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俎板の上

そうしてまた悲鳴にならない
悲鳴が飛び交う市場の賑わいのなか
売り買いされるものをみつめる

切り刻まれるのは
爼上に挙げられた
言葉が指さす人たち

他人の顔をしているが彼らが
彼らのためにつくりあげた食材だ
誰もが無意識に人を捌いている

市場の賑わいが
それぞれの戸口に
呑まれていく夜に

俎板の上で私も誰かを切り分けていく
耳を削ぎ鼻を削ぎ平らかにして半分に
切り分ける、眼輪筋が美味しいよ
眼玉がぐるん、と後ろを向いた
みていられない? お前は私なのに
顔は悪いけど髪だけはとても
艶やかと撫でたのは誰の手?
もう忘れてしまったんだ、と
切り分けておいた唇が耳に囁いて
鼻がすん、すん、と細く筋ばった
指の先を嗅いでいる、指輪はどこに
やったんだっけ?

テーブルの上には僕や
君や私やあなた、全て私から
作られたのになんて多種多彩
骨灰磁器の上、活き造りの
唇から指輪がはみ出し

私は私たちで食卓を囲んで黙々と
食い尽くしていく、綺麗さっぱり

骨灰磁器はしまい込まれ私という
私たちも、棚や冷蔵庫、冷凍庫に
収まっていき、灯りが吹き消される

テーブルの下で膝を抱えて眠る私の
指にそっ、と指輪が嵌められて
また私、は生まれ始める、次の
食卓のためにテーブルを磨き
花を飾りゴミを捨て戸口に立つ
捨ててしまいたい指輪を光に透かして
また市場へ、また市場へ、そっ、と
俎板の上を爪弾くようにつま先で歩く

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