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[この曲がすごい!その9]bloodthirsty butchers "Story"

「好きな一曲をただレビューする」コーナー。記念すべき第9回はこちら!bloodthirsty butchersの「Story」

このコーナーの初回でブッチャーズの「7月」を取り上げたのですが、今回はナンバーガールの田淵ひさ子さんが加入後4人になったブッチャーズの名曲。

同じバンドはなるべく取り上げないでたくさんのバンドを紹介しようかなとも思ったのですが、最近はあまりに心がざわつくことが多すぎてだんだん自分自身の感情や感性が色んな情報に浸食されているような不安を感じてなかなか寝付けない夜も増えてきている気がします。今日ご紹介するのはそんな夜にオススメの曲です。

この曲は本当は優しい気持ちで過ごしたいのになんだかいら立ってしまったり、今目指しているものや見ている風景、憧れや感動が色あせてしまうんじゃないかっていう日常に対する焦燥や憂鬱とそこに必死で抗う魂があります。
なにもかも全部ぶっ壊したくなる時もあれば「違うんだこうじゃない」とため息をつく時もある。

ひさ子さんが加入して明らかにブッチャーズ(というか吉村さん)が変わったのが「歌」です。ひさ子さんの透き通るコーラスが入ったこともありますが、吉村さんがより「歌うこと」にこだわりを持つようになったのだと思います。
昔からのファンは初めはその変化にすごく戸惑っていたというのが僕が中学生や高校生の頃見ていたサイトなどのコメントでの印象でした。吉村さん以外の二人のメンバーも3人での演奏にすごくこだわりを持っていたバンドなので初めはアルバムの中に時折すごくいい曲がありつつもまだ少し4人でのバランスがはまりきらない感じもありましたが4人体制になってから3枚目、この曲が収録された「ギタリストを殺さないで」と次の「NO ALBUM 無題」でいよいよ4人のブッチャーズでしかありえない歌と演奏のバランスが生まれてきて、吉村さんが生前「最高傑作な音像」とコメントしていた「youth(青春)」でいよいよブッチャーズがさらなる進化を遂げた!という勢いでしたが、「youth(青春)」リリースの直前に吉村さんが病気のため亡くなってしまいました。そのことはすごく悲しかったし残念なのですが、ただブッチャーズは大名盤の「kocorono」のあとにこれまた大傑作の「未完成」というアルバムを作っていて、この「未完成であること」こそがブッチャーズの何よりの魅力であり最後まで吉村さんがこだわり続けた美学だと思います。そして亡くなる前から曲順が決まっていたアルバム「youth(青春)」の1曲目のタイトルが「レクイエム」っていうのも何か吉村さんの予感めいたものとか色んなことを考えてしまいます。
「レクイエム」の歌い出しは「人は死んだら消えて どこへ行くんだろう?」ですからね。

話は戻りますが、この「Story」という曲はホントにものすごい名曲だと僕は思います。
弾き語りでも成立するようなシンプルな構成で吉村さんが「歌を聴かせる」という意思を強く持って作った曲だという感じがします。
そしてもちろん演奏は抜群にいいのですが、個人的にはとにかく歌詞が好きすぎる。歌詞を読むだけで涙ぐんじゃう。

「目の前の風景が腐らぬ様必死なんだ」

この歌いだしは僕はつらい時や心がざわつく時、自分の中の何かが変わってしまいそうな時にいつも心の中で口ずさんでいるフレーズです。目の前の風景を「美しい」と思うのはあくまでも自分の心であって、それを腐らせてしまうのもやはり自分の心です。
その風景を腐らせないように必死でこらえる心情を思い浮かべるだけでもう胸がキュッと締め付けられる。

ダメだ。夜中に聴いてたら泣いちゃいそう。

とにかく、夕暮れ時や真夜中、悲しい夜を引きずった憂鬱な朝にそれでも歯をくいしばって生きている誰かに聴いてほしい一曲です。

この曲を聴くと感傷的にならざるをえないので、今日はここまで。

ということで「この曲がすごい!」第9回はbloodthirsty butchersの「Story」でした。ロックって本当にいいものですね。またお会いしましょう。サヨナラ。

bloodthirsty butchers "Story "
アルバム「ギタリストを殺さないで 」収録

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アルバムのジャケットは吉村さんとも親交があった日本を代表するアーティストの奈良美智さんの作品。吉村さん自身がカメラで作品を撮影したものを使っているそうです。めちゃくちゃいいアルバムなのですが自主レーベルから出たもので現在は廃盤。見つけたら多少値が張っても即購入するのがオススメ。

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