなっているからかもしれないですけど。まあ以前からそんなことを毎日思っていたけれど、最近は特に落ち込むことも多いかもしれません。ホント毎日くやしいもんな。

新しい環境に馴染めなかったり、友達が出来なかったり、恋人と別れたり、仕事でしくじったり、お金がなかったり、ゲロ吐いたり。そんなふうに年を取った先に

「最終電車で この町についた 背中まるめて 帰り道
何も変っちゃいない事に 気がついて 坂の途中で 立ち止まる

金が欲しくて働いて 眠るだけ」

と歌われるような人生もある切なさを清志郎はきっと自分の未来や現在、過去のこととして実感を持って歌っていたような気がします。
やっぱり悲しみを持っている人が優しい人だと僕は思う。
僕はそんな人が作る歌が好きです。

最後に個人的にこの曲のカバーとして完璧だと思うクロマニヨンズによる「いい事ばかりはありゃしない」を聴いてお別れです。


ホントは映像もすごく良かったけど削除されていたのでこちらを。これもそのうち消えちゃうかも。このカバーは清志郎が亡くなって二年後の2011年に武道館で清志郎とゆかりのあるミュージシャンが一堂に会した「忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー 日本武道館 Love&Peace」で演奏されたものです。確か奥田民生や斉藤和義も出てたな。クロマニヨンズはこの曲の前に「ROCK ME BABY」「ベイビー!逃げるんだ」とアップテンポのロックナンバーを演奏した後に、ガラッと曲調が変わって披露されたこの曲がもう最高に泣ける名カバーでした。

クロマニヨンズのボーカルのヒロトとギターのマーシーはブルーハーツ、ハイロウズ、クロマニヨンズとそれぞれの時期に先輩である清志郎のライブに参加していて30年来の付き合いで、ヒロトは清志郎と一緒にライブを観に行ったり2009年に清志郎が亡くなった時には弔辞を読んだりもしています。
清志郎が亡くなった時僕はちょうど高校の野球部の合宿の日で、宿泊先のホテルで見た朝のニュースでそのことを知ってすごくショックだったのを覚えています。

この曲ではヒロトのボーカルもマーシーや他のメンバーの演奏も本当に一音一音大切に鳴らしていて、すごく重みがあります。
そしてアレンジは今回ご紹介した武道館ライブを参考にしていて、マーシーのギターはめっちゃ泣いてます。ヒロトの清志郎リスペクトも詰まった優しくも力強いボーカルに乗るマーシーのコーラスも本当に全力で心が揺さぶられますし、二人の清志郎との思い出を全力で込めている感じがすごくグッとくる。
「最終電車でこの町に着いた」を「最終電車で九段下に着いた」と武道館がある九段下にアレンジしている所でそれまで静かに聴き入っていた観客から歓声が上がるところもすごくいいです。
これはもう真夜中にひとりで聴いてほしいな。

ということで「この曲がすごい!」第8回はRCサクセションの「いい事ばかりはありゃしない」でした。ロックって本当にいいものですね。またお会いしましょう。サヨナラ。

RCサクセション "いい事ばかりはありゃしない "
アルバム「PLEASE」収録

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