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思っていたよりも

少し仲良くなった人がいた。
何回か出かけたし、飲みにも行った。
楽しかったし、気を負わなくていいから楽だった。利害関係もなくてただ楽しく話をできる関係だと思っていた。

どうやらその人とはあと数ヶ月したら会えなくなるらしいと知った。

心がザワザワした。嘘だと思った。
動揺して10分くらい仕事が手につかなくなった。

その日していた約束は守ってくれたし、また行こうと言ってくれたけど、もうこういうことはないのかもしれないと、帰り道のホームで泣きそうになった。

暗くならないように、いつも以上に茶化しながら話をした。
もうしばらくしたらこんなふうに気軽に話せないんだと思って、初めてこの人に対して少しでも好意があることを自覚した。

所詮は他人だけど、いつでも会えるしなって思っていた。それが日常だった。でも、日常ではなかった。
本当に所詮は他人だったのだ。ただ同じタイミングで同じ地域に居ただけの人だった。
繋がりがなければもう2度と会えなくなるのだと思った。

この人ともう会えなくなる、軽口を叩けなくなる、茶化したりバカにされることがなくなる、もう一言も話せなくなる、そう考えるといつもは優柔不断な自分の心が、明確に、はっきりと、それは、嫌だ、というのだ。

期待をするな、期待したら負け、何もない、何も起こらない、ただ喋って楽しいだけって言い聞かせていたのに、まだ喋りたい、話をしていたい、馬鹿なことをして笑っていたいと心の底から思ってしまう。

この気持ちを伝える勇気もない、でも何もしないとこのままもう2度と会って話せなくなる、どちらも辛い。

学生時代ぶりにこんな気持ちを思い出した。
自覚してしまった。
それはしばらく忘れていて、思い出したくない気持ちだった。
思い出したらいけない感覚だった。

八方塞がりだ。

思っていたよりも、私は相手を好いていたらしい。普通に話して、チャットして、バカにして、茶化して、からかって、軽口を叩いて怒られて、そんな日々だったのに。

自覚なんてしたくなかった。
自覚したら今までの通りに話せなくなる。
今まで通りがよかった。
変化なんて来なくてよかったのに。

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