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そこで見た色について enogu 2nd Anniversary Live -Colors-感想


 2月16日、えのぐ2周年ライブ「enogu 2nd Anniversary  Live -Colors」は期待半分、不安半分といった雰囲気で開幕を迎えた。
恐らくその日をただ楽しさだけで迎えた人は演者、観客含めて誰一人もいなかったと思う。
12月の秋葉原での「えのぐに逢いに恋」でえのぐと出会い、えのぐを知り、その場で2周年ライブのチケットを買った時はこんな気持ちでライブの当日を迎えているとは思わなかった。それでもえのぐのこれからを知りたくて、これからを見たかったからその場に私はいた。


 アイドルのライブのオープニングといえばきっと想像されるのは明るいヒットナンバーやそのグループでの定番曲だと思う。しかしえのぐ二周年ライブはそういった常識を打ち破る重苦しい開幕だった
スクリーンに映されたのは電車から秋葉原駅へ降り、地下から雨の降る地上へ。ビニール傘越しに映る秋葉原の街並み。どこへ行くのだろう?
 そのうちに始まるえのぐ達の呟くような、話し合いのような台詞の数々。そこには「殴り合いの喧嘩をするくらいでも」「5人じゃないえのぐはえのぐじゃないって意見もきっとあるだろうし」というこれを聞いていてもいいのだろうか?とソワソワしてくるような気まずい会話。17日のえのぐのライブ感想によると「ガチのミーティング」だったという。
 そして映像が暗転するとそこには鈴木あんずが。続けて白藤環、夏目ハル、日向奈央と続いて左端にエレクトーンを弾く女性がスポットライトに照らされて始まる「栞」のバラードアレンジ。爽やかで力強い歌詞のはずなのにこれまでの、これからのえのぐに突き刺さるような印象を受けた。

「栞」が終わると先日引退が発表された桜子に関するえのぐのメンバーそれぞれの想いが語られた。そしてあんずから発せられたのは力強く、荒々しいこれからへのえのぐの夢を叶える為の覚悟の宣言。

 このライブでは「えのぐ」の覚悟をを強く感じたライブだったと思う。それはライブ感想配信でも語られていたし、普段のライブ以上に力強いアイドルのダンスや歌唱などパフォーマンスの隅々から伝わるライブだったと思う。

そこからは正しく王道のアイドルのライブだった。「絵空事」「ショートカットでよろしく」「YeLL for Dear」夜公演では「常夏パーティタイム」)短いMCを挟んで「ハートのペンキ」(夜公演では「Brand New Stage」)

どれも明るい、アイドルらしい元気な曲ばかりで昼公演と夜公演では荒々しい力強さだけでなくメンバーの声が弾んでいたり観客への煽りも増えていたような印象を受けた。

 不思議な事に、これまで歌われてきたえのぐの楽曲の数々の歌詞がこれからのえのぐへのエールに感じる瞬間がライブ中に何回もあった。
例えば絵空事の「大きな夢だって叫んでみたなら 明日は変わってゆくから
ショートカットでよろしく!の「感情とは体巡る血液よ
Brand New Stageの「泣けちゃうくらい 本気になれる
そういったえのぐがこれまで歌ってきた歌詞がまるでステージで歌う彼女達を後押しするようで、とても良かった。
最初のモノローグでも語られた不安や葛藤も打ち消すような力強さを感じさせる前半パートだったように思う。

「Brand New Stage」からはハルと奈央がステージに残り始まった「僕たちの青春ロード」

 本来の歌唱メンバーである3人ではなく2人で、しかし、一人分の立ち位置は空いたままで観客のサイリウムは緑と紫、そして黄色。この曲を自分が3人で歌う姿はついに見ることができなかったが、それでも客席から見ていてそれは綺麗な景色だった。


 続けてあんずと環による「君がいてくれれば」

 私はこの二人が歩んできた歴史をほんの一端しか知らなくて、それでもその長さだけは知っていて。だからだろうか、冒頭から今回のライブを引っ張っている印象のあんずといつも前向きでえのぐ全体を引っ張っている印象がある環がライブで歌うこの曲をはじめて聴いてえのぐのリーダーは「あんたま」なんだなぁと感じた。

 そしてMCを挟んで残り2曲が始まった。MCで「ラスト2曲です!」と言われた時には本当にライブが始まってから5分だけしか経っていないように感じていわゆる「体感5分」を恐らくはじめて体験した。それだけの熱量があるライブだった。そうして名残惜しいまま始まった「栞」

「栞」に関しては冒頭のバラードアレンジもあったが原曲の勢いよく、爽やかな曲は本当にライブによく合う。INSPIXのライブでは届けられなかった間奏の「ウォーウォーウォー!」というコール&レスポンスを直にえのぐに届けられるとあって周囲の声もどんどん回数を増すごとに力強く叫んだ。

 それから「Colors」
5人で迎えるはずだったの曲は5人で歌えなかった。それでも次の一歩を踏み出す為の歌。5人のえのぐを忘れる訳じゃないというあんずの台詞がじん、と染みた。
Vtuberの引退や休止、いろいろな考えがあるとは思うがそれは決して長い別れではあるけれど、死や決別ではないはずだと思っている。だからこそ、その台詞は本当に嬉しかった。「さよなら。それは別れの言葉じゃない」と停滞ではなく前に進み続ける為に歌い上げる歌詞は涙腺を壊すには十分だった。
そして口々に熱く自分達の夢を語るえのぐ達。はじめて聴いたはずなのにどこかで聴いた覚えがあると昼公演では思っていたが、夜公演を聴いていて思い出した。なんのことはない、それは岩本芸能社でのえのぐのプロフィールに掲げられているそれぞれの夢だった。

その頭上には白赤青緑紫、そして黄色に光るライト
それは5人では歌えなくても今だから歌うという決意とこれからのえのぐへのエールのように感じる本当にいい演出だったと思う。

 そして「えのぐ! えのぐ!」というアンコールを挟んでえのぐ達からの言葉。昼の部では冒頭のあんずにみんなが泣かされたと各々が話して会場の観客も笑いが溢れていた。
夜の部ではメンバーがそれぞれ個人的な話を交えてのトーク。昼の部ではハルからMCが始まったが夜の部ではあんずからMCが始まった。
 自分が何を出来るのか不安で仕方がなかった、ファンの存在があるから自分は舞台に立てている。という震える言葉はこの舞台の先頭を切って熱い歌声を披露していた姿とは打ってかわってどこか弱々しい鈴木あんずだった。それでもみんなで最高の景色を見たい、これからはファンと頑張って行きたいと声を張った彼女はやっぱり力強くて、かっこいいアイドルだった。
 MCで特に印象的だったのは2番手のハル。えのぐを追うのがつらくなった時は休憩してもいい、また見たくなった時に追いかけてくれればいいという言葉はこの2週間で磨り減っていたえのぐみの心には特に優しい話だったように思う。
 それからステージに立つことが本当に不安だったと語る奈央。彼女がえのぐに出会ったきっかけでもあり、その言葉はショックでそれでも彼女がTwitterで送られるリプライに応援を貰ったと話していてそれが少しだけ彼女をきっかけにえのぐに出会ってファンになった一人として嬉しかった。
 続けて語り始めた環もステージに立つことが怖かったと話し始める。そこにいた彼女が普段の前向きという言葉を全身で表現しているような彼女の印象とはまるで違っていて、ぼろぼろと泣く姿はきっと10代の高校生の女の子だった。それでも「この会場が埋められなかった」「三周年のライブでは会場埋めるぞー!」とずびずびの涙混じりに話す姿はやっぱりこれまで見ていたアイドルとしての白藤環だった。
Vtuber、VRアイドルは涙を流すことができない。それは演出の問題、技術面の問題、いろいろあるとは思うが本来は必要のないもの、という面が大きいのではないだろうか。だから彼女達が涙を流す時はいつだって泣き笑いだったりしかめ面だったり、泣き顔ではない表情で泣く。
 しかし、私はこの時、きっと涙で顔をぐしゃぐしゃにしている白藤環やえのぐのメンバーを見た。錯覚と言われても仕方がないと思う。それでも確かにえのぐが今日この日、見せてくれた景色の一つだと私は思っている。

「4人のえのぐの第一歩を目に焼き付けてください!」というあんずの力強い声からはじまった新曲「スタートライン」はエハラミオリさんというえのぐをずっと追いかけてきた人の曲。個人的にはエハラミオリさんの楽曲の一ファンでもある為この曲の発表がとても楽しみだった。イントロからこの人の曲だと感じさせる程とても印象的でこれまでのえのぐの曲にはないメロディがとても気持ちよかった。
余談だが、私はこの曲を昼の部で聴いた時とても既視感があって、それがすぐに同じくエハラミオリ作曲の「ツバサ」とよく似ているのだと気がついた。


それは同じ作曲者のメロディだから、とかそういった話ではなく雰囲気とも言うのだろうか。苦しんだ過去は捨てずに積み重ねた過去のまま額縁を飾る次のスタートラインへと歌い上げる「スタートライン」、一瞬を照らした心音がぼくらの夜になると歌い上げる「ツバサ」。
どちらも過去を捨てずに受け入れる強さを持った曲だと思う。もし聴いた事がないなら是非この曲も聴いてほしい。

そしてラストを飾るのは「えのぐ」

スタートラインで飾られた額縁に描かれるえのぐ、という意味合いにもとれて最新の楽曲と自分たちの名前を冠する楽曲を歌い上げるというのは歌詞にもある通り、正しく「どんな未来でも形にできる 真っ白なキャンバス」で本当にライブの終わりとして素晴らしい選曲だったと思う。彼女たちの楽曲の中でもいっとうに好きな曲というのもありこの曲でライブを締めてくれたのが本当に嬉しかった。

最後にあんずが叫んだ「これからもえのぐを信じて付いてきてくれますか!?」という台詞には全力で応えた。それはアイドルとしての偶像性や崇拝性というだけでなくこの2周年ライブを見届けた人達がきっと全力で叫んでいたと思う。

ライブの後、現地では会場の外でえのぐ達からのお見送りがあった。それはINSPIXで開かれている定期公演でも開かれているもので、会場から出た後にえのぐのみんなが笑顔で手を振ってくれていてサイリウムを降ると反応をしてくれる子もいた。そこに最後までファンを楽しませるというアイドルの矜持を見て、「この人達はアイドルなんだなぁ」と本当に安心して会場を後にした。


アイドルってなんだろう、きっと10人いれば10人の声が、100人いれば100人の声があると思うし、それは単語をVtuberというジャンルに置き換えても同じだと思う。文脈はまだまだ広がり続けるだろうし収束する事もないだろう。

僕にとってのアイドル。今この時点で抱くアイドル像というのはきっと、現実にいながらにして、手が届きそうで届かない存在である。
引用(https://ddnavi.com/tokushu/232986/a/)


それでも、「えのぐ」達はVtuberならぬVRアイドルとしてステージで輝いていた。5人のえのぐを推す事はできなかったけれど、12月に4人のえのぐと出会ったからこそ、このライブで彼女達の言葉を受け止めたからこそ、これからのえのぐを応援していきたいな、と思っている。

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