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車窓

青山真治監督の『EUREKA ユリイカ』を観るために、いつもと反対方向の電車に乗る。
昼間の電車は朝の時間とちがってキリキリしていなくていい。

大学生のとき、往復4時間もかけて通った道。
ぼーっと外を眺めることが人より得意だったのかもしれない。
進行方向にむかって右手の景色がとくに好きだった。
今日も右側を眺めていた。

田植えを終えた田んぼには水がぴたっとはってあって、青空をうつしていた。
工事が終わって新しい工事がはじまっていた。
この川のところで魚が跳ねるのを見たなーとか、ここ一瞬だけ観覧車見えるんよなーとか、時々思い出した。

映画館に行くということは、その行く道も帰る道も含め、私の心持ちを少しだけ明るくしてくれる。

『EUREKA ユリイカ』。
傷が、傷によって癒やされていく瞬間を目撃したんだと思う。
心の奥底の、だけどいつでもすぐとり出せるところに突き刺さった。
まだ言葉にならないことが心の中をうようよしている。
うようよ。という言葉がぴったりな状態だ。
数多くない一言一言に心動かされるけれど、それ以上に、言葉をこえた互いを想う姿に涙が出た。
終わりとはじまり、絶望と希望、生きることと死ぬこと、、相反する二つがずっと共存しているように思った。

生きることと死ぬこと、生き残ること…。
傷を抱えながら生き直そうとする人たちの姿には、簡単に背中を押すことなんてできないほどの痛みや哀しみを感じるけれど、その姿に救われている自分もいた気がする。
どこまでも続く、広大な景色が忘れられない。
彼らは窓の外を流れるその景色に、一体何を見ていたのだろう。

うようよ。まだずっと考え続ける。

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