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[この曲がすごい!その7]くるり"東京"

こんばんは。今日は4月7日。コロナウイルスの感染拡大防止のために首相から緊急事態宣言が7都府県に出されました。
緊急事態宣言が出された地域の方も、それ以外の方も日々大きな不安の中でお過ごしだと思います。少しでも暇つぶしになればと思うので今後も音楽や映画、絵本などをたくさんご紹介できればと思います。みなさんつらい時は一人で抱え込まずに誰でもいいので声をかけてくださいね。もちろん僕でも大歓迎です。

さてさて「好きな一曲をただレビューする」コーナー。記念すべき第7回はこちら!くるりの大名曲「東京」!

いや~、やっぱり素晴らしいですね。
くるりのメジャー1stアルバム「さよならストレンジャー」より。

立命館大学の音楽サークルに所属していた京都府出身の三人で結成されたロックバンドで、アルバムごとに音楽性が次々変わっていくのでファンの中でも好きなアルバムがそれぞれ違うかもしれません。

初期のくるりの大学生感とか上京したて感は進学や就職で環境が変わっていく感じと故郷を離れてから新しい場所にも少し慣れて不安だけじゃなくてどこか倦怠感や憂鬱も覚えるようになってきた春から夏にかけてのすごく日本的な季節感と日常のつながりを感じられる気がします。

この曲「東京」はまだくるりがメジャーデビューする前の全然稼げていなかった時期に書かれた曲で、作詞作曲の岸田さんはこの曲を考えていた時は所持金と口座の残高の合計が500円くらいしかったそうです。

この曲で歌われるのは上京した後なんとなく故郷の誰かを想い出して、その「君」に電話したくなるけどうまく話せるかな、どうかな・・・みたいなすごく等身大で当時の岸田さんの心情が素直に出た歌詞だと思います。僕は大好き。

「東京の街に出て来ました」から始まる歌詞は「相変わらずわけの 解らないこと言ってます」「恥ずかしいこと 無いように見えますか」「駅でたまに昔の 君が懐かしくなります」と繋がれます。ここで歌詞の主人公がどんな人物なのか少し伝わってきて、きっと誰にも理解されないような夢について熱く語っちゃったり、変なことを言ってまわりを笑わせたり呆れさせたりしていたのかな?とか想像できます。そんな主人公が上京して、少し大人になってかつての自分と今の自分を客観的に見て少し呆れつつも「変わらない自分」を発見してなんとなく嬉しくなったり、懐かしく「君」を思い出している様子が浮かびます。
駅で思い出すっていうことは一緒に駅で電車を待ちながら通学していたのかな?とか「たまに」って言っているから「君」を思い出すのは一度じゃないんだなとか色々想像が膨らみます。

そして「雨に降られて 彼らは風邪を引きました」という歌詞は実際に雨に降られて自分以外のバンドメンバーの二人が風邪を引いてしまった様子を歌っているそうです。ここでは「相変わらず 僕は何とか大丈夫です」と歌われます。「君」と一緒にいて「僕」だけ風邪を引かなったことがあったのかな?とか想像できるし、なんとなく「バカは風邪を引かない」みたいなちょっと自嘲気味なニュアンスと「君」への「僕は何とかやっているよ」という報告にも聞こえてこの歌詞も奥行きがあるなあと思います。
「今夜ちょっと君に 電話しようと思った」という感情の高ぶりとともに曲の激しさが増し「君がいないこと」「君が素敵だったこと」が思い出されます。

「話は変わって 今年の夏は暑くなさそう」「相変わらず季節に 敏感でいたい」この歌詞は環境が変わっても子供の頃や上京前の学生時代から変わらない感性を持っていたいという気持ちと自分がアーティストとしてやっていける自信や根拠みたいなものを「季節に敏感でいること」に託しているような気がします。ただ、それがいつか失われていってしまう不安感も同時に感じていることがその後の「早く急がなきゃ 飲み物を買いに行く」という日常の中の焦燥感に繋がっていて、その焦燥感の中で「ついでにちょっと 君にまた電話しようと思った」と、つい君の声を聴いて不安を和らげたくなってしまう自分の弱さを「ついでにちょっと」という言葉で照れ隠しするこの感じ!
この感じからの!!!!

はい!!!ここ!!!
3分21秒の
「ガガッ!!! ガガッ!!!」

これですよ!これ!この曲のめちゃくちゃ重要なポイント!

これが聴きたくてこの曲聴いてんですよ。こっちは。(嘘です。全部好きです)
この「ガガッ!!! ガガッ!!!」っていうのはすごく90年代的というか。あちこちですでに何万回も語られていることですがこれはイギリスのロックバンドRadioheadが1992年に発表した大名曲「Creep」ですよね。
Redioheadのイギリスの憂鬱を引き受けたようなセンチメンタルな歌詞世界はきっと初期の岸田さんにも大きく影響を与えていて、自分の弱さや感傷、「君」への想いを正直に吐露する感じはすごく通ずるものがあります。
Redioheadはあまり詳しくないのですが、そのうちちゃんと聴きなおしてレビューしたいな。そしてポストパンク以降のイギリスのロックの中の憂鬱感とかについてもいずれ書きたい。joydivision~The Smiths~Redioheadへと受け継がれていく憂鬱感があると思ってます。
とりあえず聴いてみましょっか。

うーん。やっぱりこれも名曲だな。そのうち記事を書きます。
このゆったり始まってから激しくなる感じは90年代オルタナティブロックの「静から動」の感じで、ピクシーズやニルヴァーナ、スマッシングパンプキンズなどもこのカタルシスがありますよね。そしてやっぱりくるりはロックバンドだよなっていうことを再確認する。

この「ガガッ!!! ガガッ!!!」っていう引用があることで上京前にロック少年だった過去が見えてきたり、自己嫌悪むき出しのRedioheadの「Creep」を聴いて感情移入している内面の繊細さや弱さ、それと同時にその弱さや懐かしさを思い出すのはいつだって「ここにいない君」を思い出す時だっていう切なさを感じるんですよね。「ガガッ!!! ガガッ!!!」に。嘘じゃないよ。ホントに感じるんですよ。僕は。

そしてまた「君がいるかな」「君とうまく話せるかな」と歌われることで「やっぱりこの歌詞の主人公は君に電話をかけられてないのかな?」という感じが強まってきます。もしくは何度電話をかけてもそのたびにうまく話せないくて切なくなるんだろうなという感じ。
そこにはもう変わってしまった二人の関係性とそれでもまだあの頃の「君」を忘れられない感じがすごく伝わってきます。

最後の「君とうまく話せるかな」「まあいいか」「でもすごくつらくなるんだろうな」と「君が素敵だったこと」「ちょっと思い出してみようかな」には自嘲的でありつつどこか切なくなったり、もっと言えば楽しくもなっているような絶妙なニュアンスが出ています。そして思い出す「君」のことはいつだって「素敵な君」なんだろうなという切なくもあったかい空気で曲が終わっていきます。

いや~、何度聞いてもいい。
上京して寂しいけど「彼ら」がいたりと孤独感が少ないところは先日紹介したフジファブリックの上京ソング「茜色の夕日」と比較してみても作詞作曲した二人の違いが感じられてすごく面白いと思います。くるりのほうが先輩ですが、フジファブリックのギターボーカルの山内さんは志村さんが亡くなってバンドが活動休止になってしまった期間はくるりのサポートギタリストとしてツアーに参加していたり、志村さんも生前岸田さんと交流があってブラジル音楽の話などで盛り上がったりしたそうです。

この「東京」は数ある同じタイトルの名曲の中でも僕はもう何度もリピートしちゃうくらい好き。この曲も初めて就活で東京に訪れた時に聴いてました。結局僕は自分の街から出られてないんですけどね。笑

ということで「この曲がすごい!」第7回はくるりの「東京」でした。ロックって本当にいいものですね。またお会いしましょう。サヨナラ。
まだ夜は冷えるので風邪引かないようにあったかくしてくださいね。

くるり "東京 "
アルバム「さよならストレンジャー」収録

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